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カジノを罠にかけろ

カジノを罠にかけろ
【文春文庫】
ジェイムズ・スウェイン
定価 810円(税込)
2005/3
ISBN-4167661942


  浅井 博美
  評価:B
   殺人も起こらないし、核となる女性たちもそれぞれに魅力的な美人揃いで、極悪犯罪者であるはずの男たちにもどこか滑稽さが漂う。物語の筋が深刻な方に行きそうになっても必ずストップがかけられエンターテイメント小説として道筋は絶対に外れない。主に「ブラックジャック」を扱った、イカサマ師たちと元刑事で現イカサマ対策コンサルタントであるヴァレンタインとの攻防戦や、著者はカードゲームの第一人者ということもありカードを使ったイカサマについての描写も興味深いとは言えるのだが、わたしは「ラスベガス」の「カジノ」という独特の空気感を全編から吸い込むことに一番わくわくぞくぞくした。世界中から人々が集まって来るラスベガスのカジノだが、実はとても小さな世界でしかない。文字通り「飲む・打つ・買う」だけのために生きている、極めていい加減な男たちと、それらの男を利用してはい上がってやろうともくろむが、そううまくは行かないということに気づかない女たち。まさに独特の小宇宙。しかしなぜか誰一人憎めない。どうしようもない奴ら、とはわかっているのに、彼らの世界を読み終えてしまうことを寂しく感じてしまったのが不思議でたまらない。

  北嶋 美由紀
  評価:B
   元名刑事が現職の頃の経験と知恵を生かしてイカサマ対策のカジノコンサルタントを営む──さすがアメリカという感じの設定だ。ドロドロとした血なまぐさい事件ではなく、何という事もない小さな事件に潜む根深い謎が全体を静かに包み、どこか懐かしい活劇を観ているようなおもしろさだ。全体に地味で落ち着いた運びなのは、登場人物の平均年齢の高さの故か。清廉潔白、まじめで、亡き妻一筋の主人公トニーは、老人であることを必要以上に意識し、それゆえの悲しさもにじませる。一方、繊細さのかけらもないカジノのオーナーは怖いものなしだが、女性に対してはオロオロとする姿がなんとも憎めない。
 ずっとその存在が気になっていた一本腕のビリーとその脇で座るのが仕事のスミスが最後に大きな役割を果たしてくれて、すっきりした。
 ところで、メイベルの三行広告のジョークは本当におもしろいのだろうか。これがどうしてお金を払ってまでするストレス解消になるのか、よくわからなかった。

  久保田 泉
  評価:B+
   主人公は、62歳の老練のイカサマ・ハンター、トニー・ヴァレンタイン。つまり、カジノで行われる不正を見抜いて、取り締まるのが仕事だ。60を過ぎて引退したものの、いかさま行為が断たないカジノからの要請で、現在はカジノ相手のコンサルタント業を営む。
 ある日ヴァレンタインの元にラスベガスのカジノから一本のビデオテープが届く。ブラックジャックであり得ない大勝を続ける不振な男がいて、いかさまに違いないのだが、どんな手を使ったか誰も分からない。豊富な経験を持つディーラーのノーラは、どこかでこの男に会った気がするのだが、やはり全く分からない。逆にノーラに不正の疑いがかかり、逮捕されてしまう。こうしてラスベガスを舞台にトニーと見えざる敵との闘いが始まる。スリルのある物語と共に、主人公はもとより脇役たちも、キャラが上手に分散されて、役者も揃っている。そこにカジノの内側やいかさまの手口に事件の謎解きも盛り込まれ、翻訳物が苦手な私でも、テンポよく楽しんで読める一冊になった。

