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ダンテ・クラブ
ダンテ・クラブ
【 新潮社 】
マシュー・パール 著
鈴木恵 訳
定価 2,520円(税込)
2004/8
ISBN-4105447017
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  安藤 梢
  評価:A
   ダンテの『神曲』をめぐる文学ミステリー。重厚なストーリーにまず圧倒される。ダンテを読んだことがなくても、その詩が及ぼす影響から『地獄篇』がいかに力の強い作品だったかは容易に想像ができる。あたかも人を殺人に駆りたてる呪文のような詩なのである。犯人探しやトリックよりも、ダンテの文学そのものの思想により重点を置いて描かれている。ダンテの詩に真似て殺害されたその死体は鮮明に描かれ、あまりの惨さに目を覆いたくなる。こんなひどい殺し方をよく思い付き、よく実行したものだ。
 それぞれの登場人物の視点から場面がポンポンと移っていくので、ぼーっと考え込んでいる暇はない。ついて行くのがやっとだ。場面転換が早いのに比べ、ダンテの詩を扱うときは極めて慎重に言葉が添えられている。この作品の魅力は、ダンテ自身とその作品の魅力であることはもちろんだが、その作品を理解したいという人々の真摯な想いにあるのだろうと思う。

 
  磯部 智子
  評価:A
   「ダ・ヴィンチ・コード」のジェットコースター的展開が凄〜く面白くて、楽しめたけど、人物造形がなんか薄い(失礼!)と感じた方も、これなら魅力ある実在の詩人達と、19世紀のボストンの街に出会える歴史文学ミステリ。発端は連続猟奇殺人。その手口と「地獄篇」との関わりの意味に気づいたのは「新曲」の英訳に携わる「ダンテ・クラブ」の文学者達。「ダ・ヴ・コ」の、キリスト教、ダ・ヴィンチ、「最後の晩餐」などに対する膨大な知識が、抜群のストーリーテラーによる小道具的な役割だったのに対し「ダンテ・クラブ」では、作者がダンテ研究者でもあり、ダンテそのものに対する情熱、敬意に引き込まれる。「神曲」を埃が被った古典にしていたのは、それを取り除く手間を惜しんだ側の責任ではないかと思うほど、魅力に満ちた作品の一端も窺える。人種差別が色濃く残る南北戦争後の混血の巡査の存在などサイドストーリーにも興味を惹かれる。

 
  三枝 貴代
  評価:B-
   南北戦争の最中、ボストンの先鋭的な知識人たちは、ダンテの『神曲』を米語訳するために水曜の夜毎に会合を持った。その名もダンテ・クラブ。しかしハーヴァード大学理事会は、宗教的な意味でも、現代語軽視の立場からも、その動きを快く思っていなかった。そんな中、『神曲 地獄篇』の連続見立て殺人が起こる。米国初の黒人警官レイ巡査が捜査に乗りだし、ダンテ・クラブの面々も彼より早く犯人を見つけだそうと捜査を始める。
 いやあ、もう、何度投げだそうと思ったことか。最初こそすぐに死体がでるものの、なかなか次の殺人事件が起きないし、説明はむずかしいし、うっとうしいし、登場人物暗いし。しかしそこを我慢して中盤を越えると、どんどん怖く、面白くなっていきます。前半の説明もこのためだったのかと納得します。なんとか前半を乗り切りましょう。

 
  寺岡 理帆
  評価:B
   実在した人物を登場人物に配し、当時の雰囲気を見事に再現しつつダンテの「神曲」に絡んだ連続殺人として物語を仕立て上げた意欲作。よく『ダ・ヴィンチ・コード』の引き合いに出されているけれど、こちらはもう少し腰を据えた感じ。前半はかなり読み進めるのがつらかった…。
 殺人方法はかなりショッキングだし、予想外の犯人だし、エンタメとしてもっと面白くなりそうなのに、ちょっとテンポが悪い。ホームズ医師父子の葛藤など、人間関係はもう少し書き込んでほしかったな。事件も犯人から振り返ってみるとなんだかあまりにご都合主義というか、うまく被害者見つかりすぎ!というか。わりと安易…?
 前半かなり苦労して読み進めたわりに、読み終わった後あんまりその苦労が報われた感じがしなかった(苦笑)。前評判が高すぎた、というか、わたしが期待しすぎた感じかなあ。