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キャパ その戦い

キャパ その戦い
【文春文庫】
リチャード・ホイーラン
定価 620
円(税込)
2004/4
ISBN-4167651408


  岩井 麻衣子
  評価:C
   戦争写真家ロバート・キャパ。その青春と死にはさまれた3部作の真ん中にあたる一冊である。戦争写真家として人生をスタートさせたキャパが世界を渡り歩いて行く姿が描かれる。目の前で起こっていることではなく、写真や記事だけでは、私たちは何が真実なのか確かめるすべもない。本書でもキャパやマスコミの人間は、よりドラマティックに戦争を世界に配信している様が描かれる。しかし、戦争が起こっていることはまぎれもない事実であり、キャパにより私たちは戦争を知る。最愛の女性を戦争でなくしながらも、戦争の写真しかとれなかったキャパがせつない。本文中に「彼は自分の写真が戦争を終結させたりすることができるなどという幻想は抱いていなかかった」という表記があるが、思いあがらず、ただ自分の観た真実を自分の言葉で伝えることに情熱を燃やしたキャパだからこそ、後世に残る写真を残せたのではないだろうか。伝説の戦争写真家の素顔が垣間見られる一冊。真実とは人によって違う。情報をさらに自分の中で再構築することが大切なのだと考えされられた。

  斉藤 明暢
  評価:B
   高校生の頃は写真に凝っていたせいもあり、当然キャパの名前は知っていた。とはいえ、戦場カメラマン伝説の象徴みたいな人だが、実はいくつかの印象的な写真を見たことがあるだけで、本人に対する知識はあんまり無かったのだった。
 50年以上前の当時であれば、ジャーナリズムとか報道とか真実といった言葉の意味や重みは、いまよりずっと純粋で大ざっぱでマイナーだっただろうし、それに関わる人々も、現在と同じかそれ以上に俗っぽい人たちだったのではないかと思う。
 そして、没後にそういった輝かしい何かの象徴みたいに祭り上げられた人たちが、実際にどんなことを考えていたかは、現在の価値観と雑多な情報にまみれた人達が知ることは難しいのかもしれない。たぶん何十年も過ぎた今でも当時の人と同じように、世の中の大多数の人は、目にした写真から感じることを、そのまま信じてしまうことの方が多いのだろう。

  竹本 紗梨
  評価:A
   戦争写真家ロバート・キャパの伝記。ブダペストで生まれたバンディ・フリードマンがいかにして世界一有名なロバート・キャパになっていったかが、細かく綴られている。この「キャパ その戦い」はシリーズ2作目で、最愛の女性ゲルダとの別れから、ますます名声を得ていく過程のくだりだ。沢木耕太郎が翻訳したということもあり、一文一文味わって読んだ。翻訳に関しては不慣れな彼が、多少ぎこちなく訳しているが、本書の面白さはただ圧倒的なその人生。感傷が入り込まない、その生きる姿に引き込まれる。最終作の「キャパ その死」はまだ手が出せないでいる。

  平野 敬三
  評価:B
   「世界最高の戦争写真家」と言われるロバート・キャパの真実を詳細な取材と豊富な証言を元に描き出した力作ノンフィクション。そういえなくもないが、本書に相当の「悪意」を感じるのは僕だけだろうか。一般的にキャパのイメージはかなり善の方向に傾いているのは確かで(僕もなんとなく偉大なカメラマンという程度の認識だった)、それを覆していくには必要な手順なのかもしれないが、とにかくキャパの発言や著作や作品がいかに信憑性に欠けるかを追求していくことに最も比重が置かれているのは間違いなく、なんだか怨念めいたものすら感じてそれがけっこう面白かった。なんか田口ランディ贋作疑惑!?みたいなノリが漂っているので、邦題とか表紙のデザインとか、ちょっと本文と方向性が違うような気がします。

  藤川 佳子
  評価:A
   ものを知らないこの私、実はキャパの存在をしったのもつい最近のことなんです…。そんな私でも銃に撃たれた瞬間の兵士が留まっている「崩れ落ちる兵士」の写真ぐらい、まぁなんとか知っており…。それがなに、贋作!? ホンモノ? ヤラセ? どっちにしても良い写真だと思うけど…。
 戦争写真家として徐々に名声を得ていくキャパの姿が描かれています。戦争やジャーナリズムというものを、もう一度よく考えてみたくなる一冊です。

  藤本 有紀
  評価:B
   写真ジャーナリズムというものが戦争報道とともに発展してきたのだろうということは想像に難くないわけだけれど、20世紀は戦火の中にロバート・キャパというフォトジャーナリストを産んだ。朝日新聞5/31夕刊の〈キャパが撮ったカラーの戦争〉という見出しの記事によれば、キャパは生涯に7万点以上の写真を撮影したというが、没後50年にして未発表の写真がニュースになることが、報道写真家キャパの偉大さの証左にほかならない。時代の申し子とでもいうべき存在に駆け上がっていくキャパの青年期がつづられた本書。大ニュースをつかもうと東奔西走し、恋愛に苦悩するキャパの生き様は、シンデレラストーリーのようでもあり、キラキラとまぶしい。また、しばしば意図的にキャパが写真とキャプション(または記事)をズレさせていたという事実に対する、原著者と訳者による「通り一遍でないキャパ評」が読めるという意味でも興味深い伝記だった。

  和田 啓
  評価:A
   伝説の戦争カメラマン、ロバート・キャパの決定的評伝にして沢木耕太郎の翻訳とくれば面白くないはずがない。
 本書は三部作の中篇、スペイン内戦から恋人ゲルダの死、彼の写真家人生の最高峰と賞されたノルマンディ上陸作戦従軍直前までを描いている。ハッキリ申し上げるが、読むなら文庫はよしなさい。ハードカバーで読むべきです。キャパの面白すぎる破格の人生は小さな字で読むには似合いません。また当然ながら三部作の頭から読むべきです。ブタペストでの生い立ちからその劇的な死までを丹念に追うべきです。
 傑作の誉れ高い写真と比肩すべきは彼の人生そのもの。男女問わずもてる人的魅力。硬骨漢にして類稀なるウイットとユーモアを持ち、世界の戦場を命かながらカメラ一つで走り回り、絶世の美女バーグマンとも恋に落ちる伊達男ぶり。
 妖気発するその眼光は吉行淳之介、最近ではやはり作家の村松友視を彷彿させる。