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勝手に目利き
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ザ・ビッグイヤー
ザ・ビッグイヤー
【アスペクト】
マーク・オブマシック
定価 2,415円(税込)
2004/6
ISBN-4757210396
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  桑島 まさき
  評価:B
   面白い大会があるもんだ。北米大陸で1年間に見つけた鳥の種類の多さを競う実存する探鳥コンテスト…「ザ・ビッグイヤー」。北米大陸は広い。移動するには飛行機や船や車が必要だ。経費もかかる。珍しい鳥が生息する地域は危険な場所が多い。会社勤めなどしていては無理だ。それでも探鳥家たちは、仕事も家族もほったらかし挑戦する。長期戦だからフツーのことをしていたらライバルに負けてしまうので、駆け引きや作戦が必要だ。それでも鳥に憑かれた男達はこのバカバカしくも男のロマン溢れるコンテストに参加する。本作がフィクションではなくノンフィクションだから驚きは倍増する。
 エルニーニョ現象によって普段お目にかかれない鳥が確認された98年の北米を舞台に、コンテストに参加する3人の男達の物語が克明に描かれる。鳥や北米の地名をしらないとウンザリする向きもあるが、北米珍旅行記として、鳥の百科事典として楽しめる。

 
  古幡 瑞穂
  評価:B
   『失われた昭和』の感想で“一つのことに一生懸命な人というのはその存在だけで感動をつくりますね。”などと書きましたが、やっぱり撤回。こんなことを書いたら怒る方がいらっしゃるかもしれませんが、この探鳥家たちの懸命さはどこかバカバカしいのです。広大なアメリカの地を飛び回りとにかく鳥を見つける。というこのバードウォッチング競技会。そもそもこういう会があることも初めて知ったのですが、探鳥家たちは名誉(意地?)のためだけに命がけ(お金もかかるけど)で全国各地を飛び回ります。しかもこの本がすごいのは著者がこの競技会の模様だけでなく、参加した人々の生活や歴史にまで踏み込んで書いているところです。だから妙な深みがあるの。
 と書いている今も、蚊に喰われながらじーっと鳥を待ち続けている人がいるのかもしれないな、などと思うとなんだか不思議な気持ちです。

 
  松井 ゆかり
  評価:A
   ビバ、探鳥家!私自身は10年間セキセイインコを飼っていた経験と、紅白歌合戦で日本野鳥の会会員のみなさんが得点を集計するのに一役買っておられた(最近はもうやらなくなってしまったんでしたっけ?)という知識くらいしか、鳥との接点のない人生を歩んでいる。探鳥の世界がこんなにも奥の深いものだったとは。とりあえず、身内に探鳥家がいなくてよかったと胸をなでおろすばかりだ(周囲の人間はたいへんそう)。
 なんというか、ドキュメンタリーにありがちな批判的な観点や冷徹な表現ではなく、対象へのほのぼのとした視線やユーモラスな文章がいい。冷静に考えたら、ものすごい変人と称される人々でしょう、探鳥家というのは。心から応援しようという気持ちになるのは、筆者の手腕によるところ大だと思う。

 
  三浦 英崇
  評価:A
   正直に白状しますと、この本が最初届いた時には「あ。天敵だ」と思いました。興味のない分野のノンフィクション本、しかも400ページの大作。身構えもしますわ。
 ところが、読み始めてみたらこれがもう。自分の「本を見抜く力」の未熟を悟りつつ、一気に最後まで読み進めてしまいました。これは、いい。
 1年間で、どれだけたくさんの種類の鳥を、北米大陸で見ることができるか? そもそも、鳥好きじゃなければ「だからどないやっちゅうねん!」とツッコミたくなるような課題に、大の大人が、本気で、ただ名誉のためだけに、あるいは「凄い奴だ」と言われたいってだけのことで、時間と金を注ぎ込む。ライチョウ1匹見るために、雪山にヘリを飛ばす、なんて無茶な真似を平気でやらかす酔狂な連中の姿に、陶然としました。
 この世で一番の贅沢とは「本気でバカをやること」だと思っている、私と同じ魂の色をした方へ。必読です。