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ICO 霧の城
ICO 霧の城
【講談社】
宮部みゆき
定価 1,890円(税込)
2004/6
ISBN-4062124416
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  桑島 まさき
  評価:AA
   ジャンルにとらわれず社会派サスペンス、時代小説、SF小説とベストセラーを生み出し続ける宮部みゆきが、今度はあらゆる要素を内包した壮大な小説に挑んだ。テレビゲーム「ICO」を元に、可能な限りの想像力を駆使して書かれたのが本作。時代も場所も厳密に特定していない。あやふやな設定は辻褄あわせが厄介なものだが実に巧くいっている。「ロード・オブ・ザ・リング」の神話性、「ハリー・ポッター」シリーズのファンタジー性、「トロイ」や「キング・アーサー」の歴史観と壮大な愛と戦いの叙事詩。これら全てを併せ持った歴史ファンタジー・アドベンチャー・ノベルだ。
 世知辛い世の中だからこそ、読者は小説という虚構の世界で思う存分遊びたい。できれば現実からうんと離れたどこかの国へ、小さい頃よんだ想像の世界へ…と誘って欲しい。「霧の城」の謎が解かれるたびにワクワク興奮しページをめくる手が止まらない。
 全てが解決していく結末は著者の定番だが、やはり嬉しい。正義は勝たなくっちゃーね。

 
  藤井 貴志
  評価:C
   すみません。PS2は持っていますがサッカーゲームしかやりません。なので「ICO」というゲームがあることも知りませんでした。そればかりか「みんなは知っているの?」「そんなに有名なの?」などという余計な心配までしてしまうくらい知らないのです。実際はとても有名なゲームだそうですね。
さて、「ゲームを知らない」前提で読んでも、アイテムの登場のしかたや主人公の動きが非常にRPG的であることはすぐに感じた。内容については、主人公が囚われの少女を救う話だが、いかにもゲーム的な伝説めいた設定が多くてイマイチのめり込めない。初めて見るゲームを他人がプレイしているのを見ている感じかな……。たびたび登場する黒い影の怪物なども、ゲームで実際に見ていればまた違った印象だったはずだ。
また、これもRPGという特性ゆえだろうが、物語全体が、伏線を張り巡らせて謎解きを進めるというよりも、どちらかというと次から次に起こるイベントを解決しながらゴールを目指すという向きが強い(もちろん著者による小説的な伏線は加えられているが……)。退屈しないで一気に読むことはできたが、最後までゲーム経験者との温度差を拭えなかった気がする。

 
  古幡 瑞穂
  評価:B+
   どんなジャンルを書いてもさすがだなと唸らされます。しかし今回はそもそも下敷きとされるゲームがあるので想像通り賛否両論みたいですね。ゲームをやっていない立場で言わせてもらえば中盤以降の展開が弱かった気がします。最終的には結構簡単な構造の勧善懲悪ストーリーになっちゃってるし…いつもだったらこの辺で泣くところだな、というところがさらっと済んでしまったのが残念。 ゲームから入った方にとっては、城に入るまでのストーリーは蛇足に感じられるのでしょうが、私はそこのところと回想部分が一番面白かったです。なんたってやっぱり男の子を描いたらピカイチですもの。
 ジュブナイルとかライトノベルと割り切った形態だったらちょうど良かったんじゃないかなと思います。読み手が勝手に重厚な泣けるストーリーを期待しちゃっているので悪いなぁとは思ってるんですけどね。

 
  松井 ゆかり
  評価:A
   正直に申し上げる。「いくら宮部みゆきといえど、ノベライズってのはどうなんでしょう?」などと疑念を持っていた。もちろんそんな心配はまったく無用だったのだ。宮部さんの絶妙なストーリーテリングと、彼女が生み出す強く優しい心をもつ主人公の少年の存在。これ以上間違いのない組み合わせがあるだろうか?
 ゲームに関しては(関しても)まったくの無知なので、この小説がもともとのゲームの雰囲気をどのように伝えているのかはわからない。でも、“ゲーマー宮部みゆき”の「ICO」というゲームに対する愛情がひしひしと伝わる小説だと思う。
 やっぱり、男の子が主人公の宮部作品は格別だなあ!イコの温かい心根とまっすぐな瞳が胸を打つ。私が現在夢見がちな10代だったら、現実の異性なぞ目に入らなかっただろう。

 
  三浦 英崇
  評価:A
   言葉の通じない儚げな少女。彼女の信頼を、握りしめた手のひらのぬくもりに受け、私は=僕は、鎖をよじ登り、崩れかけた階段を駆け、迫る「影」を追い払い、トロッコを押し、壁の割れ目を飛び越えました。今となっては、とても懐かしい思い出です。
 宮部さんが、この作品を書く契機となったゲームソフト『ICO』は、ゲーム中での情報提示のあまりの少なさが、逆に魅力となっていた作品でした。
 この小説の中には、宮部さんが主人公・イコの目で見た、城の全容が描かれています。それは、実際のゲームの内容とは異なったものです。でも、彼女にとってこの城こそ、自分が「イコ」として走り回った場所だったんだろうなあ、と思います。自分の見た城と見比べて読むことのできた私は、幸せでした。
 ゲームに全く縁のない人にこそ、読んで欲しい作品です。ゲームは、こんなに豊かな世界を生み出すことができるのだ、ということを知ってほしいから。