年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班

百万の手
百万の手
【東京創元社】
畠中恵
定価 1,785円(税込)
2004/3
ISBN-4488017029
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン

 
  川合 泉
  評価:B
   不審火により亡くなった親友・正哉。打ちひしがれる夏貴の元に聞こえてきたのは、携帯電話から聞こえる親友の声だった。正哉の助言を受けながら、事件の真相解明に乗り出す夏貴。そこに、母の婚約者・東も加わって、事件はあらぬ方向へと展開していく。
 ここで明かせないのが残念ですが、物語の中盤で衝撃の事実が明らかになってからは物語の方向性が一気に変わり、ぐぐっと引き込まれます。現実的ではないながらも、起こりえるかもしれないと思わせる作者の筆力に完敗!夏貴と東の親子関係が育まれていく過程も見ものです。この「ミステリ・フロンティア」シリーズは、どれも大作ながらサクサク読めるものばかりなので今後も期待したいです。

 
  古幡 瑞穂
  評価:B
   自宅の火事に巻き込まれた友人の魂がケータイ電話に宿った!ということがとっても大きい意味を持つのかと思ったら、そうでもない。もちろんその火事にはとあるすんごい陰謀が絡んでいて、友人の敵を討つために立ち上がった主人公も実はその渦中の人物だったりして、謎が謎を呼び死体が増えつつ物語が進みます。しかも同時に主人公には元ホストの義理の父ができるなど、家庭にも動きがあってそのあたりの心の揺れ動きを書いた青春小説的な一面もあります。
 前半はこの友人の魂との二人三脚で事件調査をしていくのですが、とある事件をきっかけに二人三脚相手が交代するのです。扱っているテーマがあまりに重いから子どもの手には負えなくなったのかな?と私は感じたのですが、どうなのでしょうか?突っ込みどころは満載ながら、後味は悪くありません。特に義理のお父さんと心を通じていく過程が好きだなぁ。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   読んでいて受ける印象は終始変わらないのに、主人公たちを取り巻く背景はどんどんどんどんスケールが大きくなっていく、不思議な話。
 主人公夏貴は、「少年もの」が好きな方ならぐらっとくるタイプだろう。さすが作者が漫画家出身だけのことはある(といっても、残念ながらどんな漫画を描かれているのか存じ上げないのですが)。ときに挫けそうになりながらも、まっすぐな目を持った少年だ。夏貴の親友正哉もいい。実はすでに亡くなっていて、携帯を通して声だけでこの世界とつながっている、という設定だが。夏貴の母が再婚しようとしている東(少年ではないが)も魅力的で、彼の存在がこの物語の救いになっていると思う。
 ミステリーとしては、どんでん返しもあるのだが、あんまり意外という感じはしなかった。いかんせん、結末以前に話が大きくなり過ぎた感が…。でも潔さを感じさせる小説で、とてもよかったと思う。

 
  三浦 英崇
  評価:E
   青春小説であり、本格ミステリでもあり、SFでもある小説。先月の書評にある「さよならの代わりに」(貫井徳郎)も、三つの要素を巧みに融合させた傑作でした。しかし、残念ながらこの作品は、各々の要素を十分生かしきることができず、どのジャンルの小説としてみても、がっかりな出来だと言わざるをえません。
 青春小説としては、主人公の少年・夏貴の性格があまりに短絡的で、感情移入できませんでした。ミステリとしては、真相があまりにも安っぽく、犯人は「意外」ではあったけど、騙されて痛快、というより「どこから来たんだあんた」という腹立たしい意外性。トリックも早い段階で見当がつきますし。SF要素は、昨今話題となっている生命科学技術の倫理性を絡めてはきているものの、きちんと消化できておらず、唐突な印象が否めません。
 魅力的な要素を散りばめているのに、中途半端にしか使えてない印象が強く、評価もおのずと低めになってしまいました。