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おいしい水

おいしい水
【光文社文庫】
盛田隆二
定価\720
2005/1
ISBN-4334738125

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>> 本やタウン

  浅井 博美
  評価:B
   主婦とはたいそう恐ろしいものらしい。本書を読み終えた独身・26歳・女の正直な感想である。そんな恐ろしい日常を過ごす典型的専業主婦の弥生が、タウン誌の編集のアルバイトを始めたことがきっかけで、彼女を取り巻く世界が少しずつ変化して行くのがこの物語だ。本書を女性の自立ものと取るか、家庭の破綻ものと取るかは好き好きだろうが、その様な物語における大きな流れよりも、主婦たちの出口が無いかの様に思われる生活の詳細な描写が、すこぶるねちっこくて、いやらしいことこの上ない。もちろん良い意味で。著者は学生時代クラス内の女子のグループ相関図を全て把握していたのでは?というくらい女への目線が粘りつくようでいて、時に同性であるかのような厳しさを帯びる。ひたむきでかわいらしいはずのヒロイン弥生を首を絞めたいくらい憎たらしく感じる瞬間がある。この様な感情を喚起させる事も計算ずくだとしたら、本書の著者はただ者ではない。また、セックスを執拗に迫る夫の描写が凄い。大概のことに慣れてしまった私でも、ぞわぞわとした嫌悪感が体中に広がってしまった。本当に女がして欲しくないことをよーくおわかりでいらっしゃる。恐るべし。

  北嶋 美由紀
  評価:C
   こういう内容は苦手である。あまりに身近かで、日常的で、リアルすぎて疲れてしまう。 弥生という主婦が娘の入園をきっかけに社会との接点を求めることから始まる、どこにでもある話だが、ポイントは「集合住宅」である。経験者にはものすごい実感だ。同年代の夫婦、同年の子供を中心とした家族間のつながり、間取りが同じなのでよその家という感なく入りこめ、家庭内情もけっこうつつぬけ、ウワサはワイドショーなみに伝わる小さな社会。いい時はとても便利なのだが……
 表面上は平穏に暮らす夫婦たちに小石を投げ入れるのは、夫への失望と不満と寂しさを前面に出す千鶴で、彼女はトラブルメーカーの「劣等生」だ。一方、誰にでもやさしく、仕事も有能、(信じられないくらい)男性から好意を寄せられる弥生は「優等生」。優等生の夫は幼児性のぬけない下半身むき出しのバカ男だが、よくいるタイプだし、舅姑夫婦もありがちなタイプ。すべてが平凡で、今さら夫婦のもろさを読んでもむなしいばかりだ。
 良し悪しは別として、「劣等生」はそれらしく、ある意味で人間味のある結末を、「優等生」は最後まで安易な決断をせず、優等生らしい結末を得たことには満足した。

  久保田 泉
  評価:C
   職場結婚した夫の大樹と暮らす、専業主婦の弥生。出かけていく場所は無数にあるが、自分の居場所はどこにもない。孤独と人恋しさの最中に、娘の美樹を妊娠する。子育てに幸福を感じつつも、弥生の焦燥感はなくならず、入園を機にタウン誌のライターを始める。生活の変化と共に弥生の身辺も、夫との関係も平穏が崩れていく。同じマンションの住人の夫婦達も、家庭という社会の中で、それぞれが情けない綻びを見せていく。しかし、ダントツは大樹で、夜の顔の壊れっぷりには参った!
 マンションの夫婦達で、頻繁に開く〈ホーム飲み会〉での会話はあけすけで、テレビの再現VTRを見るよう。下品なまでにリアルな会話文は迫力がある。特に周囲を翻弄する、奔放な千鶴の言動は生々しい。一方、弥生は真っ直ぐでかわいらしいキャラ。結局双方、男性の理想のタイプなのか。そう思うと、男の想像する主婦の幻想物語にも読めてくる。
 だって、じれったい年下のメル友との恋愛といい、再就職にポンっと25万は、話があまりに上手すぎるでしょう!!

