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ぼくは悪党になりたい
ぼくは悪党になりたい
【角川書店】
笹生陽子
定価 1,365円(税込)
2004/6
ISBN-4048735357
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  川合 泉
  評価:B+
   エイジは、どこにでもいそうなお人好しの高校生。しかし、超美形でありながらバーチャルな女の子にはまる親友や、自分を中心に世界を回している恋多き母に囲まれ、平凡ではない日常を送っている。そんなエイジの青春の1ページを覗きこめる一冊です。
 はっちゃけた登場人物と、母の元恋人の杉尾さんのような落ち着いた人物が上手く配置されていることで、テンポ良い作品に仕上げられている。恋愛、家族、友情問題を上手く消化できないエイジの姿は、まさに青春そのもの。帯で謳っている「今年度NO.1青春小説!!」のあおりもダテじゃありません!

 
  桑島 まさき
  評価:A
   価値観の多様化に伴ない〈制度〉としての結婚を望まない女性が増えている。男に依存しない彼女たちは逞しい女性たちだが、悪く言えば自分勝手で奔放。
 主人公は遊びたい盛りの17歳の少年エイジ。シングルマザーの母と父違いの弟の3人暮らし。母はバイヤーとしてよく海外へ行くので、エイジは留守番をし弟のケアをし、掃除、洗濯、買い物をする。“主夫”化した少年だ。なぜだかエイジの周囲に群がる人々は母を筆頭にジコチューな人間ばかり。家族の犠牲になってきたエイジのガマンは限界寸前。「しがらみのない自由な世界。脱出。解放。開けゴマ」と唱える17歳の心はひたすら外へと向かう。17歳で〈しがらみ〉にどっぷり浸かっているお気の毒さ。悪党になりたいと願いつつグレる勇気もなく、自分の運命を受容しているお人よしで温厚な少年だ。
 母が海外へ行っている間、エイジの自由への旅立ちが試みられるのだが、そこには若さ特有の暴走や危うさはなく悲壮感もない。そのエイジの性格に瓜二つの人物と母とのエピソードには、外からは窺い知れない豊かな真実があることをさりげなく教えてくれる。静かに胸をうつ感動作だ。

 
  藤井 貴志
  評価:C
   奔放な未婚の母に育てられたエイジは、弟ヒロトの面倒もちゃんとみるし、家事全般もしっかりこなす。しっかり者だけど気が小さい、そんなどこにでもいそうな少年エイジが、思春期真っ只中に繰り広げる小さな活躍の数々。これといった特徴のない主人公ゆえに、ついついその頃の自分と重ね合わせてしまう。
たとえば、イケメンの友人が突如として美少女ゲームにハマり、彼の彼女からは彼とゲーム中の女の子とを引き裂くよう依頼される場面がある。大人からみれば「くだらないなぁ」と笑って過ごしてしまうことだが、あの頃はそんな事でもとっても大事なことだったんだよなぁと自分と重ねながら振り返る。渦中のエイジはそんな自分をどこか醒めた目で見ながらも、周囲の期待には精一杯応えようとする好いヤツである。
友人の彼女に男としての手ほどきを受けてしまうのはご愛嬌として、羽目をはずしたいと思っているんだけど大胆にはなれないエイジの小心ぶりが全編を通じて滲み出ていることも、物語の軽快で適度に明るい雰囲気作りを手伝っていると思う。

 
  古幡 瑞穂
  評価:A+
   ステレオタイプな不良少年を描くのは割と簡単なのかもしれないけど、この本に出てくるエイジの憤りとすねっぷりはひと味違う。この繊細さを文字であらわしちゃった笹生さんにはこの1作で惚れ込みました。
 ごく普通の高校生エイジくん。弟はなんと父親違い(しかもどちらも誰が親だかわからないというすごい話)そんな母親はバリバリのキャリアウーマンとして世界を飛び回っている自由奔放な女性です。なので、弟の面倒はぜーんぶエイジが見なきゃいけないんですよ。とはいえ彼もお年頃、自分にだけ自由がない不満を感じないわけなんてなくイライラが募った末爆発。この爆発の仕方が不器用で可愛くて仕方ない。
 屈折を書いたのに健やかな小説でした。しかも全編通じてジーンと来るセリフが満載です。『赤ちゃんと僕』好きは必読!

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   笹生陽子さんの作品については、以前「楽園のつくりかた」を読んだことがある。もともと笹生さんは児童小説作家で、この「ぼくは悪党になりたい」が初の大人向け小説ということらしい。ただ、どちらも少年の成長物語で、2冊の小説の間に一見それほど大きな違いはないと思う。違っているのは、性的な問題をどう扱っているか。
 別に私は「男女七歳にして席を同じくするな」とか、明治時代の頑固爺さんのようなことを言いたいわけではない。性的なものをあからさまに描かずとも、それでも読ませる小説の方が好みなだけだ(その点でも私自身は「楽園」の方がよかった)。
 主人公エイジは、母親と異父弟との3人暮らし。そこに弟の父親と思われる男性が現れて…という話だが、昨今どうも奇抜な家族構成が肝となっている作品が多いように思われる。もちろん、そういう設定の妙を味わうのも楽しみのひとつだが、児童小説においては特にそういう傾向がみられる気がするので、次は違った趣向で書かれた作品を読みたいと思う。

 
  松田 美樹
  評価:B+
   シングルマザーの母親と腹違いの弟。これだけでも十分、思春期のエイジを「悪党になりたい」と思わせる要素になりえると思うけれど、エイジは海外に長期出張に出る母親に代わって家事をこなし、弟の世話をするような高校3年生。そんなエイジに、これでもかこれでもかと意地悪な出来事が重なります。タイトルを見ているだけに、もうそろそろ悪党になりたがってもいいんじゃないの?とこちらがいらいらするほどですが(あまりにいい子なので、悪党になりたくなるのは違う人なのかと途中で疑い出したほど)、エイジは1つ1つの出来事を真直ぐに受け止めていきます。
 世のお母さんやお父さんたちが読んだら、きっと、どうしたらこんなに素直ないい子に育つんだろう?と思うのではないでしょうか。ひねくれた目で世の中を見ないエイジと、彼を育てたお母さんにひたすら拍手を送りたくなりました。

 
  三浦 英崇
  評価:C
   こういう、一人でこんがらがって事態を悪化させていくうちに、結局周りから助けられるタイプの主人公、って、どうも感情移入しにくいです。もっと考えてから動けよっ! とツッコミ入れたくなってしまって。もっとも、こういうタイプの場合、何か考えるとますます泥沼化しそうではありますが。
 数年前までは、高校生に容易に感情移入できてたんだけど、最近、やはり歳のせいか、しばしば無理が生じてしまいまして。主人公のエイジには、上記の通り、全く同情できなかったんですが……
 同級生のイケメンで女たらしの羊谷君が、突如「純愛」に目覚めてしまう、その過程にむしろ「うんうん。君の気持ちはよく分かる。ほんとによく分かる」と思ってしまった自分は、相当ダメだと思いました。何がどうダメなのかは、作品を読んで頂ければよく分かります。いっそ、悪党になれたらいいなあ、私も。