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文学刑事サ−ズデイ・ネクスト2
文学刑事サ−ズデイ・ネクスト2
【 ソニ−・マガジンズ 】
ジャスパ−・フォ−ド
定価 2,100円(税込)
2004/9
ISBN-4789723615
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  安藤 梢
  評価:AA
   ものすごく面白い。なぜ一作目を読まなかったのかと、激しく後悔した。一度読み始めたら止まらない。ジェットコースターのようなスピードで物語は展開していく。登場人物の強烈なキャラクターもさることながら、文章の端々に練りこまれているユーモアの数々に笑わずにはいられない。物語の中にどっぷりと浸かってしまえる気持ちよさを思いっきり味わえる一冊である。
小説の中の主人公がさらに小説の中に入り込むという二重の世界の重なりに、さらに時間の流れまで利用して楽しませてくれる。とにかくありとあらゆる方法で読者を楽しませようという、サービス精神を感じる。その一つとして、脚注を電話として使う発想、お見事である。そんな、文章全部を使って表現しようという試みがいたるところに見られる。
 肝心の『大鵬』に入り込む場面が意外にあっさりと通り過ぎてしまっているところが多少気になる(もっと危険な本だったはずでは?)が、本好きなら誰でも一度は本の世界に入りたいと思ったことがあるであろうという著者の狙いが、読者心をくすぐる。とにかく面白い。

 
  磯部 智子
  評価:B+
   読み終えた途端に「3」は未だか〜!?と叫びだしたいくらいの良い出来。「1」はそこそこ面白かったけど、奇想どまりでは?と言う杞憂が払拭され大満足、ミョ〜な世界は更なる広がりをみせ、変人心はくすぐりまくられ、本気であちらの世界への移住を夢見てしまう。文学刑事サーズデイ(女)、我々とはかなり違う横の世界の住人。コンピューターやジェット機が無い代わりタイムトラベル、クローン技術が発達しペットは絶滅種のドードー鳥が大人気。そんなパラレルワールド最高の娯楽が文学、読み間違いではないブ・ン・ガ・クである。犯罪も文学がらみ、本の中に入り込みジェーン・エアを誘拐するわ(1での事)作家の直筆原稿の偽造はもちろん、文学的凶悪犯罪が多発する。その上また別の世界、本の登場人物たちのブックワールドがあり、あのチェシャ猫がその大図書館の管理を一手に引き受けている。サーズデイは本の世界に入り込めるブックジャンプを習得し・・と、もっともっと変な事がテンコ盛りで枚挙にいとまが無いほどである。文学と奇人変人のオンパレードに体中アドレナリンが駆け巡り、ツルツルの脳みそにブンガクが激しく直撃する。もちろん評価はAだけど、やっぱり超B級作品としてのスジを通してのB+だ!

 
  三枝 貴代
  評価:A+
   ドードーやマンモスが闊歩するもう一つの英国。前作『ジェイン・エア』事件での活躍ですっかり有名人になってしまったサーズデイは、TVやイベントに引っ張りだこだ。大忙しの最中、弁護士から訴訟されたと連絡を受けるが、いったい何の事件で訴訟されたかもわからない。昇進の目処はたたないし、お父さんは、地球がねばねばの薄ピンク物質になっちゃうと言うし、妊娠して喜んでいたら夫を消されちゃうしで……。
 物語が始まるやいなや、サーズデイは、ありとあらゆるわけのわからない目にあってしまいます。もちろん彼女は心底うんざりするのですが、対して読者はもうノリノリです。面白いのなんの、よくこんな無茶なお話を考えつくなと感心します。米国型コメディよりも英国型コメディの方が肌にあってしまうひねくれ者のみなさんには、特におすすめ。
 しかしこのお話、前作の続きで、次作へと続くので、できれば順番に読んだ方が良いかもしれません。

 
  寺岡 理帆
  評価:A
   とにかく細かい設定というか、世界観の面白さがこの本の一番の魅力だと思う。本の世界へ旅することができる「ブックジャンプ」なんて序の口。本の世界と現実世界とを結ぶ通話回線”脚注電話(フットノーターフォン)”に本の世界の秩序を守るための組織・ジュリスフィクション、猫が管理する広大な図書館。
 さらに筋とは関係ないけど魅力的なエピソードもてんこ盛り。今回はディケンズを読んでいなかったこれまでの人生をちょっと後悔(笑)。
 ただ、話があちらこちらに広がりすぎて、ちょっと散漫な印象があることも確か。前作と違って明らかに「次作へ続く」な終わり方も不満かな…。
 そういった細かい難点はあるものの、文学ファンなら手放しで愉しめる超娯楽作であることは確か! 肩肘張らずに頭を空っぽにして、どうぞ♪

 
  福山 亜希
  評価:A
   大好きな本に出会うと、それが例えフィクションであっても、その本の世界が現実に存在しているのではないかと思い込んでしまうことが、私にはよくある。子供の頃、私は赤毛のアンが大好きで何度も繰り返して読んでいたが、赤毛のアンが作者のモンゴメリの頭の中で創造された人物とはどうしても思えなかった。アンはこの世に本当に存在していた女の子で、赤毛のアンという物語は実際にあった物語なのだと、疑いようのない気持ちになっていた。
 文学刑事は、文学作品の登場人物が実際の世の中で役割を与えられ、大活躍しているという設定である。主人公の文学刑事は、文学作品の中に入り込んでしまうことができるのだ。この設定自体が天才的である。架空の世界、虚構の世界を、現実の世界だと思い込みたい文学ファンの心をくすぐる設定だ。こんなストーリーを思いついた作者のジャスパー・フォードには敬服してしまう。この本が映画化されることがあったら、是非観たい。