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勝手に目利き
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文庫本班

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【集英社】
古川日出男
定価 1,365円(税込)
2004/10
ISBN-4087747212

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  朝山 実
  評価:C
   停められたままの車の後部トランクの中に次々と人が消えていく。それを長々と眺めている男の話の、「さよなら神さま」。
 自殺しよう、それも餓死がいい。思い立った肥満の“あたし”が廃墟と化した住宅地をさまよい、そこで不思議な部屋を発見する。いるはずの住人の臭いはしないし、部屋にあるモノは綿密に形作られた映画のセットのよう。そんなところに住み着いた女の、「あたしはあたしの映像のなかにいる」などは二度、三度読むと怖いかも。以前、部屋を映して住人を推理するというテレビ番組があったけれど、そんなのが頭に浮かんだ。トータルに見ると19の短編の大半は3日もしたらどんな話だか曖昧(夢ってそうだけど)で、また読み直すんだけど……。ボタン、ポタンって水道の蛇口から滴る音が聴こえてくるけど“ほかにだれもいない”感じな、ある意味濃厚な作品集っていうか。この感じ、おそらく読む人が読めばすごく面白いんだと思います。

 
  安藤 梢
  評価:B
   1つ1つの話が短く、さらっと惹き込まれたかと思うとふっと終わってしまう。何だか儚い19の物語である。まとめて読んでしまうには勿体ない。全く違った話が集まっているのに、共通の透明感とほんの少しなげやりな空気が漂う。もう少し続きを読みたいという絶妙のタイミングで物語りは終わる。現実の世界をどこか皮肉ったような非現実を持ち込み収拾がつかないままに、読者はその途方もない世界に放り出されてしまう。しかし最後の言葉がピシリと決まり、全体をうまくまとめている。
 おすすめは、11話目「光の速度で祈ってる」。叔父夫婦が猫の子供を産むという話。人が猫を産むという突飛な発想も、ごく自然な流れですんなり受け入れてしまう。予想外の展開の後、結末は少しせつない。

 
  磯部 智子
  評価:A
   物語性は高いが、高湿度の気味悪さが全く無く、にわかに日本人作家が書いたものとは信じがたい騙り小説。非常に心地よく騙される不思議な短編集。どの作品も10頁前後の超短編集なのだが忘れ難い印象を残す。妖精の足跡を求めて庭に砂山を作る『ラヴ1からラヴ3』そこには19個のちっちゃな足跡、でもビデオカメラには額に怒りじわのある三毛猫がちょんちょんと肉球を押す姿が…ここで正体見たり、で終わったりはしない。主人公は、三毛猫の気持ちを考えて又、砂山を作るのだ。なんだ、タダのいい話かって?それは最後まで読んでから判断して頂きたい。生後6ヶ月で文学を読み出した天才乳児『オトヤ君』の「ベビーカーを拒否する人生」はどうなるか?『低い世界』では子供から大人への境界線越えを描き、それを決意した自分自身の子供時代を思い出す。『光の速度で祈っている』では叔父夫婦の間に猫の子が生まれる。これが驚くべき事に薄気味悪い話ではなく、人間の愛情についての大きな広がりをみせる。御伽噺のような暖かさを求める方にも、もっとひねくれた私のような読者にも其々の温度で受け取る事が出来る極上の贈り物である。

 
  小嶋 新一
  評価:D
   ファンタジー掌編集。すぐにでも読み終えられそうな、ごく短い小説が19編並んでいるが、その大半はいまいちぴんと来なかった。自らの「研ぎ澄まされた感性」に自信のある方なら、そうそうこれってわかる、この感じっておしゃれだよね、と反応できるのでは。残念ながら僕は、そういう感性型人間ではなかったもので。
 とは言え、そんな僕にも「これっておもろいやん」と思える作品もありました。
 年若い結婚がクール、というブームがみるみる全国を覆い、低下の一途をたどっていた出生率が反転上昇を始める。激増する人口、悪化する治安の果てにあるものは……『ベイビー・バスト、ベイビー・ブーム』
 ボーリング場の駐車スペースに停められたホンダ・アコード。なぜか、そのトランクの中に消えていく人々。それを見守る「俺」はどうする?……『さよなら神様』
 昔だったら不条理ものとか、ナンセンスものって言ったのかもしれないけど、今はそんなジャンル分けはしないんだろうなあ。で、僕じゃない誰かに、すすめます。

 
  三枝 貴代
  評価:B+
   古川さんには、ふとした弾みで急激に話がでかくなる作家さんだという印象があります。長い小説世界を維持するために大上段に振りかぶった結果なのだと思っていたのですが、この本を読んで、そうではないことがわかりました。だってものすごく短い話でも、とんでもなく大仰になっていたりするのです。天然ですよ。集英社のPR誌『青春と読書』でも、古川さんはあいかわらず電波ゆんゆんな発言をなさってますが、今後は広い心で、暖かく見守っていきたいなと思いました。天然なんだから、しかたがありません。
 さて、この短編集には、とびきり短いお話が19編納められています。あらすじをいくつか紹介してみなさんの興味を引くことは簡単ですが、それはやめておきたいと思います。どれも非凡な発想に基づいた物語ばかりですが、わたしがわたしの言葉で語ってしまっては、何かが違ってしまいそうなのです。どれも、あらすじ以上に独特の語り口、間合い、誘導、驚かしなど、言葉の絶妙な取り合わせによって、とってもチャーミングにしあがっているからです。ぜひ直接読んで、言葉の流れを愉しんで下さい。ぎゅうっっっと抱きしめたくなるキュートな本です。

 
  寺岡 理帆
  評価:A
   さまざまなイメージの宝石箱のような19篇のショートストーリーズ。どの短篇も、これからどんどん話が膨らみそうなところでパタッと終わってしまうところが、なんだか映画の予告編ばかり立て続けに見ているようだ。面白いですよね?映画の予告編って。
 本当に短い話ばかりなのに、どれも際だっているというか、脳裏にイメージがしっかりと焼き付く。前の恋人が教えてくれた妖精の足跡の見つけ方を実行する男、餓死しようと誰も住まない部屋に閉じこもる女、学校の屋上の使われなくなった貯水槽で泳ぐ美しい熱帯魚、郵便ポストを青く塗るために夜の街を失踪する動物たちの自転車の群れ。そんな数々のイメージをぎゅうぎゅう詰めに詰め込んでパッケージ。
 まさに、この本は作者から読者への「贈り物」そのものだ。

 
  福山 亜希
  評価:C
   作者の独特の世界観が詰まった一冊だった。19の短編で構成されているそれぞれの物語は、どれも最初から最後まで充分に読者を引き付けて離さない魅力がある。だが、私にはどの物語ももう少しボリュームが欲しかった。最初の二、三行を読めば、ぐっとその物語に入り込んでしまうのだが、その世界観がどんなものなのかもっとじっくり見ようとすると、姿を消してしまうように物語が終ってしまう。そしてまた新しい短編へと興味を奪われて、その繰り返しが少し辛かった。今まで読んだことの無い雰囲気を感じた本だけにもっと長く一つ一つのストーリーを楽しみたいと思った。