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女神の天秤

女神の天秤
【講談社文庫】
P・マーゴリン
定価\840
2004/12
ISBN-4062749408

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  北嶋 美由紀
  評価:B
   アメリカの法律事務所が日本とは大きく違い、まるでひとつの企業のような所もあると知識としてはあったが、日本の法曹界にも不案内な私には実態がつかめない。この作品の舞台は正にこの法律事務所であり、話の中心は薬害訴訟である。虚虚実実のかけひきが魅力の法廷場面も少なく、専門用語もわかりにくい。登場人物の役職、事務所の名称さえ覚えるのが大変そうで、最初は理解不能状態に陥った。しかし、途中で原題(「アソシエイト」=下っ端弁護士)が目に入ってから見方を変えた。正義の女神に由来するという訳書のタイトルより「あるアソシエイトの災難」として読むと俄然おもしろくなった。次々とトラブルにまきこまれるアソシエイトと中盤から今までバラバラだったことが段々ひとつにまとまってゆき、無駄な要素はほとんどない。途中で浮上する「意外な犯人」も、さらにもうひとつどんでん返しがまっていて、最後まで目が離せない。

  久保田 泉
  評価:B
   ページターナーという言葉は初めて知りました。つまり、ページをめくる手が止まらない。フィリップ・マーゴリンの本は出す本が皆そうらしい。主人公は、苦労して自力で就職した、最高の法律事務所で働く平弁護士のダニエル・エイムズ。だが、その成功は決して磐石ではない。そんな中、彼は製薬会社に対する薬害訴訟を担当することになるが、思いがけない出来事から窮地に立たされてしまう。調査を開始するダニエルの周囲で様々な事件が起き、ついに解雇を言い渡され殺人までおきる。著者は元弁護士だけあって、法曹界の描写はさすがに上手い。帯にあるように、どんでん返しの連続は、確かに次へ次へと先を読みたくなる。しかしその勢いを受け止めるには、ラストの持つ力はやや弱い。主人公の味方に、頼りになる女性が出てきて活躍するのはよくある展開だし。ラストのダニエルの善行も、むしろ無い方が良かったと思う。

  林 あゆ美
  評価:B
   筋を追い出すとページを閉じられなくなる。犯人捜しという一本の道を追うのではない。おもしろい法律サスペンスは、犯人は誰かと考え、それから世の不条理についても考えさせる。
 念願の大手法律事務所で弁護士として職を得たダニエルは、目の前の仕事を誠実にこなしていた。ところが製薬会社の訴訟を担当して致命的なミスをしてしまう。ダニエルのこのミスは吉とでるか凶とでるか。はたまた、これはミスなのか? 驚く仕掛けがふんだんにあり、びっくりしている間に話はどんどん進む。結末がわかるまでは、本を読むのを誰にも邪魔されたくないと、強い集中力でいっきに読んだ。なるほど、こういう作品をページターナー(おもしろくてどんどんページを繰りながら読むる本)だということに納得。
 プロローグはもう少し、ふくらみが欲しかったけれど、最後はすこーし、力業のような気もするけれど、うん、おもしろかったです。

  手島 洋
  評価:B
   マーゴリンを読むのは93年の『黒い薔薇』以来だが、その手堅さは今も健在だ。次々と息をつかせぬ事件が起こり、最後の意外な結末まで一気に連れて行ってくれる。
 弁護士のダニエルは顧客の製薬会社に損失を与えたという嫌疑で事務所を解雇され、殺人容疑までかけられる。元同僚のケイトの助けを借り、無実を証明しようと事件を探ると、7年前にアリゾナの田舎町で起こった事件に鍵があると分かる…。
 企業の製造物責任問題、薬品の副作用事故といった、今日的な要素を取り入れつつも、複雑な事件を分かりやすく描いているのはさすが。しかし、難を言えば、登場人物に深みがまったく感じられない。主人公は多少の正義感があるものの、結局は自分の将来が一番気がかりという男。貧困生活から這い上がってきたわりには、ワイルドさもたくましさもない。行動も実に行き当たりばったりで、弁護士だったら、もう少し考えてから行動しろよ、といってやりたくなる。ケイトは彼のどこにそんな魅力を感じたのか。確かにシンプルに描いているから、事件が複雑でも分かりやすいというのもわかるのだが。

  吉田 崇
  評価:D
   良く出来たシナリオを読む感じ。巨大な組織相手に戦いを挑む弁護士と言った感じの話なのだが、B級サスペンス映画のレベルを超えず。
 分かり易いキャラクター達は、悪く言えば類型的。ほらほら、あの映画に出てたあんな感じっていう感じで全てが説明出来そうなところが辛い。特に主人公に、あんまり強い印象を感じなかった。かっこいいのは、ケイトという女性だが、元警官でハッカー並みのスキル、肉体的にも知能的にも一級な彼女が、どーして主人公とくっついちまうのか、納得いきません。カヴァーガールの様な容姿の女性弁護士が出てきたり、秘密の研究所が出てきたり、映像になったらそこそこ楽しめる気もするが、小説としては、どうにも食い足りない。
 Who done it ? の部分は、へ? って感じ。と思って、帯を見ると法廷スリラーの文字。パーネル・ホールの作品にミステリーとサスペンス、スリラーの違いがあった様な気がするが、とりあえず今は、なんだミステリーじゃないのかといってペンを置く。