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ぼくらのサイテーの夏

ぼくらのサイテーの夏
【講談社】
笹生陽子
定価 400円(税込)
2005/2
ISBN-4062750155


  浅井 博美
  評価:C
   典型的な児童文学を久しぶりに読んだが、こんなに教訓めいていたっけ?大人になってから読むと物語の裏がすごく分かってしまうものだ。
 小学六年生男子の明るく元気だけが取り柄にしか見えない栗田が抱える家庭の問題、同じく小学六年生男子なのに妙に大人びている桃井の、大人びなくてはならなかった事情…。「ひきこもり」、「自閉症」そんなある意味旬であったり、目新しかったりする題材を子供向けにあえて潜ませなければならないのだろうか?そんな手法にちょっとうんざりしてしまった。そして小学六年生男子である栗田の一人称が空々しく感じられる。かなり年配の女性が、アニメで少年の声のアテレコをしているような妙な違和感やわざとらしさが鼻について離れなかった。

  北嶋 美由紀
  評価:B
   小学生最後の夏休み。太陽ギラつく中、ギブスの手で4週間プール掃除とは正にサイテーの思い出だ。しかしこの夏は「ぼくら」を成長させる。少々キレやすく、短気な桃井は一見気楽にやっていそうで実はハードな環境におかれている。小さい頃からできのよい兄と比べられ続けた彼はもっとイジケてもよさそうだが、けっこう自分のまわりをクールな目で捉えて、感情を処理してゆく。母も兄も疲れきっている中、彼は気持ちを抑えてけなげにがんばっているが、「良い子」というわけではなく、楽しむべきところは楽しみ、ズルもして、適当にやっている。なかなかたくましいではないか。桃井といい、栗田といい子供がしっかりしている分、親は愚かな存在だ。桃井の母は母親がやってはならないことを全部やっていて、後ろばかり向いて前を見ようとしないし、栗田の母も幼い病気の子を残しての家出と、頼れるはずの親は不在だ。兄を誘い出すところなど、何が兄に必要なのかを親よりもわかっていて、セラピーまでやってのける。勉強の方も一念発起して……というのはちょっとできすぎの感はあるが、サイテーの夏は大きな肥やしとなったはず。登場人物が、主人公でさえフルネームででてこないのも珍しい作品だ。

  久保田 泉
  評価:AA
   ぼくらのサイテーの夏は、最高の小説だ。これがデビュー作というのだから恐れ入った。自称ハードボイルドな小学6年生のぼく桃井には、エリートコースから脱落した引きこもりの兄がいる。父は単身赴任、母はいまいち頼りない。ぼくは、キレやすく負けず嫌い。そんなぼくが、謎の同級生栗田に、階段落ち勝負で負けた。ケガをした上、罰として夏休みのプール掃除を命じられた!それも栗田と二人で。こうして始まったサイテーの夏は、栗田の謎と栗田との友情、兄との交流と兄の変化、ぼくと家族、ぼくと世の中を通して、いつしか今しか味わえない最高の夏へとなっていく。
 世間一般の大人は、子供は弱く守らなければ生きられないと思うだろう。しかし、それは大きな間違いなのだ。全くなんだって、笹生陽子は大人なのに、子供のしなやかさ、強さ、サバイバル精神をこんなにリアルに表現できるのだろう。こんな珠玉の作品が文庫で381円!今すぐ全国の親は書店に走り親子で読むべし。サイコーの時間が持てるはず。

