年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班

無頼の掟

無頼の掟
【文春文庫】
ジェイムズ・カルロス・ブレイク
定価\810
2005/1
ISBN-4167661896


  北嶋 美由紀
  評価:B+
   古き良き混乱のアメリカを楽しめる作品である。
 スタートから映画のワンシーンのようで、しぐさひとつまで目に浮かぶ。
 主人公ソニーは強盗を生業としている二人の叔父からワルの道を教わる、いわば悪党の研修生だ。警察に捕まり、ひょんなことから殺してしまった看守が”名高き”警官ボーンズの息子だったことから彼の不運は始まる。しかし、ソニーは叔父から教わったことをよく守り、期待通りに難を乗り越えてゆく。仲間を裏切らず、安易に人を頼らず、まっとう(?)に自分の道を切り開いてゆく彼は18歳とは思えないたくましさだ。
 ソニーも仲間もみな悪党なのだが、憎めない。むしろ彼らを追うシザースハンドならぬペンチハンドのボーンズの方が、邪悪さを感じ、ソニー側を応援したくなる。
 ソニー達のユーモアと愛情たっぷりの陽気な描写の連続。その間に挿入されるボーンズの描写は、字体も変化して、着々と復讐に向けて進み、ひたひたと不気味さが迫ってくる。いつ襲ってくるのかとハラハラしながら一気にラストへ。思わずひきこまれるスピード感、現在形で表現されるラストシーンもなかなかよい。 

  久保田 泉
  評価:C
   無頼とは、定職がなくて、法を無視した行動をする人。そんな人たちにも掟があるんだ〜ってそんなノンキな話ではない。18歳のソニーの双子の叔父、バックとラッセルはプロの強盗。必要とあらば、殺人も容赦なく犯す。学力優秀なソニーだが、生まれた時から流れる無頼の血によって、自ら叔父たちの仲間となり、強盗を重ねていく。そんなある日、叔父たちと決行した銀行強盗が失敗し、ソニーだけが捕まり、沼地の中の監獄に送られる。更に、監獄の中で騒ぎをおこし、警官をあやまって殺してしまう。ソニーは決死の脱獄を成功させ、また叔父たちの元に戻るが、殺した警官の父で、刑事のボーンズが復讐のためソニーを追う。このボーンズの方が強烈な無頼刑事で、なんと強盗に打たれ失った左手に、クロム製のペンチを装着しているという悪趣味さ。ボーンズがソニーの関係者を、次々にその手の武器を使い冷酷に殺害していく描写は胸が悪くなる。危険な夢を追う犯罪活劇…それは私にはさっぱり理解出来ない男社会でした。どうでもいいけど無頼を通すなら、都合よく女に甘えるな〜。

  林 あゆ美
  評価:A
   パワフルな活劇ドンパチ物語。
 ライオネル・ルーミス・ラサル、通称ソニーは、高校3年の半ばに人生の岐路にたち、もっとも望む道に進むことに決めた。12歳年の離れた双子の叔父たちと強盗家業をするのだ。「金は稼ぐより勝ち取るほうが気分がいいことは誰でも知ってる」と叔父の一人が言えば、もう一人は「だがとにかく盗む――なかでも強奪する――のが最高さ」と宣う。物騒に聞こえるが、彼らは自分たちのルールにのっとり、たいがいは誠実に強盗を重ねる。しかし、そんな事をしているのだから、憎まれもするし敵もできる。物語はドンパチを繰り返し、一方で、ソニーたちを強く憎む敵が追いつめていく様子に読者は立ち会う。じりじりと敵が近づいてくる描写には、ハラハラしてしまい、どんどんページを繰るどころか、休憩をはさんで一息いれた。そうやって緊張する気持ちと折り合いをつけながら、読了。
 あぁ、疲れた、しかし、いい物読んだという心地よい疲れ。みなさまもぜひご一読を。

  手島 洋
  評価:A
   1920年代アメリカで、強盗を生業にして生活するアウトローたち。そんな男たちの壮絶な人生を描いた小説。そう聞いて少しでも興味を持った方には、この本を読むことをお勧めしたい。アウトローとして生きる叔父たちに憧れ、一緒に強盗をする主人公。銀行強盗に失敗し、警察に捕まった際、刑務所の中で伝説の悪徳刑事の息子を殺してしまう。何とか、脱獄に成功するが、刑事は一歩ずつ彼を追い詰めていく。アクションシーンも満載、抑制の効いた描き方で魅力的だ。
 犯罪に憧れ、悪に憧れながらも、純粋な心を持ち続ける主人公。その心の揺れが巧みに描かれている。その姿はまだ彼のように若く荒々しかったアメリカそのものともダブって見える。そんな瑞々しさにあふれた主人公たちに魅力を感じるにつれ、息子の復讐を果たすべく彼の足取りを追うボーンズの存在の恐ろしさが増していく。彼らの仲間をひどい拷問にかけ、情報を得るボーンズに三人は太刀打ちできるのか。そのラストシーンもすばらしい。

  吉田 崇
  評価:B
   巻頭から、えらく格好良く読ませてくれます。メインキャラのソニーはかなり高い知性を持った若き強盗。泥棒だらけの世の中で、法律書や会計帳簿を使った盗みが出来るほど賢いのに、あえて、武装強盗の道を選びます。前文の内容が、双子の叔父との会話で語られるのですが、おざなりでなくしっかりと描かれた両親や、家族愛に満ちたクライム・ノベルというのを今回初めて読みました。読者はこうして、割と優等生っぽいソニーに感情移入しながら読み進む事になるのですが、中盤以降、ベルの登場によって物語のトーンが変わります。ソニーが一歩物語の奥へ潜ってしまい、ストーリーのエンディングを、それがハッピーな物であれそうでない物であれ、強く予感させる様になります。代わりに存在感を増すのがボーンズという警官。息子の復讐の為に動き回る彼は、コミカルに見えるほどターミネーターです、いやはや。
 ソニーの一人称部分の最後の言葉、『俺は撃つ。』の格好良さ。映画化しないかな。