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グノーシスの薔薇
グノーシスの薔薇
【角川書店】
デヴィッド・マドセン
定価 2,310円(税込)
2004/11
ISBN-4047914886

 
  磯部 智子
  評価:D
   この作品は、憮然としながら読んだというか。いやはや、なんという露悪趣味、変態版いないいないばぁ。ルネッサンス期が舞台ならそりゃ人材は豊富だよなぁ、その誰もが名前ぐらいは知っている人物達に「ゆがんだ性的嗜好」を纏わせ登場さすのだから身も蓋も無い。でもどれもこれも借り物感が拭えないし、単なる素材以上の思い入れや掘り下げを感じる事が出来ない。小人のピッピの前だからこそ素顔を曝した、なんてところに逃げ込まないで欲しいし。とにかくダラダラと牛のよだれのようにエロとグロが延々と続き、更にとってつけたようなグノーシス思想が絡むのだ。何を描きたいのだろう?エログロか、グノーシスか、グノーシスの名を借りた別の欲求か。ラストは大衆演劇顔負けの愁嘆場。作家がエロ描写にロマンを感じすぎるのは、彼自身に乗り越えなければならない何かがあるのか、または単なる職業エロかは、どうでもよくなってしまった。

 
  三枝 貴代
  評価:B-
   15世紀末、ローマの貧民街でワイン売りの子供として、ペッペはうまれた。骨の曲った醜い小人であったペッペは、母親にも憎まれて育つ。彼はある日、美しい貴族の娘ラウラと出会い、彼女から教養とマナー、異端のグノーシス派の教えを授けられた。ラウラは火刑にされ、ラウラの父に救われたペッペは、メディチ枢機卿、後の教皇レオ10世の従者となる。ラウラの父は異端審問官への壮絶な復讐を開始するが――。
 同性愛がタブーではなく異端という考え方もほとんどない日本の仏教徒には、どうも実感がないのですが。キリスト教徒の人にとっては読むに耐えない本なのかも。猥雑といいますか。当時の小説や回想録を読むと、時々、ついていけんなーと思うことがあるじゃないですか。あの感じです。スタイルをまねているのでしょうか。もちろん我々は、15〜16世紀にはローマ教会は腐敗しきっていたことを知ってはいるのですが。知っているからといっても……。
 そも、宗教(あるいは真理)が、人間の本質的な感情より優先されなくてはならないという感覚は、一般的な日本人にはわからないと思います。つまり、わたしには本当の意味では評価不可能だと思います。すみません。

 
  寺岡 理帆
  評価:A
   これはもしかするとかなり好き嫌いが分かれるかもしれない。
 けれど、個人的にはかなり好き。
 物語はペッペの手記という形で綴られるのだけれど、実に高尚な文章でエログロな内容が語られる。実際、わたしはこの作品で初めて知った日本語がたくさんあって、それがまた新鮮で嬉しかった。しかし翻訳小説で日本語を勉強するなんて、なんとなく…(笑)。
 ラファエロやダ・ヴィンチといったルネサンスの有名人もペッペの手にかかると品性も何もあったものじゃない。けれどこの下品さが、文章の上品さと妙にずれていない。
 醜い小人のペッペがグノーシス主義者になっていくのは非常に説得力があるし、彼がラウラを心から愛するのもよくわかる。ただ、ペッペの人生の重要人物・レオ十世とペッペとの繋がりみたいなものはもう少し書き込んでほしかったかな…。
 ともかく、個人的にはペッペの人生に共感しながら、よく知らなかったグノーシス主義についても少しわかって、物語としての読み応えも十分の作品だった。