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耽溺者(ジャンキー)
【講談社文庫】
グレッグ・ルッカ
定価 1,000円(税込)
2005/2
ISBN-4062749823
北嶋 美由紀
評価:C
前作を全く読んでいないので、ブリジットやここでは脇役の恋人のアティカス、その他「わけあり」登場人物の魅力が十分にわからないのが残念だ。
ブリジットは父や恋人から愛されたいと願うごく普通の感情を「強さ」でコーティングしてしまった女性であるらしい。なぜかサバンナを悠然と走るキリンを連想してしまったのだが……
読後には驚きが4つ残った。全体を貫くブリジットの思いは友情なのか、家族愛に近いものなのか、どちらにせよ自分にウソをつく友人のために、ようやく得た生活や命まで捧げられるのだろうか。2つ目の驚きは、ブリジットの上司のセリフー「ウチの事務所の保険はジャンキーの更生プログラムもカバーしている」 ニューヨークはここまで麻薬が浸透しているらしい。3つ目は、ジャンキーは一番信用のおけない最低ランクの人間であり、密売人組織でさえ受け入れないこと。そして、アメリカの警察、麻薬取締局の内側。もちろんすべてが現実とは思えないが、こんなこともアリかと4つ目の驚き。
麻薬というあまりなじみのない(当たり前だが)ものが中心になっているせいか、あるいは主人公の性格ゆえか、全体としてはなんかなあという感じだった。
久保田 泉
評価:B+
強烈なシグナルがずっと点滅して、めまいがしそうなハードボイルド小説だ。本書はそもそも、ボディガード、アティカス・コディアックを主人公とするシリーズの番外編。主人公はそのアティカスの恋人、私立探偵ブリジット・ローガンだ。恐ろしく口が悪く、恐ろしく性格がきつく、男勝りの凄いキャラクターのブリジット。そして、その裏に隠された、この人格を形成したともいえる暗く重い過去。実はブリジットとこの過去との闘いこそが、作品の中枢になっている。物語は、ブリジットの古い友人で、更生中のジャンキー(麻薬中毒者)ライザから、救いを求める電話がかかってくることから始まる。
“殺るか、殺られるか”の窮地に陥った友人を助けるために、まさにすべてを投げうって、極悪非道な麻薬組織に単身闘いを挑むブリジット。読了後、ジャンキーは死ぬまでジャンキーというセリフが頭から離れなくなった。犯罪よりこの事実が胸に痛すぎた。
林 あゆ美
評価:AA+
身長185cm、愛車はポルシェの私立探偵ブリジット・ローガンが主人公のこの物語は、ボディーガード・アティカス・シリーズの番外編。おさらいは、訳者あとがきで丁寧にされているので、参考にされたし。おさらいを読まずにいきなり物語に入っても、迫力満点のブリジットにぐいぐい惹かれるのでご安心を。
何年も音沙汰なかった友人からSOSの連絡が入る。助けるために、危ない橋を渡らなくてはいけないブリジットは、しかし友人を救うために逃げずに飛び込む――元ジャンキーが、ジャンキーの巣窟へ。今はかっこいいブリジットも、若い頃にどっぶり薬物中毒患者だったのだ。薬物中毒の恐ろしさが、こってりと描かれ、途中で読むのを休んでも、頭の中はドラッグのしつこさがこびりついて離れない。ブリジットがこんな巣窟に囮になっても大丈夫なのだろうかと、無事でいられるのかと、最後までハラハラして落ち着かなかった。まるで、自分の知り合いのように近しく思えて、読了して数日たっても、本の近くにいくと落ち着かない。濃い本でした。
手島 洋
評価:A
ボディーガード・アティカス・シリーズの番外篇という一冊だが、シリーズをまったく読んでいなくても十分楽しめる作品だった。薬物中毒の過去を持ちながら更生して私立探偵になったブリジットが、かつて厚生施設で出会った友人と息子を救うために、自らの危険を顧みず麻薬密売組織に潜入していく。親友のために、すべてを投げ出して危険の中に飛び込んでいく様は実に痛々しい。事件を調べ、事件に飛び込んでいくまでの第一部。彼女が失踪してからの第二部。その後の第三部という分け方もうまいし、第二部だけが、彼女の恋人のアティカスが語り手になっているのも効果的だ。ブリジットが突然失踪してしまったことを読者にも強く印象付けるし、ただでさえ不器用で愛想がないのに冷却期間中のため、ろくに話もしないふたりが、実は相手をどれだけ信頼して、深く愛情を抱いているのかもよく分かる。そして、それだけが、絶望的な状況に追い込まれるブリジットの唯一の光なのだ。ハードボイルド物が好きな方、必読です。
山田 絵理
評価:B-
本書の魅力は主人公である私立探偵ブリジットに尽きるだろう。とにかくかっこいいのだ。180センチの長身に颯爽とした身のこなし。自分にとても厳しく、姉御肌。私は彼女のかっこよさに惚れこんでしまい、電車を降り損ねて遅刻したくらいだ。だが実はブリジットは元ジャンキー(薬物中毒者)だ。薬物と決別したものの、今でも甘い誘惑と闘っている。彼女の強さは自分の弱さの裏返しなのだ。
ある日、友人ライザから救いを求める電話がかかってくる。以前、彼女を地獄の生活に引き込んだ麻薬密売人の男に、再び脅されているのだ。彼女も元ジャンキーだが、今では一人息子とのささやかな生活を守るために、必死に生きている矢先のことだった。ブリジットは彼女を救うべく麻薬密売組織に潜入する。
残念なのは、彼女を語るうえで欠かせない場面であるはずの、再び麻薬に手を出した経緯が描かれていなかったこと。彼女の潔さの裏側にある人間的な弱さを知ることで、ますます彼女のファンになっただろうし、本書の魅力はさらに増したと思うのだが。
吉田 崇
評価:B
まったく不勉強な僕ですが、今回そういう言い訳もなしに断言します。この本は面白い。
シリーズ番外編という事で、読み始める時に少し抵抗があった(本編読んどかなきゃまずいんでないか?)のですが、大丈夫、主人公ブリジッドの格好良さのおかげでほとんど一気読み。493ページでは危うく泣いちゃうとこでした。こんな事は滅多にありません。
『ジャンキー』といえばウィリアムズ・バロウズの同名長編、今となってはまったく記憶がない。泣けちゃう小説はディックの『暗闇のスキャナー』(サンリオ版)、これはLSDだったかな。女性私立探偵といえばサラ・パレッキーのヴィク、こちらは格好良さよりも大人っぽさの方が感じられるが、でもストイックな感じが似ている。
まったくつながりのない文ですが、要するにこの作品、今月のナンバーワンだという事。良くできたプロット、語り手の変化によるテンションのかけ方、ジャンキーという存在の哀しさ、その哀しさをあえて飲み込むブリジッドの強さ、ええい、細かい事は言いません、これは必読。