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夢見る猫は、宇宙に眠る
夢見る猫は、宇宙に眠る
【徳間書店】
八杉将司
定価 1,995円(税込)
2004/7
ISBN-4198618801
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  川合 泉
  評価:B
   正直SFモノはほとんど読んだことがなかったのですが、この作品はあまりSFを意識させない始まり方だったので入り込みやすかったです。地球を舞台にしているときは、キョウイチとユンのほのかな恋愛模様が展開され、火星に物語の舞台が移った辺りからは、本格的に科学的な様相を呈してきました。作品の中に出てくる、プログラムを自分で組み込み、自分そっくりのAIを作る「トゥインシステム」は何世紀か後(ずいぶん先ですが…)には本当に実現するかもしれません。SF作品は、科学的な下地から語られるので、フィクションながらいつかは実際に起こるのではと想像しながら読めるのが醍醐味なのかも知れないと改めて思いました。
「ソフィーの世界」を彷彿とさせるような科学的以上に哲学的な結末に、自分の生きている世界について深く考えさせられます。

 
  桑島 まさき
  評価:C
   宇宙を舞台にしたSF小説を書く著者の教養には感心するが、理数系ダメ人間の私にはチンプンカンプン。この手の物語は映画のほうが理解しやすいのでは? 難しい用語や説明が続くと食傷気味。将来、生殖医療技術の進化によって人工子宮による出産や、クローン人間の誕生だって時代の価値観とともに可能になるだろう。キョウイチが意中の人ユンをおって火星へいき、いつしか反乱軍と対決するべく平和維持軍に入るという筋は男のロマンを感じさせてイイ。しかし何か足りないような気がする…。
 宇宙を舞台にした他の作品(小説や映画)と違い、本作はおどろおどろしいモノが出てこない。物事がスムーズにいかないのは登場人物たちの思惑があるからだが、彼らは一般的にいう悪ではない。エイリアンが出てこずとも絶対悪の存在が加われば引き締まったのではないだろうか。物語はサラリと進行し結末を迎える。いとも簡単に宇宙へいける未来社会を設定しているが、まだまだ遠い世界にいるこちら側の人間としては、夢物語を聞かされているのかなーとしか思えない。

 
  古幡 瑞穂
  評価:B
   「私キレイ?」「のどかな顔だね」という出会ったときの会話がなにより印象的でした。逆にのどかな顔をして、ああいうパキパキとした言動を見せる女性がどうも上手く思い描けなかったのも事実なんですけどね。
日本SF新人賞を受賞した由緒正しいSFモノなので、もう少し気合いを入れてSF部分を読まねばならないのでしょうが、男女関係(クローンも含めて)を描いたところを面白く感じました。正直なところ、グリーンマーズという舞台と背景にしっくりなじめなくて後半ちょっと苦戦したところはありました。でもサラリーマンの主人公のありきたりの毎日から物語が始まることで、あまり抵抗なく話に入っていけるあたりはなかなかのものです。現実に始まり寓話に終わる、読後感も悪くありません。
話は変わりますが、こういうときにしか接する機会がないけれどナノテクって面白い技術ですね。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   コバルト文庫的SF(最近はライトノベルと称されているのだろうか)をたたえた作品だ。貶めて言っているわけでは決してない。10代の少年少女にとって(必要に応じてもちろんその上の世代にとっても)、通過儀礼としてのライトノベルは不可欠なものではないかと私は思っている。
 しかし実は、この小説では未来が明るいものだとは肯定しきれていないようにも思われる(私の読解力が足りないせいだったらすみません)。能天気なだけが美徳ではないことは重々承知しているつもりだがことSFに関しては、最終的に描かれるものが“どんな状況においても強く生きていこうとする力”であってほしいのだ。でも主人公キョウイチの心には、確実に諦念が存在すると思う。著者八杉さんはこの小説がデビュー作。次回作以降また違った未来世界を描いていかれるのか、とても気になるところだ。

 
  松田 美樹
  評価:B
   SFって苦手です。だって想像を絶することばかりが次々に起こって、なかなかその世界に入り込めないから。加えて、私の頭が文系だっていうことも関係しているような気もします。そしてこれは、第5回日本SF新人賞受賞作品。帯に書かれた「ナノテクと量子力学を軽やかに駆使し、想像力=創造力の限界に挑戦」という惹き句からして私の理解力を越え、最後まで読み終えることができるんだろうか?と不安にかられました。でも、でも。何だかとっても読みやすかったです。最初のシーンの印象的な女の子と出会う場面がよかったせいか、特に抵抗を感じることなくするすると読めました。確かによくわからない用語もたくさん出てはくるんですが、理解できないということはなかったです。たぶん、私のようなSFっていうだけで敬遠しがちな人もいるかと思うんですが、爽やかな青春小説とも読める作品なので、ちょっと手にとってみるのもいいのではないでしょうか。

 
  三浦 英崇
  評価:C
   ピノキオや『銀河鉄道999』のクレアさん……私は昔から、人間になりたがる「人にあらざるもの」という存在に、非常に心惹かれるところがありまして。
 この作品では、恋する人工知能・ホアが、主人公・キョウイチを好きになってしまって、ただ彼と触れ合いたいがために、人間の体が欲しい、と望むようになります。その健気な心を前に「人間であるかどうかなんて、人間性には何の関係もないんじゃないか?」と思ってしまいました。
 実際、この作品の中で、もっとも人間らしいのは「彼女」だと思いますし。だから、火星を一夜にして緑の惑星に変えてしまうほどの能力を身につけた、ホアの原型たる人間・ユンに、キョウイチが拘る理由が、正直言ってピンと来ませんでした。
 私は、追いつけない境地にたどり着いちゃった人間より、自分を愛してくれる「人の作りしもの」をこそ愛したい、と思っています。だから、この結末には、いまいち納得がいきませんでした。