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荊の城

荊の城(上下)
【創元推理文庫】
サラ・ウォーターズ
定価 987
円(税込)
2004/4
ISBN-4488254039
ISBN-4488254047


  岩井 麻衣子
  評価:AA
   ロンドンで犯罪者たちに育てられ、自分もスリを営むスージー。ある日、「紳士」と呼ばれる詐欺師が、城に住むお嬢様を騙して財産を奪いとる計画をスージーに吹き込む。母代わりに育ててくれたおばさんにラクをしてもらうため、スージーは城に女中としてもぐり込むが……。どこに感情移入してもそのうちどん底に突き落とされてしまう、荊の城という名前にふさわしい、暗い闇が広がる小説である。ミステリ話をベースに、二人の少女の愛の物語が挿入される。友情というよりはなにやら怪しい雰囲気が漂うのも荊の城にはよく似合う。物語は2転3転する。そのたびに翻弄され、いったいどうなっていくのか息をつくひまもない。石畳を騒々しく走る馬車や、ひっそりとたっているお城など、日本人がイメージするヨーロッパの姿が目に浮かぶような描写が見事。話はどろどろだが受ける印象はとても美しい。

  藤本 有紀
  評価:B
   何重もの計略が見えてくるたびに、心臓がぎゅっと掴まれるような恐さを感じること必定の本格サスペンス。田舎の令嬢を騙して大金を手に入れる計略を練る詐欺師のリヴァーズには、侍女として屋敷に入りこむ少女が必要だった。ロンドン下町の裏稼業夫婦に育てられたスウは、育ての母サクスビー夫人に報いたいという真摯な思いで、この役を引き受ける決心をする。
 「ねんねの鳩ぽっぽ」モード嬢を騙すのは簡単なように思えたが、すれっからしかと思えば情の深いスウが、次第に心を通わせるモードを陥れることを逡巡し、計画が遂行されるや否や……、というハラハラの第一部には信じられない幕切れが用意されている。第二部はモードの驚くべき生い立ちが明かされ、第三部でスウを待ち構える運命に驚愕し……。もうこれ以上は書けない。ブロンテ顔負けの迫力満点の天候、城を支配する妖しさ、公開処刑の残忍さなどに彩られたスリルを堪能してください。