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嫌われ松子の一生(上・下)

嫌われ松子の一生(上・下)
【幻冬舎文庫】
山田 宗樹
定価 600円(税込)
定価 630円(税込)
2004/8
ISBN-4344405617
ISBN-4344405625


  岩井 麻衣子
  評価:A
   東京の片隅で伯母・松子が殺された。そのアパートを引き払う手続きを頼まれた川尻笙は、恋人が妙に関心を持ったこともあり、嫌々ながらも引き受ける。今までその存在すら知らなかった松子伯母の人生に段々と興味をもちはじめた笙は彼女の謎に包まれた人生を調べはじめる。松子、本当にバカな女である。人生には様々な岐路があるが、彼女はことごとく行ったらあかんやろという方向へ進んでしまう。確かに不幸が彼女を次々と襲う。しかし態勢を立て直すチャンスにも巡りあっているし、助けてくれる人にもちゃんと出会っている。松子の選択が失敗なのだ。何でもかんでも人のせいにして自分の人生に責任をとろうとしない松子。そりゃあ不幸にもなるだろう。自分が選んだ道が正しいとは誰にもわからない。しかし、それでもうまくやっていこうとしなければ松子のように満たされないまま無残な死を迎えるかと思うと、自分を信じて強くありたいと心の底から願ってやまないのだ。

  斉藤 明暢
  評価:A
   不幸な人生の波状攻撃といった展開だが、安手のドラマのような雰囲気にはなっていないのは作者の力なのだろう。主人公(というか案内役)の青年との恋人の役割、というか必然性がもうひとつ弱い気がするが、彼にしてから「それでいいのかお前!」という感じだから、その位でちょうどいいのかもしれない。
 妙に生真面目ながら結構流されやすい(真の)主人公である松子だが、なんでそこでそっちに行くのかなあ、などと思ってる時点で、作品の世界にハマっているということなのだろう。
 その最期はあんまりじゃないのか!、なんでそうなっちゃうんだよ!!とか結構真剣に憤ってしまった。

  竹本 紗梨
  評価:B
   殴り殺された一人の中年女性。彼女には麻薬所持や殺人の犯罪歴もあり、思い浮かぶ言葉は−殺されてもしょうがないかもしれない−。大学生の笙を父親の紀夫が突然訪ねてきた。上京の理由は、蒸発した紀夫の姉の松子が殺されたため。存在すら知らなかったその伯母のアパートの後片付けを押し付けられ、渋々ガールフレンドの明日香と一緒に行き、松子が凄惨に殺されていたことを知る…。確かに殺されても仕方がないような人生を歩んでいた。しかし松子は真面目に働いていた、普通の家庭に育ち、生きていく能力も備えていた。それでも何かにあざ笑われるかのように、人生の歯車からことごとく滑り落ちていったのだ。何がいけないのか、松子が特別弱いとも、いい加減だとも思えない。ひたすら運という運に見放され、おして少し意思が弱かっただけ。一瞬、死んで楽になれたのかもと思ったことにひやりとし、笙と同じくやるせない気持ちになった。松子はただ、過酷な運命を背負わされた、どこにでもいるただの一人の女だから。

  平野 敬三
  評価:B+
  典型的な「女の転落話」である。あまりに定型化された不幸のオンパレードも、ここまで徹底的に描き抜けばそれはそれで痛快なものだ。親身になってくれる友人よりも、さっきまで自分を殴り付けていた男の方を信じるような、どうしようもない女が主人公でありながら、この物語から目を離せなかったのは、単純に僕がそういう女性に弱いからだろう。男を見る目がないだの、人生における目標がないだの、解説でぼろくそ言われ、実際僕もそう思うのだが、ちょっと待ってよ、俺だって女を見る目はあるとは胸はれないし人生の目的なんてあるようなないようなそんな状況なのだ。すがってはいけないものに、松子がすがってしまう瞬間。信じるべきでないものを、松子が信じようと心に決める場面。それがNGであることを知りながら僕はそれを愚かな行為と思わない。別に同情も共感もしないが、なんかそういうもんかもな、としみじみ読んだ。ただ、如何せんラストが不満。もっと鮮やかなカタルシスがほしいと思うのは、僕がまだまだガキだから?

  藤川 佳子
  評価:A
   美人で聡明、生徒からの人気も高い中学教師・川尻松子の人生が、ある事件を境にとんでもない方向に転がり始めます。松子はまさに「だめんずうぉ〜か〜」。ダメな男、悪い男ばかりに惹かれ、相手をとことん愛し、尽くし通してしまうのです。松子の強すぎる気持ちが、彼女自身を苦しめる羽目になってしまう…。けれども、何度男に裏切られようと、どんな苦境に立たされようとも、松子は諦めたりしません。努力家で賢い彼女は、いつだってピンチをうまく切り抜け、しぶとく生き抜くのですが…。
 平成十七年、東京のとあるアパートで中年女性の死体が発見されます。それは53才の松子のものでした。全身に激しい暴行の後があることから、警察は殺人事件と断定。東京でのほほんと暮らす、松子の甥・川尻笙がガールフレンドの明日香とともに、松子叔母の謎に包まれた人生を、そして彼女の悲しい最期を明らかにしていきます。

  和田 啓
  評価:AA
   今回の課題本の中で一冊と云われたら、本作になる。福岡の片田舎で生まれ厳格な家で育った川尻松子。中学教師時代までは堅気の人生だったのだが、人のよさが転じて流転の道を歩むようになる。このあたりの転落ぶりは時代がかった一昔前の大映ドラマのようなのだが、彼女は自分を不幸だとは思わない。人生に対し肯定的でなによりひたむき。どんな境遇にあっても人を信じる心の美しさとその一途さはフェデリコ・フェリーニの映画の女性を想起させた。恋人を亡くしたり、ソープ嬢になったり、人を殺して刑務所に入ったりといろんなものを人生から無くしていくのだが、ほんとうに大切なものは捨てていない。
 彼女のような人生は、現実にも無数にあったはずだ。たったひとつの何気ないことから身を持ち崩した人は大勢いるだろう。語られることのなかった物語……。
終盤、妹と邂逅するシーンは涙なくして読めない。この世から松子は嫌われた。だから言おう。あの世でも元気に暮らせヨ、松子姉!