  林 あゆ美
  評価:C
   マンションでのご近所づきあい。子どもたちを幼稚園に送り出したあと、気の合う人どうしが、集ってお茶をする。だんな同志も、会社から離れての関わり合いを、気楽に受け入れ、家族で旅行に行ったりもする平穏な日々。そこに、毛色の違う家族が入ってきて、今度は家族ぐるみの飲み会が、持ち回りで開かれるようになる。飲んで、さわいで……。
 子どもに少しずつ手がかからなくなったら働こう、そう思っている女性たちがこの小説の主人公だ。そして、彼女らは様々にそれを形にし、外に出て行き、小さな波がたちはじめ、家族に変化がひたひたと近づいてくる。帯に書かれている文言は「あなたにとって、結婚は渇きを癒してくれますか?」
 作者がカルチャーセンターで取材した12人の女性のうち、11人がベストパートナーは夫ではないと言い切ったそうだ。人生の確かな分かれ道である結婚について、しみじみさせられてしまう。

  手島 洋
  評価:D
   話は確かによくできている。30歳前後の主婦が持つ悩みと、そうした女性たちが送っている「結婚生活」。実際のインタヴュー取材を元にして書いた作品というだけあって、わずらわしい近所づきあい、そして夫、姑の不理解、子育ての大変さ、といった主婦が抱える問題が実にリアルに描かれている。夫、子供、同じマンションに住む同年代の主婦がいても、自分の気持ちを誰にも素直にぶつけられず、孤独を覚え日々を送っている主人公。ほかの主婦たちもみんな性格、家庭状況の差はあれ、それぞれの孤独を抱えて生活している。夫ってここまで絶望視されているものだと知って勉強にもなった。でも、それ以上のものが感じられない。そんな女性たちの日常と感情をひたすら描いていくだけ。1年を12章に分けている意味もピンとこなかった。主婦であることに嫌気がさしている女性なら読んで溜飲が下がるのかもしれないけど、と思っていたら、「女性自身」に連載されていた作品と聞いて納得。

  山田 絵理
  評価:D
   家以外に居場所を持たない主婦と会社員の夫との結婚生活。おかしいなと思いつつ続ける近所づきあい。月日を経て二人の感覚は微妙にずれてゆく。やがて彼女は仕事を始め、自らの世界を広げるが、突然夫の浮気が露見する。また彼女も夫以外からの男性に思いを寄せられ……。 
 自分は独身だが、結婚したらこうなのるのかなあと思ったし、すぐ近くで繰り広げられていそうな光景だと感じた。だが、昼ドラを見ているような感覚がどうしても否めない。もし自分が主人公と同じような立場だったら、決して共感できないだろう。「馬鹿にしないで!」と言うかもしれない。本書に描かれているのは、主婦ではない人々が安易に想像してしまいがちな主婦の世界なのではないか。
 著者は実際に十数人の女性にインタビューして本書を書いている。でも何を意図して彼女らの現実を描いたのだろうか?私には主婦達の喜怒哀楽を哀れむ、男性の視点に立った小説だと思えてならない。 

  吉田 崇
  評価:D
   偶然、取引先の人間にこの著者の本がオススメだと言われ、その直後に届いた課題本、他人の嗜好を窺う様な後ろめたさを感じながら読み始めると、へぇ、こんな感じが好きなんだと、嫌な笑顔を浮かべた僕が居る。
 良くある話。近所の主婦連中が日常的に噂している様な話。作中の女達には共感出来ず、男達にはお前ら馬鹿かと訊ねたい。いかにもありがちというのは、果たしてリアリズムというのか? 解説によると、著者が講師を務めるカルチャーセンターで十二人の女性に取材して書かれた作品なのらしいが、当然その手の場所にいる人々には似通った心理的傾向のある可能性も考えられる訳で、そこにマジョリティーがあるとも思えない。
 僕には作者の狙いが分からない。平明な文章で紡ぐだけ紡いで、作者はこの物語の向こうで、にんまり笑ってる様な気がする。
 世の中、こんな奴らばっかりじゃないって思いたい。好いたはれたよりましな事が、きっと沢山転がっている。