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オール・アバウト・セックス

オール・アバウト・セックス
【文春文庫】
鹿島茂
定価 590円(税込)
2005/3
ISBN-4167590042

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  浅井 博美
  評価:A
   サルがマスターベーションするのはそこそこ有名な話だが、どうやら売春までするらしいのだ。それだけで驚いてはいけない。オス同士で肛門性交もするし、なんとフェラチオまでしてしまうという。こうした生殖行為を離れた性行為はサルが「オルガズム」を得たときに始めて生まれた。この様な「オルガズムを得たサル」と「人間」はどこが最も違うのか…。この続きはぜひエロス本の書評という突拍子もないことをやってしまった本書を読んで確かめていただきたいが、サルには為し得ない人間の大きな特権は「活字に欲情」することではないだろうか。ある時知人から官能小説の「堪忍」という文字を見ると、得も言われぬたかぶりを覚えるという性癖がある友人の話を聞いたときは笑いに笑った。しかし本書を読めばそんな人はまだまだかわいい部類であると思い知らされる。「リビドー」とは本当に人間の動かす活力になっているのだ、としみじみ感じてしまう。常に生身の人間で欲望を処理できない人々が、そのあふれるエネルギーを費やして素晴らしい書物を造り上げたのだ(!?)欲求不満バンザイ!!それにしても「日本男子オナリンピック」にはやられた。ぜひ読んで爆笑してください。

  北嶋 美由紀
  評価:C
   「エロスの総合図書館」ですか……う〜ん何とコメントしてよいものやら。書名索引を見ても読んだことのある本は1〜2冊(しかも印象に残ってない)だし、ぜひ読んでみたい本もなし。“かの有名な”的に出てくる、その道の大家も名前を聞いたこともない方々だし。
 作者はたぶんすごく博識で雑学にも詳しく、エロスもその一部なのでしょう。これだけの文献、資料(マンガまで!)を捜し出し、調べた努力と精力には感心するばかりです。しかし、たとえば永井豪の「キューティハニー」の変身場面にしても、男性にはセクシーでしょうが、女性からみれば、そのつど破く服がもったいないと思ってしまう。男性読者なら違う視点で読めるかもしれません。一番の収穫は、大森海岸駅周辺にラブホが多い理由。京浜急行沿線に住んでいるので、以前から疑問に思っていたことでした。(ホント多いのですヨ)
 コーンフレークスの話とか、おもしろい話題も多く、風俗就職の実態とか、大阪万博を境界線にできるのは男女関係ばかりではないのでは?とか、いろいろ勉強させていただきましたです。

  久保田 泉
  評価:B
   ストレートな題名!どんな展開かと焦ったらずばりセックス、つまり多ジャンル(?)に渡った性に関する様々な本を紹介するエッセイでした。とは言ってもただのエロ本、というのではない。ご本人曰く書評を通しての日本のセックスのフィールド・ワークのようなものを試みたいと思ったそうなので、よくあるエロ本の類ではなく、ノンフィクション、フィクションに関わらず、現在の日本のセックス状況がリアルに反映されたエロス本が中心だ。
 数多の本を読む私にも、そのほとんどが未知の世界。しかし、はっきり言って純粋に読んでみたくなる本もかなりあるので、書評エッセイとしては大成功。著者が“エロスの図書館”を自負するだけのことはある。しかし、大きなお世話だろうが性を語るにはビミョーなお顔に加え、教養が溢れすぎた表現のせいで、時折私の頭に大きな疑問符が浮かんで困った。“なんという無葛藤の併置性”と言われても〜?!?個人的には、AV男優かく語りきの項が良かった。

  林 あゆ美
  評価:C
    セックスのフィールド・ワークを試みたいと思った(by 著者)。本書はタイトル通り、あれもこれもセックスについて書かれた本について評している。女の性欲、風俗、SM、AV、ストリップと、てんこもり。そう、てんこもりすぎて、エロっぽさはありません。どんな分野でもフィールド・ワークしはじめると、そこには「学」が入る。エロに学が欲しい人、どのくらいいるかしらんと頭をかすめます。「ギばっかいってないでチンポ立たせい! っていうのが読者でしょ」(by 南伸坊『さる業界の人々』)という言い方の方がすんなり心に入ってくる私としては、おおっぴらじゃない方が好みです。でも、どんな分野においてもはじめて読むものを探そうとしている人には、ガイド本ってありがたいもの。なので、セックスの実用書にはどんなものがあるのだろうと探している人や、参考書としてオススメ本を知りたいという切実な人には、便利本になるやもしれません。

  手島 洋
  評価:B
   性に関する本と一言でいっても、その内容はさまざまだ。ストレートに役立つ実用派、アカデミックなノリで性を分析した知性派、性の現場にいる当事者がその世界を語るドキュメント派、医学的見地から正しい性の知識を与えてくれるカウンセラー派、等々。そうした古今東西の性に関する本をコンパクトに紹介しているのが、この一冊だ。吉行淳之介の対談集からレディースコミックまで、よくこれだけ幅広く、いろんな本をチェックしているものだと感心した。ただし、週刊文春に連載されていたということもあってか、あまりにもバランスよく偏りがないのが物足りない。若い女性の性意識がこれからどう変わっていくのか、といった部分はもう少し深く突っ込んで書いて欲しかった。おじさんが電車の中で仕入れる知識としては、このくらいで十分なのかもしれないが。それにしても最後の「決定版 官能小説ガイド」は本の雑誌のパロディーをやっているようでおかしい。笑いながらも、紹介されている「夢野久作猟奇譚」が思わず読みたくなった。

  山田 絵理
  評価:A
    本屋のレジに持っていくのをためらうような、「エロ」に関する様々なジャンルの本が語られている。新聞広告などで内容が気になっていた、あの「エロ」の本についてだ。(どの本だ?)
 フランス文学者の鹿島先生が、「書評を通して日本のセックスのフィールドワークを試みた」のが本書。「人間にとってセックスとは何か」といった根本的な問題から、「女性のための性愛文学」「SMの本質とは」といった話題にいたるまで、現代社会の「性」の様相について丁寧に解説してくれる。「エロ」の本は単に興奮するためだけの本じゃない、さすが研究者、捉え方が違うわと思っていたら、エッチな言葉を続けて並べ、真面目に説明している部分もあったりして、笑ってしまった。
 まじめな文章の合間に、ちょこちょことかいま見える鹿島先生の欲望が、いい味を出している。やっぱりフィールドワークは興味と好奇心が先立たないと、成果が上がらないものなのですね。

  吉田 崇
  評価:C
   タイトルを読んだだけで顔を赤らめるウブな僕は、案外ただのむっつりスケベなのかもしれない。とりあえず軽く反省しといて、この本、エロ関係の本が次から次へと紹介されていく。エロスについては高尚な次元から、やたらと生々しいのまで、いろんな出版物が流通していて、それを俯瞰する事で時代を読み解いている本書、隠れた名著と言える。ま、ここで隠してしまうのが、僕のむっつり加減の証左なのだが、それはともかく、巻末の対談だとか青木るえかの解説にあるあっけらかんとしたエロに対する言説を読むと、自分の修行不足を痛感する。と、まぁ、自分の事はおいといて、川端康成の小説もやたらと倒錯していたり、デカメロンだってただの告白ものじゃんか、サドだのマゾッホだの(まだ読んだ事ないけど)
名前からしてエロス全開だし、こと文学に関してはやっぱり主要なテーマな訳で、恥じる事もなくこの本をもってレジまでいける素直に男に僕はなりたい。と、また自分の話に戻る。
 あー、書きづらい書評だった。