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バルーン・タウンの手品師

バルーン・タウンの手品師
【創元推理文庫】
松尾由美
定価 714円(税込)
2004/7
ISBN-4488439039


  岩井 麻衣子
  評価:C
   人工子宮が発達した世の中で女子が妊娠せずとも子供が持てるようになった。そんな近未来でも自分で出産したい派の女子が存在する。一握りの奇特な妊婦の住むバルーン・タウン。本書はそこで起こる様々な事件4編からなる推理小説である。探偵も妊婦、ワトソン役も妊婦、被害者も加害者も妊婦関係だからなのか事件が起こっても妙にのんびりとしている。深刻な事件も起こるし、妊婦の世界といえども普通の社会とかわりないのだが、女の園だからか、おばさまな感じがして緊張感に欠ける。話自体は本格推理小説が好きな人は普通に楽しめる内容だろう。女子としては人工子宮を使うか、バルーンタウンに入るか考えてしまうところだが、できれば自分のハラを使用して街で暮らしたいんだけど許されるんだろうか?そんなことばっかりが気になった一冊である。

  斉藤 明暢
  評価
   妊娠と出産を自分自身の身体でする女性は少数派となり、たまにいても、その人は結構な変わり者と見なされる世界。その少数派たる妊婦達は、ジャマな仕事や家族から離れ、隔離された街で過ごしているという訳だ。そんな街での物語は、妙にリアルというか、今時の多くの人の考え方に通じるものがあった気がする。まあ、世界が自分のお腹を中心に回っているような感覚は、男には永久に理解できないのかもしれない。
 それぞれのエピソードでの謎解きに関しては少々食い足りない感じだが、それはシリーズもの独特のペース配分だろう。そもそも話の中心となるのは事件や謎解きそのものではなく、彼女たちのお腹にまつわる出来事なのだ。といったら言い過ぎだろうか。

  竹本 紗梨
  評価:C
   近未来の東京では、人工子宮が普及していて自分のお腹を使って産む必要がなくなっている。そんな中、従来通り10ヶ月間自分のお腹で育てて子どもを産む妊婦が集められていた。通称バルーンタウン。そこで起こった奇妙な事件を妊婦探偵が解決していくのだが…その事件と謎解きにどうしても入りこめない。近未来ものだったらその世界観にどっぷり浸かりたいが、なんというか淡々としすぎていて外側から見てしまう。主人公の“さばさば”ぶりにも特に憧れは抱けず。ただ妊婦を特別視せず、バルーンのような体型を持つただの女性として、とても乾燥した描き方をしているのは新鮮だった。

  平野 敬三
  評価:B
   いわゆる本格派と呼ばれるミステリ小説には、「なんだそれは」というようなどうしようもない種明かしに唖然とさせられるお粗末な作品が多く、たとえそれが本格派愛好家周辺で「傑作」と言われるものであっても読み終わるまでは決して油断できない。本書も、これは果たして謎解きと呼べるのかという茶番劇のような短編が続き、もうよっぽど途中で放り投げてやろうかと思ったが、まあまあ、小説は最後まで読んでみるものである。のほほーんとした世界に、最終章で陰を差すというのはよくある手法ではあるが、この正攻法が物語に程よい深みを与えている。個人の内面についてのつっこんだ描写が少なく、そこが特徴というか、私の不満な点でもあるのだが、こうしてやや色調がダークな最終章を読み終えてみるとその淡白さがこの物語の味だったのだなあと思い直す。うまい具合に「良い小説」に仕立て上げられているのが、ちと憎たらしい。