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小森課長の優雅な日々
小森課長の優雅な日々
【双葉社】
室積光
定価 1,470円(税込)
2004/7
ISBN-4575234974
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  川合 泉
  評価:D
   フツーのサラリーマン小森課長が、正義の鉄拳と称して気に食わない奴らを撃ちまくる。
さらに、その行動を社会のために良い事をしたと結論づけ、小森課長の生活にはどんどんハリが出てくる。
帯に書かれている「お前ら、みんな死刑!!」というキャッチは、さすがに誇張だろうとタカをくくって読み始めたら、予想とは全く違う展開だったので驚かされました。衝撃的と言う言葉がぴったりくる作品です。あまりのやりたい放題にひいてしまうほど、読み進むごとに小森課長の日常はエスカレートしていきます。小森課長の優雅(!)な日々はいつ終わりを迎えるのでしょう…。「なぜ人を殺してはいけないの」という問いの答えを改めて考え直させられた一冊です。

 
  桑島 まさき
  評価:A
   殺人を肯定する小説に〈A〉なんて気がひけるのだが面白いのだから仕方がない。正義感の強い主人公、小森がふとしたことから犯した殺人に気をよくし、正義感が肥大し〈社会のダニ〉退治を名目にみるみる犯行を重ねる。気がつくと賛同者が集い〈必殺仕事人〉的組織となり、〈課長〉から〈教祖〉となっていくというトントン拍子の展開は笑える。
 ブラックユーモアだ。面白いが怖い、怖いが面白い! なぜなら正義感のものさしは人によって違うから。思い込みで決定された殺人だとしたら、殺された者は浮かばれない。そもそもこの世に殺していい人間など存在しないのだから。
 だが小森とて人の子。慎重に自問自答しながら決定をだす。そのご都合主義的な自己暗示のかけ方がこれ又面白い。一方、小森の単独犯行から始まった殺人はいつしか、部下の静枝や妻の妙子に奨励され仕切られていく…やはり、女のほうが度胸がすわっている。犯罪の陰に女あり、とはよく言ったもんだ。いつまで続くのだろーな、この組織。実存する組織だったら、もっと怖い!

 
  藤井 貴志
  評価:A
   妻や姑からは昼行灯と馬鹿にされ、職場でもうだつが上がらない、けれども実は泣く子も黙る殺し屋集団の頭目……。表の顔と裏の顔の見事なギャップに惹き付けられ、『必殺仕事人』の中村主水は少年時代の僕のヒーローだった。
本書は毎日がパっとしないサラリーマンの小森課長が、はじめはひょんなことから人殺しに手を染め、やがては「必殺仕事人」のような殺し屋集団のカリスマとして崇められていく様を描いている。小森が手にかけるのは、いわゆる極悪人ではなく一見小悪党ばかりだ。彼のターゲットになるのは、人を傷つける“小さな悪意”を撒き散らす人物。小さな悪意も積み重なれば人を2〜3人殺すくらいの悪行であると彼は考え、そんな人物をこの世から消せば多くの人が救われると強く信じる。はなはだ極端な考えだが、なんとなく共感できる気もする。きっと誰でもそういう人に心当たりはあるのではないだろうか?(さすがに殺意までは感じなくてもね……)。一方で逆に考えると、些細な出来事の積み重ねだけに、自分でも気がつかないうちに誰かにストレスを与えているかもしれない……、なんて考えると少し怖くなった。
彼が中村主水と違うのは、裏稼業をはじめた途端に自分に自信を取り戻し、仕事も家庭もうまくいくようになったこと。自分の正義を貫き“世直し”を行い、家族からも尊敬されるようになった、そんな小森課長による痛快な活躍劇である。

 
  古幡 瑞穂
  評価:C
   笑って泣ける。これがこれまでの室積作品の特徴でした。なのになのに今回は後味が悪いのよ。私もそうでしたが今までの室積作品を期待して読んだらびっくりするかもしれません。
 正義感にあふれたフツーのサラリーマンの小森課長が、ある事件を契機に必殺仕事人みたいに人を殺しまくるというストーリー。殺人をしても本人的には害虫駆除をしたような気分なので悔いは残らず気分も爽快。いつしか部下を筆頭に仕置人倶楽部みたいなのが出来上がっちゃうのです。しかもその爽快感で鬱屈もなくなり性欲も向上し妻との関係も良好に…と、設定のトンデモぶりは健在でした。もし「懲らしめ」が殺人でなかったらもう少し楽しめたのかもしれません。この殺人が正義かどうか、やり方が正しいかどうかを語るつもりはありませんが、気分を高め元気になっていく登場人物たちに反比例し、読んでいる私にだけストレスが溜まっていくのでありました。

 
  松井 ゆかり
  評価:C
   個人的な認識では、ブラックユーモアといえば阿刀田高とツービート(若い人は「ツービート」なんてご存じないか!?)。私はどちらも割と読んだり観たりしていたが、この本からみたらまだしも愛があったような気がする。別にブラックユーモアに愛がある必要はないのかもしれないが、個人的には親切味がある方が好みだ。
 それにしても、人間の浅ましさが露骨に描かれていて、気が塞いでくる。そこらの任侠映画どころではなく人が死ぬし。いやな会社だなあ、主人公の勤め先。気持ち悪いなあ、小森課長の妻。小森家の子どもたちは純真な存在であるとして描かれている(あ、ここに愛があったのか?)のが、逆に「そんな単純なもんじゃないだろう」という違和感を感じさせる。

 
  三浦 英崇
  評価:B
   自分の生み出した作品が、根拠なくコケにされ、好き勝手に改竄され、挙句に売れなかった責任を押し付けられたりしたら、そんなことをした相手を撃ち殺しちゃって構わないんですね。そうかあ。そんな奴は、周りの人間を少なからず不幸にしていきますもんね。なるほどー。いっそ、あの時、殺っておけばよかった。
 と、作品内でのエピソードが、自分のかつて味わった経験を彷彿させるものだったからと言って、そんな物騒なことを考えたりはしませんてば。思ったとしても、書いたりしないですよー、こんなところで。現実には、殺したいほど憎い相手を殺したからといって、何が解決する訳でもないですし。
 とは言え、淡々と「正義」を実現してゆく小森課長の雄姿に、とまどいつつも多少の羨望を感じたのも事実です。この世に絶対にありえないものは、絶対的正義である、ということを、ややヒステリックに笑いながら思い知る作品でした。