年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班

奇術師

奇術師
【ハヤカワ文庫FT】
クリストファー・プリースト
定価 987
円(税込)
2004/4
ISBN-4150203571


  岩井 麻衣子
  評価:A
   自分の分身の存在を強く感じていたアンドルーが呼び出された洋館。家主の女性に、彼の曾祖父は瞬間移動を得意とする奇術師で、自分の曾祖父とライバルだったのだという話を聞かされる。彼らの曾祖父たちはある事件から、いがみあいがはじまり、ついにはお互いの人生を狂わせる関係になってしまったらしい。奇術「瞬間移動」のタネと、アンドルーが感じる分身の存在がどう結びついていくのか……。最後まで予測のつかない展開が広がる。小説の形をとったイリュージョンというところである。惑わされ、どんでん返しがたくさんあって、最後にはおなかいっぱい、もう勘弁してくれ状態。ちょうど、イリュージョンを観たときのように頭の芯がぼーっとしてしまった感じだろうか。知力、体力ともに充実しているときに読むことをお勧めする。タネを明かしてやろうという人は、手品の細かい描写にやられないように。大切なことを読み落とす可能性アリである。

  藤本 有紀
  評価:C
   奇術のイメージを文字から喚起するのに想像力を求められることと、一度ボーデンによって語られたことが次にエンジャ側から語られることで真相が見えてくるという構造のおかげで、面白いと思えるまでが長いように感じられるのが難だが、ぜひ最後まで読んで欲しい。ひょっとしたら途中で放り出してコーヒーをぐるぐるかき回していたり、あるいは同じところをずーっと読んでいたりすることがあるかもしれないが、二人の奇術師それぞれにとって最高のイリュージョン〈新・瞬間移動人間〉と〈閃光の中で〉に注ぐ熱狂と、相手のトリックを知りたいと願う狂騒が、「たかが手品」に魅せられた男たちの悲しみと感じられるのは、かなり終わりのほうだから。ラストの不気味さは最後まで読んだ人へのお楽しみ。