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勝手に目利き
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アッシュベイビー
アッシュベイビー
【集英社】
金原ひとみ
定価 1,020円(税込)
2004/4
ISBN-4087747018
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  川合 泉
  評価:B
   作者は、この作品で醜いものの中にある美しさを表現したかったのではないだろうか。自分を傷つけることを止められないアヤ。赤ん坊を犯すことに快感を覚える同居人・ホクト。自分の感情のままに生きる人間は、果たして幸せになることが出来るのだろうか。「蛇にピアス」と同じくらい、いやそれ以上の衝撃がこの作品には潜んでいる。
 作者の感性についていこう、理解しようと思いながら読み進めたのですが、正直、嫌悪感に襲われました。読後、濃厚なエキスを飲んだような、そんな感覚を覚えました。この小説は、評価の二分する作品だと思います。読んで打ち震えるか、後悔するかはあなたの感性次第です。

 
  桑島 まさき
  評価:C
   全体的に前作同様、性描写が多く、かなりエロっぽいので「情痴小説」の趣が強い。きわどい表現が多く、読者は受容と拒絶の両方に二分されるだろう。キャバクラ勤めのレナ(本名:アヤ)は男のルームメイトがいる。男遍歴が激しく誰とでも寝る。一日中セックスのことばかり考えているような女だ。ヤル気もなく仕事をし、情欲がうずくとてっとり早く相手を探す。その上、自傷行為に及ぶ。刹那的な、あまりにも破滅的な生き方だ。
 心は常に飢えている。何かを探している。所々、主人公の心の声が独白体で語られる。人間関係なんてなすがまま、垂れ流しでいいと思っていたレナは“心地よい人生”を送るという課題を持っているが「村野さん」という男を愛し、切ない気持ちを味わう。結ばれて簡単に紙の上での結婚を成就させるが、愛する男との距離を縮めることができない。自分を〈殺し〉てくれない限り幸福に浸ることができないのだ。
 死ぬなら愛する男の手によって…という願望はわからなくもないが、その前にレナはもっとしっかり生きるべきではないのか? そればかりが気にかかった。

 
  藤井 貴志
  評価:D
   これは賛否両論だろうなあと思った。現代社会に潜む歪んだ性や風俗を描いているのだろうが、読み手としては「それ以上の何か」と求めてしまう。書き手が芥川賞作家で「時の人」であればなおさらである。その点では、僕は「う〜ん……」と感じたクチだ。
 主人公のルームメイトが異常性愛者であることが露呈する場面も、効果的な伏線が張りきれていないため、どうしても唐突な印象をぬぐえない。なぜ、彼のそうした異常性が描かれているのか、作者は何を伝えたいのか、まったくわからなかった。また、主人公が村野という男性との出会いをきっかけに、自分をどんどん壊していく過程はこの物語のクライマックスだが、この村野という男の存在意義と役割が最後まで見えてこない。
 物語の中心にあるのが「心の闇」といえばそれまでだが、非日常的な衝動によって登場人物を操っていくことが行き当たりばったりに感じられ、ストーリーには何の必然性もメッセージも感じられない。これが日記の類ならそれもありかもしれないが、物語としては味わえない。とはいえ結果的に最後まで一気に読まされたのは作者の筆力なのか……。

 
  古幡 瑞穂
  評価:C
   『蛇にピアス』も触らずにこっそりすり抜けてきたけど、ついに年貢の納め時。覚悟を決めて読みましたよ。
 まず倫理観念がずれることに耐えられない人には絶対オススメできない作品です。出てくる人物たちそのものに様々なメタファーが織り込まれていて(きっと)、それを読み解くことに大きな意味があるのでしょうが、生理的に受け付けられなければそこの楽しみを追求するなんてとてもとても。
 スタートの段階では、比較的穏やかな恋愛模様が予想されていたのですが、主人公が村野を愛し始めたあたりから加速度的に人々が壊れ出すのです。きちんとしていそうだった同居人のまで単なる変なやつになっちゃってるし…きゃー嫌ぁー誰か普通の世界に残って!と、心の中で叫びながら読み続けていましたよ。
 村野がアヤをきちんと受け入れたり、拒絶したりしたら彼女は壊れなかったんでしょうね。村野のことを考えたときの彼女の無常感は痛いくらいに理解できました。

 
  松井 ゆかり
  評価:C
   食欲減退&不快指数上昇。私がこの本を読んで得たものだ。
 金原さんも「ハートウォーミング」などと形容してほしいわけでもないだろうから、こういった反応はある意味作者の狙い通りだろう。「アッシュベイビー」という小説について自分に言えることがあるとすれば、グロいのが好きだったら読んだらいいし、苦手だったら避けた方がいいかも、ということだけだ。
 綿谷りささんとの芥川賞同時受賞がどれほどのブームであったかを思い知らされた事件があった。私の母(60代・現役デパート勤め)が「蛇にピアス」を買うと言い出したのだ。私が持っていた「蹴りたい背中」を母が持ち帰り、「蛇」が私の元に。数週間後、「なんかもの足りない」の感想とともに「蹴りたい」が戻ってきた。さすがは「あんた、『風とともに去りぬ』も『戦争と平和』も読んでないの?」などと嫌みを言う元文学少女だ。「まだ読んでないから」と、「蛇」は私の手元に置いたままだ。返すべきか…。黙って返したら、友好な親子関係にひびが入りそうだが。

 
  三浦 英崇
 

評価:E

   小学生の子供が、大人の注意を引くべく、わざと下品な言葉を大声で騒ぎ立てたりすることがありますよね。私にとって、この作品で繰り返されている、直接的な破壊衝動の発露なぞ、所詮は「ガキの奇声」と同レベルでしかありません。
 感情移入を全く不可能にした主人公によって引き起こされる不快な事態、というのは、初めて読んだ時には、確かに、読者にそれなりのインパクトを与えることができるかもしれません。しかし、同じパターンを繰り返していくうちに、人は必ずその刺激に慣れてしまうものなのです。
 この作品では、ダメ女が、感情をどこかに置き忘れてきた男の気を引こうとして、狂気に陥っていく過程をメインに据えて描いている訳ですが、その陥り方があまりに真っ正直過ぎて物足りません。かなりキツい表現になって申し訳ないですが、私はこの作品の何を評価していいのか、いまいちよく分かりませんでした。