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勝手に目利き
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空の中
空の中
【メディアワークス】
有川浩
定価 1,680円(税込)
2004/11
ISBN-4840228248
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  朝山 実
  評価:C
   「ET」みたいなほのぼの系のお話かと思っていたら中盤で急カーブ。人類(といっても、登場するのは全員日本人)vs雲みたいに空に浮かんでいる正体不明の生命体とのバトル。その怪物は元々は一体だったものが、人間の攻撃で散り散りの固体に分かれてしまった。政府は対策に苦慮し、怪物との共存の道を探ろうとする。けれども怪物側は強硬派から穏健派まで分かれ、意思統一が図れない。膠着状態に出現するのが、ある少年が拾い育てた異生物の分身「フェイク」。フェイクの登場するあたりから面白さはアップする。フェイクは少年に好かれようとして「仲間」を食い尽くす。お話の中では、混乱する異生物を「多重人格症」と重ねて説明されてみたりするのだけど、ワタシがむしろ連想したのはパレスチナの終わりなき戦争。物語を支える恋物語はアニメっぽいし、全体の雰囲気はウルトラマンよりガメラ映画な感じというか。それだけにフェイクの無垢さがせつなくもある。

 
  安藤 梢
  評価:B
   突然、空が落ちてきたらどうなるだろう。正確には落ちてきたのは空ではなく、白い巨大な物体なのだが。しかも生きている。どこまでも果てしなく続いていると思っていた空の中に、生き物が存在していたら……、そんな設定の上に物語りは成り立っている。始めは、未知との遭遇というようなかんじなのかと思ったら、予想以上に細部まで丁寧に描かれていて、現実的である。何より登場人物がとても魅力的(多少かっこよく描き過ぎな気もするが)。しつこいくらいに繰り返される「白鯨」(未知の生物)との討論は、自分でも無意識に使っていた言葉を再定義されていくようで面白い。感覚であやふやに使ってしまっている言葉や概念の説明はなんと手間の掛かることだろう。理屈をこねくりまわしているような遅々として進まない交渉の中にも、読ませる工夫がされている。
 一度犯した過ちを償うにはどうしたらいいのか。大人と子供の視点からその答えが見つかる。

 
  磯部 智子
  評価:C
   実年齢と言うよりは、精神年齢の若い人なら楽しめるのだろうか? 私は非常に違和感を持ってしまった。とにかくみんな若いのだ、高校生だけじゃなく大人も。言葉使い一つとっても、これはないだろう新入社員研修を受けなかったのか!?と、私の中のオヤジ心が叫び声をあげてしまう。発端は二つの航空事故、一人娘、一人息子だった其々の孤児の異なる生き方。それがひとつになった時、どうしようもない心の空白は埋まるのか。高校生の視点で描いた部分は、自然で真摯だし好感を持てる。無口で朴訥、たまに口を開けば深さと重みのある一言を発する大きな温かい心の宮じいも良い。只、この宮じいも神仙的スーパー爺さん、子供から見た大きな大人であって、大人から見た大人ではないのである。もちろん、他の大人がしっかり造形されていれば、それはそれでよいと思うのだが。それとこの厚さ、延々と続く論争、「白鯨」との禅問答のようなやりとりは必要だったのか。ここでふと思う、ライトノベル慣れしていない私が、ファーストフード店で席に案内されなかったと文句を言う種類の批判をしているのではないのか。未知の生命体がおでんの具に似ていて何処が悪い?そのはんぺんに名前をつけてペットにして何処が悪い?そんな諸々が気にならないなら確かに青春小説しているのだから。

 
  三枝 貴代
  評価:B
   高知沖2万メートルの上空で、連続して航空機事故が発生した。その事故で父を失った少年・瞬は、浜に打ち上げられたクラゲに似た生物を拾う。フェイクと名付けられたその生物は、携帯電話を通して瞬に語りかけてくるようになった。瞬はフェイクを新しい家族として異様なまでに可愛がる。一方、事故の原因が見えない巨大生物だということが判明して――。
 これはライトノベルです。ここ、要注意。でないと、登場人物の会話のあまりにアニメ的な子供口調&説明口調に腹を立てたり、地の文の日本語の間違いに唖然とすることになります。この程度の未熟さは、ライトノベルの場合瑕疵にはならないし、編集側も修正させない傾向がありますので、さらっと無視しておきましょう。
 読むべきは、この新鮮な感性なのです。よくあるファーストコンタクトものなのですが、相手を宇宙人にしなかった点が秀逸。ライトノベルらしい、素直で優しく前向きな感性もさわやかです。また、高知弁で書かれた会話が生き生きとして魅力的。本作は有川さんの2作目。今後が楽しみな新人です。

 
  寺岡 理帆
  評価:B
   500ページ弱とむちゃくちゃ厚いけれどあっという間に読めてしまった。とにかく文章が読みやすい。軽い。
 物語はおもしろいんだけれど、個人的には登場人物が…。へらへらしていて一見軟派、けれど実は頼りがいのある高巳と、めちゃめちゃ意地っ張りで生真面目で、しかも照れると真っ赤になってそっぽを向くような光稀。「なんだかんだ言って、かわいーんだよね、光稀ってば」「バカっ…!!」という、もうベタベタなラブコメは、ちょっともうこの年ではキビシイわ…(苦笑)。初対面でいい大人が(しかも職場で)いきなりタメ口で話し始める辺りからしてすでにダメだった。
 中高生で読んだら、もうものすごくおもしろくってめちゃめちゃ感動しただろう、と思う。それは自信がある(笑)。なんだかんだ言ってもこの厚さを一気に読ませてしまうその力は並みじゃない。
 けど少なくとも今回は、頭の固くなった今のわたしには、ちょっと軽すぎた…。