  林 あゆ美
  評価:B
   作者、笹生(さそう)陽子さんは講談社児童文学新人賞佳作を受賞後、この作品でデビューした。なので、これはジドーブンガクに分類される読み物。上出来の児童書は大人も楽しめる。そこには通り過ぎたノスタルジーだけでなく、普遍的な感情がごろっとでていて、なつかしく、でもそこからいったい自分はどう成長したのだろう、なんてことも考えたりして、おもしろいのだ。
 主人公は小学校6年生の少年たち。「階段落ち」という粗暴な遊びの結果、腕を骨折し、さえない夏休みを過ごすことになった桃井少年が、新しい友人と出会う。かかえていた家族のぎくしゃくも、友だちのおかげ(?)もあり、ゆるりととけてゆく。
 あたりまえだが、子どもの世界は親のトラブルにまきこまれやすく、いろいろ大変。だからといって、子どもは子どもだから、どっぷり大人の悩みにつきあってもいられない。家族や社会、友だちとの距離がほどよくとられ、ツボだけおさえたらあとはさらりと物語は終わる。わが家の小学生の息子もおもしろかったと言っています。

  手島 洋
  評価:C
   小学六年生の男の子の夏休みを描いた物語。正義感にあふれ、自立心があり、やんちゃな部分ももちつつ、実は勉強もできる、という主人公の桃井くん。正直、あまりにもまっとうすぎて読んでいて気恥ずかしかった。なんだか「ちびまる子ちゃん」の大野くんと杉山くんや、「ドラえもん」の出木杉くんみたいな子ばっかり登場する話を読まされている感じで。引きこもりの兄、障害をもつ妹、家庭内暴力といった、今日的な問題がいくつも登場しているのに、全然どろどろしていない。何故なのか考えてみて、驚くくらい人間関係が希薄なことにきづいた。引きこもりの長男を抱え、ノイローゼ寸前の母。単身赴任で、そんな母に家をまかせきりの父。次男である主人公は家事を手伝ういい子なのだが、崩壊寸前の家族を何とかしようという気はないらしい。兄と出かけたりはするが、余計なことは一切言わない。けんかも全然しないし。なんでそんなにいい子なの? この人間関係の距離感が現代的なんだろうけど、ちょっと寂しいような怖いような。

  山田 絵理
  評価:A
   だらだらした毎日を少し改めようと思わせてくれる、小学六年生の物語だ。桃井は仲間とつるんで遊びや噂話に興じる普通の少年、家には引きこもりの兄がいるが、もちろん仲間の前ではそれは秘密だ。そんな彼の夏休みはサイテーの幕開けだった。悪ふざけの罰としてプール掃除を言いつかったのだ。それも謎めいた栗田という同級生と。クラスの違う二人、当初はお互いに無関心で口も聞かなかったのだが……。
 後に彼は、人生について思いをめぐらし、時間を大事に使うことを覚える。だらだら通っていただけの塾をやめ、自分で問題集を買ってきてこなしていく。表面的ではない、時間をかけた濃い友達づきあいをするようになる。
「人生、そんなにおもしろおかしいものでなくてよい」と小学生にしては達観しているけど、頭を真っ白にして突っ走るのではなく、立ち止まり振り返って今や将来のことを考え、できることから手をつけてゆく桃井少年。彼にできるなら、私にだって出来る、と思わせてくれるはずだ。

  吉田 崇
  評価:D
   僕はポケモンが好きで、その映画シリーズなんて良くできたお話だと感心したりもするのだけれど、結局、児童文学というジャンルも「子供だまし」ではダメだという事。児童文学に特有の創作上の枷を上手く使って、ジャンルを超えた物語を作り上げなければならない。 このジャンル、キャラクター設定が割とストレートで、当然感情も分かりやすくなる。人物の喜怒哀楽は、読み手にその分くっきりと伝わってくるので、多分この辺、書き手にとっては両刃の剣、大人が読んでも面白い児童文学というのは、案外この辺の処理が鮮やかなんだろうなという気がする。
 で、この作品、ノスタルジアはあるけど、欲を言えば、もっと強い感動が欲しい。結局、キャラの設定が変に現代っぽくて、主人公が大人びた傍観者になってしまい、だからストーリーが読み手の近くに来ないのだ。同性同士の友情だけじゃつまらない。