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晴れた日は巨大仏を見に
晴れた日は巨大仏を見に
【白水社】
宮田珠己
定価 1,680円(税込)
2004/6
ISBN-4560049920
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  川合 泉
  評価:B
   こんなもの(巨大仏)が日本各地に生息していたなんて、全く知りませんでした。仏像と言えば神聖なものであるはずなのに、この作者の手にかかればおちゃめな物体としか思えなくなります…。さらに同行者の、やたら下ネタ好きな袖山さんとマニアックな和久田さんが非・神聖さをひきたてています。
本文中で、巨大仏の様子を何度も‘ぬっとあるもの’と表現していますが、実際に巨大仏を見たことがなくてもリアルにその感覚が伝わってくるような描写がとても巧い。是非私も、ジェットコースターとのコントラストがアンバランスな、高崎白衣大観音あたりを見に行きたいものです。こんなワンテーマ旅行はある意味最高の贅沢かもしれません。宮田氏には、又、「なんでそんなものを追いかけるのだ!」というテーマでエッセイを書いて欲しいものです!

 
  桑島 まさき
  評価:C
   珍しい趣味だ。巨大な仏像を見るだけでなくマヌケな感じのする風景全般を愛しそれを見るために旅をする、何故? そう思いながら本書を読んでいたら面白い! 著者の趣味の記録ともいうべき「巨大仏観賞紀行エッセイ」。時折マジメな風景論まで展開している。何故こんなに夥しい数の巨大仏が日本各地に存在しているのか? 何故こんな所に仏像が建っているのか? 素朴な疑問が湧いてくる。ほとんど風景をジャマしているようなその異様な聳え方は、マヌケな風景としか言いようがない。著者はそれを「マヌ景」とよぶ。
 だが、実際にそれを至近距離でみると新鮮な感動を覚えるのではないか? 想像してみて欲しい。見知らぬ町に行き、何の情報もなくふと見ると巨大な仏像があなたを見下ろすシーンを。仏像そのものは「美しい」かもしれないが「巨大」なために“デカかった”という感想しかもてないだろう。グロテスクなぐらいに。人をひきつけるものには、不気味さ気持ち悪さが混じっているものだ、という著者の意見はあたっているようだ。

 
  藤井 貴志
  評価:B
  巨大仏って日本中にこんなにもあるんですね。「ウルトラマンよりでかい」40メートル超の巨大仏をめぐる旅のエッセイは、笑いと発見に満ちた1冊だった。なかでも「エロ」の話ばかりしている編集者、袖山さんのキャラクターが最高で、彼女が同道しない回はさびしい気持ちにさえなる。僕は本書でも触れられている大船観音のそばで育ったが、自分には身近な存在すぎてその異様さ(著者のいう「マヌ景」)加減はまったくノーマークだった。思えば間違いなく不自然な風景だし、「子供の頃は観音様が怖かった」という友人は確かに何人もいた……。
こういった企画は、「何かに気づいて注目する」か「何も気付かずにやり過ごすか」の差だろうが、だから何なんだと言われる程度に「くだらないこと」こそが、探求する題材としては面白いんだろうなぁ。そんなテーマに出会えれば、人生をちょっと楽しく過ごせそうな気がする。

 
  古幡 瑞穂
  評価:A
   笑いました。朝の電車で笑い声を押さえるのに必死。しかし知る人に聞けば、この著者にしてはまだ笑いが足りないらしいのです。こりゃ大変だ。
なにが面白いって、巨大仏ツアーの同行者たち。ノンフィクションといいつつも多少は作っている部分もあるんでしょうが、ともかく寄せるコメントコメントがどこか過剰にずれているのです。
しかしそれ以上に日常風景からぬっと顔を出す巨大仏たちも変。その違和感を「マヌ景」と一言で斬ってしまうこの著者、すごいです。宗教団体からクレームついたりしないのでしょうか。
読み終わってみて、旅に出たい気持ちにはまーったくなりませんでしたが、今まで荘厳な敷居の高い存在として捉えていた仏像に身近感を感じるようになりました。それはそれで良いのか悪いのかわかりませんけどね。
あー面白かった。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   私の母は大仏が苦手である。あの髪型(というのか?)も好ましくないし、しかし何より大きさがいやなのだそうだ。私の苦手はクジラだが(大きいものを恐れる遺伝子が受け継がれているのか?)大仏は平気なので、本書は楽しく読ませていただいた。
 日本全国の40メートル以上の大仏(著者曰く“巨大仏”)を見物し、それについて著者の思いの丈を綴った文章である。これほどの数の巨大物が各地に存在することに驚く。大仏見物そのもののおかしさもさることながら、同行の(一人旅の場合もあるが)編集者の方々との会話も笑える。ところどころすごくマジな考察を披露されるところも味わい深い。もうちょっと突き抜けてもいいかなという気もするが、きっと宮田さんの真面目なお人柄の表れだろう。
 惜しむらくはもう少し写真が鮮明だとよかった。文章ももちろんそうだが、この本における肝ですから。

 
  松田 美樹
  評価:B
   世の中には、どうしてこんなものが?と思わず目を疑ってしまうものがありますよね。でも、あまりに変だと思考がストップして、それについて考えるのをやめてしまったりして。私にとって巨大仏はまさしくそれに当たります。全国から選りすぐられた16体(っていう数え方でいいのかな)の巨大仏が紹介されていますが、私が知っているのはそのうち2体。初めて見た時は「何だこれ!」とただただその大きさに衝撃を覚えましたが、理解の範疇を越えてしまっているので、考えることをせずに“そういうもの”として捉えていました。でも、改めてこの本でその巨大仏を見てみると、やっぱり変!と再確認。加えて、全国にある個性的?な他の巨大仏と比較することもできて、ほぅほぅと感心しながら読みました。そうか、巨大仏の中に入れるようになっているのは珍しくないのか、などなど。ただ、こういった本は着眼点が売りだと思うんですが、後半部分は同じような巨大仏が続き、ちょっと飽きてしまいました。

 
  三浦 英崇
  評価:A
   この作品のプロローグで書かれている大船観音。私も、幼少時のトラウマになっています。幼児にとって、あの大きさはただひたすらに「恐怖」ですよ。アレですら、高さ25mしか無いのに、この本の中で取り上げられている巨大仏は、認定基準が「ウルトラマンより背が高い」(40m超)だったりするので、周辺の幼児は絶対、心に大ダメージを負っているに違いないです。今となっては、この酔狂さを喜べる境地に達してますが。
 あれ、待てよ? この風景を楽しめる人は「負け組」なんじゃなかったっけ? いや、いいです「負け組」でも。この場合の「負け組」って、経済的、社会的な敗者、という訳ではなくて、勝敗によって生じる価値観に意味を見い出さない生き方のことだと思うので。
 この作品に立ち並ぶ(一部、寝転がってるのもあり)16体の巨大仏を、いつか必ず全部実物を見てみたい、と思い立ってしまった自分は、やはり酔狂なんだろうなあ……