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脚美人

二人のガスコン(上中下)
【講談社文庫】
佐藤賢一
定価 650
円(税込)
2004/7
ISBN-4062747685
ISBN-4062747669
ISBN-4062747693

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  岩井 麻衣子
  評価:B
   実在する上に二つの有名な物語の主人公である元銃士隊の英雄ダルタニャンと「鼻」のシラノ・ド・ベルジュラック。本書はこの二人がフランス宰相マザランに呼び出され、密命を受けるところから始まる。その密名とは「マリー・ドゥ・カヴォワを監視せよ」とのこと。マザランの愛人の動向を調べるだけかと思いきや、事態はフランス国王ルイ14世の出生の秘密に関わる鉄仮面の謎へと進んでいく。上・中・下という超大作ではあるが、次々と新事実が発覚し物語りに引き込まれ、長さを感じさせない。ダルタニャンとシラノがものすごく人間臭い。相変わらず愛を打ち明けられないシラノや、監視対象マリーに恋してしまうダルタニャン。妙にロマンティックな二人。英雄でオレは男だといばるくらいなら、はっきりしろといらいらする。もちろん、そこが本書の魅力ではある。しかし小説の中の英雄くらいは、びしっと決めて欲しいのが乙女心なのである。

  藤本 有紀
  評価:A-
   だれよりも熱い血が流れると自負するガスコーニュ人。アクの強い面相そのままのガスコン中のガスコン、不世出のフランス王・アンリ四世に繋がるという誇りを旗印に、数多の軍人・銃士を輩出した民族、それがガスコンだ。田舎貴族からパリで身を立てたダルタニャンと、自由人シラノという二人のガスコンが、イタリア人の宰相枢機卿マザランに密偵仕事を依頼される。マザランの政敵オルレアン公からの接触、スペイン人刺客、渦中の重要人物カヴォワ氏の日記、シラノの恋心、今上ルイ十四世の出生の秘密……。犬猿ならぬ「犬と猫」の二人が、血湧く行動と冴えた推理、一瞬を逃さず人心の機微を察知する感覚をもってある真相に迫っていく。
 平たくいうなら人物の膨らませ具合、だがそんないい方では物足りない「中世フランス人が日本語をしゃべっている!」という佐藤作品を最初に読んだときの驚きは一貫して変わらない。かつてこれほど中世フランス人が、あるいはローマ人が、ガリア人がフィレンツェ人がイングランド人が古の外国人だということを感じさせない作者がいただろうか? いやいない、という私なりの修辞疑問を結ぶ。クルパンのたまらない愛くるしさにこの感動を強くした。