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おんみつ蜜姫
おんみつ蜜姫
【 新潮社 】
米村圭伍
定価 1,890円(税込)
2004/8
ISBN-4104304050
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  朝山 実
  評価:D
   「水戸黄門」の後番組でアイドルを主演にドラマ化するには丁度いいだろう。ナレーションはぜひ岸田今日子を推薦したい。
 ある小藩のお転婆な姫君が重大な使命を担い旅に出る。しかし時代劇特有の緊張感を期待すると、そりゃ腰が砕ける。侍に扮してみても姫であることはバレバレ。お色気もなくストーリーは健全そのもの。蜜姫の警護役でお供をする大男の「海坊主」や美形の忍者、忍びの猫らの活躍ぶりから、桃太郎話とダブる。しかも三頭身のアニメキャラだ。
 謎の刺客集団が現われ、時の将軍・徳川吉宗の隠し子騒動に巻き込まれたりと、姫の行く先、話題は尽きない。コミカルで、長旅を読み終えると、ほんわか温泉に浸かった気分。似たような姫君の男装ものといえば、川原泉の漫画で『殿様は空のお城に住んでいる』がある。読み比べてみるのも一興かもしれない。

 
  安藤 梢
  評価:C
   江戸時代、温水藩の末娘が父親の命を狙った犯人を探すうちに幕府に迫る危機に気付き、悪と戦うという話。しかしこの姫、野袴を着け刀を差し、武者修行中の若侍になりすましたにも関わらず、女であるとばれている。変装になっていない。男になりすますのではなく、やんちゃな姫君という立場で通すところが珍しい。
 ですます調の語りで、全体的におっとりとした印象を受ける。幕府や刺客相手に戦うにしては緊迫感に欠けるが、それも登場人物の人柄故なのだろう。何度も危ない目に遭っているわりには、安心して読めてしまう。ハラハラしないことで、今ひとつ緊張感が出ない。人を切った後もさっぱりしている姫には少し違和感を覚える。とは言っても、所々で歴史の講釈を入れてくれるあたり、細かい所まで丁寧である。蜜姫を始めとし、甲府御前、笛吹夕介、雲吉と個性的な登場人物が並ぶ。猫を、護衛役の忍び猫として登場させた発想は面白い。

 
  磯部 智子
  評価:A
   面白〜い!イギリス文学の中に見出すような、すました顔をして人を喰ったような、そんな可笑しさを、まさか「おんみつ蜜姫」なんてこれ又珍妙なタイトルの時代小説の中で見つけるなんて思いもよらなかった。帯の“痛快「姫君小説」の新古典”は伊達じゃない、笑い転げて読み終えて、後は晴ればれ心の靄も吹き飛ぶ爽快感。蜜姫は小藩といえども豊後温水藩二万五千石のれっきとしたお姫様。それが自藩の合併がらみの陰謀?に隠密として立ち上がった。ありえない……父、乙梨利重公も、母、甲府御前も何れ劣らぬ、どこかズレた可笑しな二人。九州から江戸まで姫の隠密行脚のお供は甲府御前の愛猫タマ、この白足袋のふてぶてしい黒猫はなんと忍び猫。ありえない……将軍吉宗、大岡越前、天一坊、海賊までテンコ盛り。ストーリーは軽妙、会話は洒脱でとぼけた味わい。物語を物語られる楽しさに溢れた大人の為の極上の娯楽作品。論より証拠、先ずはご一読を。

