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裸者と裸者(上下)
裸者と裸者(上下)
【 角川書店 】
打海文三
定価 1,575円(税込)
2004/9
ISBN-4048735578
ISBN-4048735586
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  磯部 智子
  評価:A+
   この手のもの(ってなんだ? 戦争が題材)に二の足を踏む軟弱な私でも上下巻一気読み、とにかく面白い上質のエンターテイメント作品。打海文三作品はお初だが、その臨場感溢れる迫力ある描写、人物造形の素晴らしさに舌を巻く。応化2年(お、元号続行!)近未来の日本は政府軍と反乱軍に分かれ内戦状態にある。父を殺され母は行方不明の7歳の海人は幼い妹と弟を守っていこうと必死に現実に立ち向かう。上巻では反乱軍に拉致された時に身につけた孤児部隊での戦闘能力を買われ、政府軍内で頭角を現していく海人の生き様を中心に描かれ、下巻では双子の姉妹、桜子と椿子に話が移る。この無敵の壊れもの姉妹(相当なもの)もまた戦争によって祖父母と母を殺され、離婚して別に暮らす父に頼ることなく女だけのマフィア、パンプキン・ガールズを組織する。子供のままで居る事を許されない過酷な状況の中で悪に手を染め濁水を飲みながらも、どこか清潔で凛として全てに向き合って行く姿勢が好ましい。戦争物にこんなに気分が高揚してもいいのかと自分に問わなければならぬ事はさておき、続編を早く読みたい、海人たちに再会したいという吸引力をもった作品である。

 
  三枝 貴代
  評価:A
   世界同時多発的に起こった内戦で、各国の難民が日本へと流入した。だが日本の平和も長くは続かない。国軍は分裂、地方には軍閥も生れ、日本も泥沼の内戦に突入する。街には戦争孤児があふれ、彼らは生きるために武器を持って闘わなくてはならなくなった。
 風変わりなタイトルはノーマン・メイラーの『裸者と死者』に由来するらしい。タイトルから「死者」の語を外した理由は、死んだ人間のことなんかにかまっていられるかという、更に究極の戦場状況を表し、実際屍を蹴散らすような勢いで孤児達は疾走する。
 上巻では、7才にして弟と妹を守って生きなくてはならなくなった少年海人の、主に政府軍での闘いが、下巻では、美しい双子の姉妹が女ばかりのマフィアを作って戦場を勝ち抜いていくさまが描かれる。
 異様な迫力で突っ走るこの戦争小説は、平和だの善だのといった言葉を意味をよく考えもしないまま唱えているわたしたちをまるであざ笑っているかのように明るく強い。

 
  寺岡 理帆
  評価:AA
   ものすごい力を感じる作品。圧倒的な筆力で上下巻を一気に読ませる。この現状はまさに現在のイラクを彷彿とさせる。TVの画面でまるで別の世界のことのように映し出される現実を、この作品では自分たちのこととして目の前に突きつけられた感じ。
 悩みながらもやるべきことをやり通し、少しずつ力をつけていく海人。すべての現実をそのまま受け容れ、しなやかに生き抜いていく月田姉妹。彼らは戦災孤児だけれど、無力のままの被害者では終わらない。悲惨な現実と折り合いをつけつつ自らに課したハードルをクリアしていくそのたくましさは素晴らしい。
 かなり多くの登場人物が出てくるけれど、彼らがとても魅力的に描かれていて、それがこの作品に奥行きをもたせているみたい。
 ぜひぜひ、多くの人に読んでもらいたい作品。面白いから!