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万物理論

万物理論
【創元SF文庫】
グレッグ・イーガン
定価 1,260円(税込)
2004/10
ISBN-4488711022


  岩井 麻衣子
  評価:C
   SF系のファンタジーやサスペンス、ホラーはとても面白いのに、ハードSFになると急に難しくなって読者を選びやがるのは何故だろう?どうしてあんな難しい話しを作る必要があるのだ?SFの嫌なところは、「わかんない」というと「ふーん、こんなにおもしろいのにかわいそうだね」と関東アクセントで上から見られるような気分になることなのだ。もちろんこれはバカな関西人のひがみだ。こっちも分かっているところがさらにおもしろくないぞ。巷でとっても評価の高い本書。第1部で読者を振るいにかける。息も絶え絶えになって第2部にたどりつくとまたまた我慢の世界だ。話しは進んでくれるが、時々差し込まれる専門用語にげんなり。小説は娯楽のはずなのに、高度な講義を受けさせられているような感覚だ。私はこれでも理系出身なので少しはましだろうと思うのだけど拷問に近かった。楽しみたいならものすごい予習が必要だと思う。もしくは「万物理論」の読み方読本とか。柱は人間関係だと思うんだけど、枝葉が難しすぎてなんだかよくわからん。

  斉藤 明暢
  評価:B
   最近の近未来ものでアメリカを舞台にした小説や映画は、テクノロジーが暴走した使われ方をしている世界が描かれることが多い。行き過ぎた商業主義や、バイオテクノロジーの過度の発達といったものは、個々の描写は突拍子もないものにも聞こえるが、昨今の現実世界の状況を見ていると、その伏線はすでに存在しているものばかりだ。
 とはいえ、話が本筋の物理理論に移ってくると、一気にSFらしさが満ちてくる。描かれる人物、文化やコミュニティは現代風の味付けだが、あることをきっかけに世界の有り様そのものが変化してしまうというのは、往年の王道SFを連想させる雰囲気であった。残念ながらこちらの感覚が麻痺しかかっているのか、作中の人物描写がもうひとつエキセントリックさに欠ける気がしたが、一度では味わいきれない濃厚な部分を持ち合わせていて、久々に「なんとかして読みこなしたい」と思える作品だった。

  藤本 有紀
  評価:C
   2055年、南太平洋に浮かぶ人工島・ステートレスで物理学の会議が開催される。そこで“万物理論(セオリー・オブ・エブリシング)”が発表される予定。研究者のひとりで27歳のノーベル賞受賞者・ヴァイオレット・モサラのドキュメンタリーを制作するため、アンドルーは新種の精神病“ディストレス”の番組を蹴ってステートレスに入る。コレラ罹患に続き、TOEの完成を阻もうとする狂信者グループに拉致され、いつしか命懸けの主人公。プロット自体は注意深く読めばそう複雑ではないが、論理の緻密さについていくには相当の熟読が求められるという感じ。汎性というジェンダーについては想像力の及ぶ範囲。羽の生えたペニスを持つ男性が登場する寓話(羽がちぎれて血まみれになる)が文学的に高い評価を得ていて、その女性作者にブッカー賞とは気が利いている。本当にメラトニン・パッチがあればSF大作もかかってこい、というところなんだけど。