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勝手に目利き
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砕かれた街

砕かれた街(上下)
【二見文庫】
ローレンス・ブロック
定価 830円(税込)
2004/8
ISBN-4576041282
ISBN-4576041290


  岩井 麻衣子
  評価:B
   世界中が仰天したアメリカへのテロ攻撃。本書はそれから1年後のニューヨークで起こった殺人事件で幕をあける。第一発見者の掃除人、容疑者の作家、被害者と接点のあった画廊経営者の女性、テロで家族全てをなくした男性、元警察幹部。様々な人々の絡み、個々の思いが語られる。暗い影のあるミステリーかと思いきや、何故かメインは画廊経営者が突然開いてしまった奔放な性生活への扉である。なんでもありの性と暴力。もうこのつながりは本作品の著者か村上龍氏にしかわかるまい。いったいなんであんなに激しく溺れていかなきゃならないのだろう?性を通して生への執着を感じることもできるが、あまりにも激しすぎてもうなんだかよく分からなくなってくる。自分を癒す何かを見つけたものは生き、壊れすぎてしまったものは他人を巻き込み破滅する。「治療は愛」っつーことか?それが全身の毛をワックス脱毛することと何の関係があるんだろう。さっぱりわからん。心に深い傷を負ったことがないからとは思いたくないのだが。

  斉藤 明暢
  評価:A
   あの日以来、ニューヨークと9月11日は、特別な街、特別な日になった。だからそこに住む人やそこで起こることは全て特別なのか? そうだとも言えるし、そうでないとも言える。
 深く傷つき、街への犠牲となる何かを捧げ続ける犯人と、それに巻き込まれるというよりは、周囲を巡るように関連していく登場人物たち。それぞれが普通なような生活を続けていながら、少しずつ何かがズレ始めていって、それがまた事件と関連していくわけだが、生活の全てが変わってしまう訳ではない。ズレた部分と今まで通りの部分をそのまま抱えていくのだ。
 ちょっと登場人物達の変わっていく部分の描写が、必要以上にエキセントリックな気もするけど、このくらい、ニューヨークの基準では大したことではない、という事なのかもしれない。

  竹本 紗梨
  評価:B
   同時多発テロで攻撃されたニューヨーク。ホモの掃除夫や、警察の大物、セックス依存症の画廊オーナーに、作家、そしてテロですべてを失った初老の男性。ニューヨークで暮らす人間たちをすり抜けるような目線で、一人一人が近い距離で描かれている。アパートで起きた女性の殺人事件、犯人は誰なのか、そしてその目的は?この一点から線が伸び、たくさんのニューヨーカーがこの線に絡まってくる。破滅的な、狂ったようなセックスの描写に比べて、犯人のラストについては多少線が弱まり、物足りなさも感じた。だが、テロが残した傷跡を、不安定なままの登場人物に背負わせ、“砕かれた街”を立体的に作り上げている。人によって大切なものは異なるし、どんな人間でも他人のそれを砕く権利はない。

  和田 啓
  評価:B-
   2001年9月11日から、かれこれ三年になる。世界貿易センタービルがないと様にならないというか、ニューヨークという街自体が格好つかない気がして、あの日以来のかの都市には足を運んでいない。ガールフレンドとビル内のBarnes&Nobleで買い物をしたり、DELIで食事をした想い出をきれいに取っておきたいのかも知れない。
 あれから一年後、連続殺人が起こる。あの事件で人生を狂わされた男がいたのだ。
 どうということはないストーリーなのだが、人物造型がいい。性を謳歌する美人画廊オーナーのスーザン。タフで屈強な前ニューヨーク警察本部長のバックラム。そしてカーペンター。こうして殺人者は人目を憚る隠遁生活を送っているのかと感心した。一方でアメリカ人の性依存症に、コミュニケーションの国民性の違いを見た気がした。