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ランチタイム・ブルー

ランチタイム・ブルー
【集英社文庫】
永井するみ
定価 580円(税込)
2005/2
ISBN-4087477886


  浅井 博美
  評価:C
   駆け出しのインテリアコーディネーターの千鶴を軸に、様々な住居をテーマにして紡がれていくミステリーは、身近な題材でありながらも意外性がありおもしろい。「ランチタイムブルー」を始め、「カラフル」「ビスケット」などそれぞれのストーリーの題名もシンプルでいながら興味を引かれ、読み終わったあとに、なるほどとうなるセンスの良さを感じる。千鶴の上司である広瀬さんをはじめ、広瀬さんのお母さんや幾人かの千鶴のお客さんである女性達は、欠点や弱さがありながらも非常に魅力的に描かれている。しかし、男性陣には惹かれるところがない。覇気がないし、血が通っていないように感じてしまうのだ。特に千鶴と恋仲になる「森」くん。千鶴から何気なく聞いた顧客の秘密をうっかり他の人に話してしまったにも関わらず、そのことでトラブルが起こっても「人に知られてまずいことなら、最初から自分の胸に納めておけばいいだろ。」と逆ギレ。まともに仕事をしている女性ならこんな男、まずあり得ないのではないだろうか?何事もなかったかのように二人の中が進展していくのが、不思議でならなかった。

  北嶋 美由紀
  評価:B+
   私にとって4作目の永井するみ作品だが、今まで読んだ3作が静かで暗い感じのミステリーだったせいか、この作品は明るく、軽い日常的ミステリーで新鮮な読後感だった。
 29歳の知鶴が新しい職場でがんばる姿は妙に力まず、顧客に対して細かい心遣いを忘れない、自分の成績より相手の気持ちを優先させるタイプで好感がもてるし、恋人の森さんもその風貌が目に浮かぶようだ。
 構成する年齢や人数によって、家庭にはそれぞれの特徴があり、中にいる者には当たり前のことも外から見れば不可解なことは多い。様々な事情をもった家族を入れる器である家を覗き見できる立場にあるインテリアコーディネイターは大事件はなくとも小さな謎に遭うには事欠かない職種だ。永井するみはミステリー向きのよい職業を見つけたなと思う。知鶴・森コンビの幸せな今後と二人での謎解きの続編が読みたいものだ。

  久保田 泉
  評価:AA
   個人的にずっと気になっていて読んでみたかった作家です。ランチタイムブルーは、30歳を目前にして、転職してインテリア・コーディネーターを目指す庄野知鶴が主人公。
 8作の連作からなる本作のジャンルは、色んな面白さが詰まった宝箱みたいで、一言では表せない。働く女のワーキングストーリー、恋愛、ミステリー、ドラマあり。一作だけ殺人事件が起こるが、他は大きな事件や強烈なキャラクターが題材になるわけではない。インテリア・コーディネーターという職業柄、本来入れない他人の家というものにかかわっていく知鶴。隣の芝生は青く見える、と言うように他人の家というものこそ、身近にあって最大の謎だということに着眼した、永井するみの鋭さとセンスの良さはさすがだと思う。仕事にも恋にもよろよろしていた知鶴が序々にたくましくなる過程がいい。1ページごとを大事にめくりたくなる本だ。私はこんな小説に出会いたくて日々本を読んでいるのだ。非常に幸せです。断言します、永井するみは凄くいいぞ!早速、他の作品も読まなければ。

  林 あゆ美
  評価:C
   庄野知鶴は、30歳を目前にして、就職雑誌の華やかなコピーのついたインテリア会社に転職する。しかし、華やかだと想像していたのとは裏腹に、地味な仕事ばかりを前にして、これからどうなるだろうと悶々していた。そこに起きた小さな事件。知鶴の準備したお弁当を食べた部長が、倒れて救急車で運ばれたのだ。原因は知鶴のお弁当なのか、ほかにあるのか。ひとつずつ問題に近づいて得た解答は……。
 派手な殺人事件はおこらず、仕事がらみ、友人がらみで小さな事件はつづき、解決するたびに、社会人として、大人の女性として成長していく知鶴。そう、このミステリーは、女性の成長物語。ハードルを越えるたびに、ひとつ賢くなる。この場合の賢くなるは、自分がなにをしたいのか、欲しいものが何なのかがわかっていくということ。簡単なようで、自分がどうしたいのかは、仕事(外で働くだけでなく、家のことをするにせよ)をしながらでないと見つけられない、やっかいなものだ。そのやっかいさが、スマートに描かれている。

  手島 洋
  評価:C
   ミステリーと帯に書かれているが、ミステリーの要素はかなり薄い。29歳インテリア・コーディネーター知鶴のちょっと不思議な日常という趣だ。将来に不安を感じ、OLをやめて転職。なれない仕事に苦労しながらも、上司に恵まれ、同僚と恋人といえる関係になっていく女性の話。
 全部で8篇の話が入った短篇集で、それぞれが独立した話になっている。謎を解決して話が終わるのだが、ミステリーといえるような謎なのはいくつかだけ。小説としてもかなり軽くて正直、物足りなさも感じた。しかし、次の短篇になると微妙に時間の経過があり、千鶴の仕事の能力、人間関係などに微妙な進歩、変化が出ているのが面白かった。最初は雑用ばかりさせられ愚痴をいっていたのに、最後には仕事をひとりで任され、将来について決断するようになっている。ひとりの女性の成長物語にもなっているのだ。嫉妬や愚痴が多い主人公と、すぐに腹をたてる彼女の恋人、というふたりが結婚して、うまくやっていけるのか、ちょっと疑問ではあるが。

  山田 絵理
  評価:B
   29歳の主人公・知鶴がOL生活からの脱却をはかり、インテリアコーディネーターに転職。その後、毒物混入や殺人事件、はたまた犬の散歩をさせない謎、にいたるまで大小さまざまな事件に巻き込まれる。頼りなさそうな主人公だが、意外にしっかりしていて、行動力を発揮、事件を解決するのだ。事件の裏に見え隠れする、それに関わった人達の生き様に触れながら、知鶴は自分の生き方を探し求めるというのが、本書のテーマなのだろう。帯に書かれた文面をみると、インテリアコーディネーター探偵の事件簿、のように思えるが、本書は単なる事件簿では終わらない。
 終盤、彼女が仕事の生きがいを見出していく場面の描写に心がぐいと引き込まれ、一気にひきつけられた。彼女の心の高揚感がせまってくる。地味な話が続いていた分、ラストが鮮やかに印象に残り、気分が良かった。このような終わり方は、読んでいて気持ちがいい。知鶴を見習い、前を向いて歩きたくなってしまう。

  吉田 崇
  評価:C
   始めはユーモア小説かと思ったのだ。頼んでもない仕出し弁当を用意しろという上司の無理難題に、昨日の残りの弁当を食べさせるOLなんて、生活感溢れたユーモア小説的出だしだと思うのだ。でもこれは、ミステリーなのです。
 主人公は新米インテリアコーディネーターの千鶴。ごく普通のOLです。彼女を軸につづられる連作短編集が本書。ですから、事件自体も割と身近なものが多く(一人死んじゃいますが)、癖のある探偵やら刑事やらも出てきません。日常生活の中の謎がクリアになっていく、そんな過程を楽しむ事が出来ます。結局、ミステリーって人間関係を描くそのやり方の事だと思うので、こういう設定もありなんだなと、妙に感心しました。
 連作短編のいい所は、キャラクターと次第に多角的に分かり合えること。長編だと身構えてしまうのでこうはいかない。登場人物といい友達になれそうな小説です。