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退屈姫君海を渡る

退屈姫君海を渡る
【新潮文庫】
米村 圭伍
定価 500円(税込)
2004/10
ISBN-4101265348


  岩井 麻衣子
  評価:C
   シリーズ最新作。風間藩江戸上屋敷で退屈な日々にうんざりしていた姫君・めだか。そこへ彼女の夫で讃岐へ帰っていた藩主・直重が失踪したというニュースか飛び込んでくる。夫を助けるためという口実を得、めだかは江戸を飛び出し海を越え救出作戦を決行する。身分の高い殿や姫が市井におりて活躍する物語らしく、登場人物たちはみんな軽く小気味いいほど勝手で、突拍子もないお話が進んでいく。お祭り騒ぎなだけかというとそうでもなく、捕らえられた直重が藩の運営も大変だから一回やって見ろというような妙に重い言葉も飛び出すのである。シリーズのファンには間違いなく楽しめる作品であり、時代ものの痛快な物語が好きな人も新たなファンになるだろう。個人的にはお約束のエロ行為の描写に時々現実に引き戻されるのがちょっと好みではない。昔話のような語り口が全体をほんわかムードに包みこみその世界観を楽しめるのではあるが。

  斉藤 明暢
  評価:B
   タイトルの通り、退屈が何よりお嫌いなお姫様(姫と行ってもれっきとした藩主の正妻なのだが)が活躍する物語である。藩と君主の一大事を解決すべく、個性的というかどこかお気楽な家臣その他を連れてのナゾ解きの旅というわけだから、それなりに緊迫した状況ではあるはずなのだが、どこか間の抜けた道中となるのは、お約束というものだろう。
 物語と文体の軽妙なテンポにいったん乗ってしまうと、するすると最後まで楽しく読み切ってしまった。謎解き部分や決着のつけ方がヌルいなどと言うのは野暮だとは思うが、そうすると最後の決着をつけるあたりだけが浮いてる気がしないでもない。笑いなら笑いで最後まで押し切って欲しいと思うのだが。

  平野 敬三
  評価:C
   「襦袢の前が開いて、ふくよかな胸の谷間があらわになりました」。これ、主人公のめだか姫の描写だが、お転婆のお姫様をこんなふうに書いてしまうところが、本作のひとつの特徴だ。ハチャメチャな冒険噺でありながら、ふと見せる主人公たちの真剣な眼差しにリリティを与えているのは、姫が脱ぐところでは脱ぐ、という部分がしっかりと示唆されているからだろう。このあたりのアダルトサイドの時代劇への取り込みかたは、けっこうアバンギャルドな感じで良かった。ただ、後半の「解決篇」にくらべて、前半の導入部の退屈さ加減は何とかしてほしかった。いろいろと伏線が張られているのは分かるが、物語の面白さを失速させてまで「説明」してしまうのはイカンと思う。

  藤川 佳子
  評価:B
   「えっ、殿が失踪!?まあ素敵!」なんて言えるのは、モノホンの姫しかいないわけですよ。もし一般人がこんなこと言い出したら、おまえは何様のつもりだと思うでしょう。あまりにも、のんき。風見藩二万五千石の大名・時羽直重の正室つばめ姫が、老女の諏訪、将棋差しの古文五、くの一お仙を引き連れてお家乗っ取りの陰謀を暴く冒険大活劇。でも、タイトルに「退屈姫君」とあるくらいで、藩存亡の危機もつばめ姫にとっては、ただの面白い退屈しのぎに過ぎないわけであります。つばめ姫一派も、囚われの身になってしまう夫・直重もどこかのんびりしている。読んでいて「君たちはのんきでいいね」とため息のひとつもつきたくなります。でもそれは私が一般ピープルだから。のんきに生きることは、特権階級の人にのみ許された生き方ではないかと思うのです。だから、つばめ姫のことも憎めない。ま、姫だからしょうがないか、と思ってしまうのでございます。

  和田 啓
  評価:D
   小学生だった頃、NHKで『鳴門秘帖』なる時代劇を放映していた。剣術使いの主人公・田村正和の活躍にヤンヤの喝采を送っていた記憶がある。時代劇ながら漫画の要素を取り入れた軽妙洒脱、スピード感に富んだ演出・作風であった。本作も晴朗にして自由闊達。時代考証をやった上での読者を意識したストーリー展開。さながら講談を聴いているようにときに錯覚させられる。
 「余詰め」とは詰将棋の世界の言葉で、作者の意図した解答と異なる解き方が存在することを指すと云う。総じて普段慣れない時代物のせいか最後までシックリこなかった。読み方は千差万別。江戸ものを好きな方にはお薦めかも。