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勝手に目利き
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輪違屋糸里
輪違屋糸里(上下)
【文藝春秋】
浅田次郎
定価 1,575円(税込)
2004/5
ISBN-4163229507
ISBN-4163229604

 
  古幡 瑞穂
  評価:B
   恥ずかしい話ですが、新撰組のことをほっとんど知らないんですよ。だったらTV見ればいいじゃん…と思って大河ドラマの1話目にチャレンジしたんだけど、チャレンジで終わっちゃったし…ちなみに『壬生義士伝』も未読。そんなレベルの私です。
 こちらは“芹沢鴨暗殺事件”にスポットを当てた作品です。この芹沢鴨が突如島原の大夫を斬って捨てるところから始まるので、悪役としてのインパクトは抜群。理不尽とも思える芹沢の傍若無人ぶりに憮然とさせられ怒りさえ覚えるのですが、周囲の人の評価はそう定まってもいません。特に女性の視点で見ることで初めてわかってくる彼の本当の思いがあったところが感銘ポイントでした。読み手の問題なのでしょうが、浅田さんの作品を読んでいると「どこで泣かされるのか?」がずーっと気になってしまいます。確かに巧かったのですが今回は脇役が光りすぎて主人公にイマイチ肩入れできず泣き損ないました。そこがちょっと残念なところです。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   大河ドラマの題材ということもあって、世は新選組ブームのようだ。
 三浦しをんさんがエッセイで何故女子は中高生時代に新選組と三国志を好きになるのかいう趣旨のことを書いておられたが、これは一般的な認識なのだろうか。確かに三国志は好きな方だが(諸葛孔明さま!)、新選組に関しては近藤・土方・沖田の名を知っているくらいだし、しばしば忠臣蔵と話がごっちゃになってしまう私だ。
 新選組と浅田次郎、ともに日本人の心をがっちりとつかむと思われるキーワード。しかし私はどちらについてもビギナーである。期待と不安を胸に読み始めたわけだが…うーん、読ませる話だったと思うが、新選組にあまり思い入れがない人間には若干敷居が高かった。「いちげんさんお断り」みたいな。基礎知識がないことだけが理由でもないが、「なんなの、この芹沢って嫌な奴は」とか、そういうところばかり気になってしまった。

 
  三浦 英崇
  評価:A
   現在、我々が抱いている「新選組」に対する思いの大半は、司馬遼太郎の「燃えよ剣」と、かの作品に影響された数々の後継作によるものだと言っても過言ではないでしょう。私自身も十五の夏にこの作品を読み、しびれた挙句、幕末維新のゲームを作りたくて企画屋になった過去があります。
 とは言え、司馬史観が「男の一生は、美しさを作り出すためのものだ。自分の」という台詞に象徴されるように、かっこ良さを貫くあまりに、偏っていることも確かです。だから、時にはこういう作品を読んで、平衡を保たねばなりません。
 この作品には、我々の知らなかった近藤勇が、土方歳三が、沖田総司がいます。そして、彼らを主人公にすれば、必ず邪悪な敵役として描かれてしまう芹沢鴨。彼は本当に、ただの酒乱の狂犬だったのでしょうか?
 真相は歴史の闇の中。この作品は、闇を照らす一条の光。彼らのことが好きならば、必読です。彼らのことが嫌いな方でも、是非。