  林 あゆ美
  評価:AA+
   世の中にはいろいろな職業がある。主人公トニーは62歳のイカサマ・ハンター。カジノにおけるイカサマを天才的勘で見つけ出すのが仕事だ。ちなみにこの仕事を外向けにいえばカジノ・コンサルタント。60歳までは、警官としてカジノの不正行為を取り締まっていたのだが、これほどの才能をカジノが黙っておくてはない。現役時代と変わらないほどの忙しさは、せちがらい世の中と対比してうらやましくも思えてくる。しかし、やはりトニーにもアキレス腱はある。だめだめ息子が、いつも父親の足を引っ張るのだ。父親が働いて得たお金をだめ息子は、やっぱりだめ事に使いまくる。かわいそうなトニー。読んでいるうちに、トニーに同情しつつ、彼の才能を活かした仕事っぷりにわくわくする。ギャンブルのまわりに集まる男達も女達もどうしてこうおもしろい人間ばかりなのだろう。ハラハラ、ワクワクする気持ちは物語を楽しむ王道だ。これはクセになる、いやもうなっている。第2作目が翻訳出版予定とのことで、早く早く出してほしい!

  手島 洋
  評価:A
   ラスベガスのカジノで大もうけする謎の男。そのからくりと正体を探ろうとするカジノの連中、そして警察官、といった面々の繰り広げる大騒動。絶対にイカサマができないはずの状況で勝ち続ける男はいったい何者なのか、というストーリーもよくできているのだが、なんといっても魅力的なのがそれぞれの登場人物のキャラクターだ。カジノのコンサルタントを勤めるトニーは冷静に仕事をこなす元名刑事のシブイ男だが、息子とは犬猿の仲で、電話で話した途端すぐに我を失ってキレてしまう。カジノのオーナーは口が悪く、女にだらしない嫌われ者だが、実は恩情があり、儲けを度外視してまでカジノの伝統を守ろうとする面があったりする。その他の登場人物もみんな憎めないバカばかり。だけど、みんな変に格好いいのだ。そして、たっぷり楽しませてもらった最後のエピソードでは、ギャンブルで一攫千金を夢見る人間たちの悲哀もちょっぴり感じさせてくれる。さらに、ボクシング、ギャンブル、芸能のどうでもいいようなウンチク話も面白い。「ニューヨーク・ニューヨーク」の話は本当なのだろうか。ギャンブルにまったく興味のない私のような者にも楽しめる最高の娯楽作だ。

  山田 絵理
  評価:B
   ラスベガスのカジノであり得ない大勝ちを続ける男を、いかさまを暴くことを生業とする元刑事のヴァレンタインが、カジノのオーナーやフロアマネジャー・保安係などとともに追いかける話である。本書に仕掛けられた謎が複雑で、少々無理があるような気がするものの、性格に難有りの、でもどこか憎めない登場人物たちがどんちゃん騒ぎして、読者をここまで楽しませてくれるのだから、良しとしよう。
 魅力的な登場人物はまだいる。エッチでブラックユーモアの効いた新聞広告の投稿を趣味とする隣人のご婦人や、問題児の息子。ヴァレンタインと彼らとの駆け引きもまた笑いを誘う。 
 ヴァレンタインがいつヒーロー振りを発揮するのかと期待していたものの、最後まで普通のおじさんだった気がする。息子が窮地に陥るや否や、仕事を放り出して家に帰る!と言い放つ始末だし。そんな主人公だからこそ、さらに親近感が湧いて好感度アップなのだった。

  吉田 崇
  評価:C
   この邦題、何とかなんないものだろうか? 素直に『グリフト・センス』でいいんじゃないかと思うのだが、どうだろう? 間違いなく、このタイトルと腰巻を書店で目にしたら、僕はこの本、買っていない。B級アクションピカレスクってな感じのタイトルには、ごめんなさい、あえて読む気もいたしません。
 だから、声を大にして言いたいのだけれど、これ、買いです。登場人物達の年齢が高めだったりするからか、すっとぼけた所のある大人のユーモアって感じで、大体、主人公の最初の行動の動機が、できの悪い息子と顔を合わせたくないからという理由だったりする出だしが、面白くない訳がない。その他の人物も楽しい面々が多く、著者自身、かなり楽しんで書いてるんじゃなかろうかと、想像出来たりもする。
 評価はCだけど、もうちょっとでBのC。シリーズ次作も出版予定との事なので、やっぱり、リストに書き加える。