 
  小嶋 新一
  評価:B
   どうも「時代モノ」といえば、自分が子供の頃にどっかのTVドラマをおじいちゃんが見ていたよなあ、という様な辛気臭い想い出が先に立って(ファンの方、すいません!)、僕には縁のないものと思っていたが、「おんみつ蜜姫」は、そういう勝手な思い込みを一掃してくれる、会心の時代モノでした。
 時は、江戸・徳川吉宗の時代。九州の小藩「温水」藩主の娘である蜜姫は、超おてんばの十九歳。突然に命を狙われることとなった父親を救い、その裏に隠された陰謀を暴くために、忍び猫タマを従え、江戸を目指す……。その道中、蜜姫と仲間たちを待ちうけるのは、次から次へと襲いかかる刺客たち!
 連続するアクションシーンは、007ジェームズ・ボンド風?いやいや、もうちょっと俗っぽいからナポレオン・ソロ風?それとも、コミカルでユーモラスなシーンが多いから、どちらかと言えばジャッキー・チェン主演の香港映画風?
 とにかく、難しいこと考えっこなし、理屈ぬきで単純に楽しめる、完全無欠のB級冒険活劇。秋の夜長にポカ〜〜ンと暇な時間ができた人は、ぜひぜひ、どうぞ。

 
  三枝 貴代
  評価:C
   時は江戸、八代将軍吉宗の時代。豊後温水藩主・乙梨利重は刺客に命を狙われる。救ったのは、あまりに弾けた性格ゆえに江戸ではなく国元で育てられた娘・蜜姫。父が狙われたのは、藩合併計画(現代の市町村合併じゃないんだから〜・笑)の阻止のためか、吉宗の秘密をにぎったせいなのか。蜜姫は自ら忍びとなって出奔、真相究明に乗りだす。
 楽しいですね〜。時代小説が、時代考証やら、歴史観、文学性なんかまったく気にしなかった頃、講談の伝統を引く純粋娯楽ホラ小説だった頃を思いだします。(わたしが生まれていたわけじゃなくて、母から聞いた話、なんですが。)
 おしむらくは、蜜姫のキャラクターが、浮世離れした天然お姫さまか、とことん俗っぽい姫君離れした俗物か、決定しきれていなくて、弱いということです。これがライトノベルだったら、もっとガーンと強烈なキャラになるのになあ、と。忍び猫など、設定が色々ぶっとんでいるだけに、超もったいないです。あと一歩。

 
  寺岡 理帆
  評価:B
   時代小説なのだけれど、やわらかな文体で肩の凝らない娯楽作。お茶目で向こう見ずな蜜姫がかわいくってよい。
 まるで三毛猫ホームズのように(笑)大活躍の忍び猫・タマもかわいいし。娘がおんみつとして家を出る、と言い出しても慌てず騒がず、男物の衣装と路銀を用意してやる肝の太さと、一目惚れした若い男に会いたくて夫の目を盗んで追いかけてくる純情さ(!?)を併せ持つ蜜姫の母君もいい味出してるわー。
 かなりご都合主義で軽いノリなんだけれど、ちょっと疲れた頭をほぐすのにちょうどいい感じ。どうやらシリーズ物らしいのだけれど、これ一冊でも充分楽しめた。
 ただ、もうすこし恋のスパイスが利いていてもよかったかなー。まあ、色気が全然ないところがまた、蜜姫の魅力なのかもしれないけれど。

 
  福山 亜希
  評価:B
   お姫様が大活躍する時代劇風小説。コミカルな面白さと、アップテンポの勢いのよいストーリー展開で、ぐいぐいと引き込まれるようにして読んでしまった。この本はミステリーとアクションを時代劇に混ぜてしまったような雰囲気がある。しかも主人公がお姫様ときているから、漫画を読んでいるような楽しい感覚で読むことが出来た。 ただし、私は歴史ものの小説はこれまで司馬遼太郎の小説しか読んでこなかったため、少し違和感も覚えてしまう。司馬遼太郎の作品は、細部まで検証されており、かなり事実に即したものとして安心して読めた。一方のおんみつ蜜姫は、歴史にまったく無知な私でもフィクションであることくらいまでは分かるのだが、どの程度までフィクションであるのか、そういう点が判断しづらく、どこまでリアリティーを持って読んでいけばいいのか苦労してしまった。