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犬と歩けば恋におちる

犬と歩けば恋におちる
【文春文庫】
レスリー・シュヌール
定価 810円(税込)
2004/8
ISBN-4167661713


  岩井 麻衣子
  評価:D
   マンハッタンで犬の散歩を仕事とするニーナ。人の家の鍵を預かり自由に上がりこむことのできる彼女は他人の秘密を盗み見ることを密かに楽しんでいた。ある日大胆にも他人の家で風呂を楽しんでいた彼女は、住人の彼女が密かにあこがれていたダニエルに見つかってしまう。慌てて退散するニーナを不審に思いつつも好奇心を持つダニエル。実は彼はダニエルの家を借りていただけの双子の弟・ビリーだった。プチ犯罪者のニーナは他人の家で仕事をする人々全ての敵だと思うのに、本人はやりたい放題生きてる。しかもその奔放さを魅力に感じるビリーはどんどんニーナに惹かれていく。これはマンハッタンでは普通の生活なのか?何の後ろめたさも持たず前へ前へと進むニーナを見ていると文化の違いなのと疑問が次々湧いてくる。受け持ちの犬と飼い主を勝手に入れ替えて、私の言ったとおりうまくいくでしょとばかりに鼻高々のニーナ。なんだこの女としか思えない滅茶苦茶な物語である。

  斉藤 明暢
  評価:B
   犬のいる生活に憧れつつも、かなわない年月を過ごして久しいが、ドッグウォーカーという職業がそんなに高収入だとは知らなかった。もちろん楽な仕事ではないわけだが。
 日本ではよほどの金持ちでもない限り、留守宅に家事サービスとかの人を通わせたりはしてないと思う。アメリカではベビーシッターなんかも一般的らしいから、その辺の抵抗感はあまりないのかもしれない。つまるところこれは、犬の散歩屋さん版「家政婦は見た」みたいな話なのかもしれないが、ちょっと違うのは、主人公自身が物語の主人公であることだ(なんかヘンだな)。
 覗き趣味というのは嫌らしくも人を惹きつけるのだが、それだけで終わらない主人公の生き方を、痛快と見るかご都合主義と見るかで、この作品の評価が決まると思う。

  竹本 紗梨
  評価:B+
   理想の男性の部屋を物色する、さらにゴージャスなお風呂にまで入りこんでこっそり楽しむ。そして恋をする。働く時間は1日のうち数時間。たくさんの犬とマンハッタンを闊歩する…。それがニーナの仕事の「ドッグウォーカー」。実は仕事に疲れて、軽い現実逃避でこの仕事をしているが、思いつくまま行動し、恋をし、また一歩踏み出す勇気が出る…なんて、まるで現代のファンタジー。マンハッタンの谷間でなら、こんなキュートな夢物語もあり。話は単調、謎解きや意外なエピソード満載というわけでもない。だけどニーナが何も取りつくろわず自分の個性だけで、少しずつ勇気を取り戻していくくだりがいい。ああ、ドッグウォーカーみたいに生活してみたい、とまんまと思ってしまった。単純過ぎるけれど、私だけじゃないはず!

  藤本 有紀
  評価:B
    カバーを見てください。帯の上を犬たちがトコトコ歩いているように見える。おなかの垂れた犬なんか地面(いや、帯)に着きそうで、かわいい。
 定番のラブコメである。ニーナは離婚歴あり(ということは結婚もしていたわけ)、過去のキャリアは捨ててきたという設定だ。親友に代わってやっているドッグ・ウォーキングの仕事は、雨の日も二日酔いの日も、足のムダ毛を剃る気の起こらない日も休みなし。自慢の“大学Tシャツ”コレクションから選んだ一枚と短パン、黒ブーツ姿で今日も散歩に行く。カクカクシカジカで恋も仕事も成功するわけだ、もちろん。三十路の女のラブ&サクセスストーリーは大ヒット先行作品があるだけに厳しい目を向けがち。そのうえ私は「ちょっとこんなの初めて」という話を好むほうなので、NYと犬ではいまひとつ乗れない。これがアルゼンチンとリャマだったらすごく興味深い(それはクレストだろうか)。それでも、フラッシュダンスを見てTシャツを切った経験のあるものとして随所で共感もした。好みが分かれると思うのは、短い文をつないだ文章と体言止めの多そうな文体か。