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世界は密室でできている。

世界は密室でできている。
【講談社文庫】
舞城王太郎
定価 470円(税込)
2005/4
ISBN-4062750678

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  浅井 博美
  評価:C
  どうもこの著者とは相性が悪いらしい。つまらないというわけではないので、単純に個人の嗜好の問題なのだろう。頭も良いし話もそれなりにおもしろいクラスメートなのだけれど、見ているテレビ番組や好きな映画などの話をしてみると、どうしても気が合わない、だからお家に遊びに行くほどは仲良しではない、そんな状況とでも言おうか。だから、著者が人気があること自体に疑問を感じたり、こんな本がなぜ売れるんだという憤りを感じたりするわけでは決してない。探偵の真似ごとをしている男子中学生二人の会話はかわいらしいところもありおもしろいし、二人がひょんなきっかけで出会う美人姉妹の奇怪ぶりもステキだ。しかし一家の惨殺現場で死体を使って再現ビデオを撮ってしまったり、密室殺人の死体を四コマ漫画に仕立ててしまったり、わたしには残念ながらあんまり笑えない。わたし自身、エロもグロも他人様より大分と強い方であり、むしろ他人様に引かれてしまうことも間々あるくらいで、そういった方面の嫌悪感が働いているわけではないことは確かだ。もう何冊か読めば仲良くなれる日がやって来るだろうか?

  北嶋 美由紀
  評価:A
  「煙か土か食い物」「暗闇の中で子供」に続く三作目のこの作品は、前二作の”奈津川一族物語”の番外編といってよいと思う。二作目の作品中で奈津川三郎が執筆する推理小説が「ルンババ12」であり、そのルンババの実体(?)が活躍する青春小説といったところか。ほんのわずか「奈津川」の名も登場して、一筋縄ではいかない奈津川の謎をちょっぴりのぞかせる。
 おなじみの場所が舞台で、おなじみの文体と福井弁で、常識もムチャも乗り越えてスイスイと話は進む。あまりに軽いノリで殺人が出てきて、凄惨さはない。密室も大安売りされている。事件の解決がメインでなく、悲しみをのりこえてゆく二人プラス一人の深い友情物語だ。  
 私見だが、独特の舞城テイストを強く感じられる最後の作品だ。この後、作者は奈津川三郎の逆をたどり、純文学の方へ傾いてゆき、賞もとって、本質的なユニークさは変わらないが、小気味よい、暴力的ともいえるリズムから遠くなっていくようだ。
 二人の強い絆とさわやかな読後感に乾杯。

  久保田 泉
  評価:C
  舞城王太郎にただならぬ妖気、じゃなくて才気があるのは確かだと思う。しかし、私は舞城ワールドの住人にはなれないらしい。煙か土か食い物につづき、読んだのは2冊目だが、疲労困憊してしまうのだ。つまらない、という訳ではないのだが、文体にこちらのエネルギーを吸い取られるような気がする。主人公は十五歳の友紀夫と十四歳の名探偵?ルンババで二人は家が隣の親友。ある日、ルンババの姉の涼子が屋根から飛び降り、自殺する。そして中三の修学旅行先の東京で、風変わりなツバキとエノキという姉妹と知り合い、殺人事件に巻き込まれ、事件を推理していく。今度は高三のとき、今度が密室大量殺人が起きる。もうこの辺りで、読むのが苦行になってきた。しかし、頑張って読みました〜。そうすると、前作に続きやはりこの話のキーは家族なのか?と思ってしまう。なんなのだろう……舞城ワールド。私にはまだその鉱脈の源がわからない。

  林 あゆ美
  評価:B+
  著者、舞城氏は平凡な日常をボリュームあげた強い言葉で見せてくれる。本書もそう。描いているのは、一皮むけば、どこの家族にもある葛藤であり、世間で起きている事件であり、それらを別のレベルで読ませてもらえるのが快感。
 僕の隣家に住む親友、ルンババこと番場潤二郎の姉涼子が、飛び降り自殺してしまったり、そのショックで男物の乳首のような湿疹がルンババの体中にでてきてしまったり、てな事は決して平凡ではない。でも読み込んでいくと、ふつうの生活にもでてきそうだなと諒解できてしまうのだ。多感な年頃、中三のルンババと僕は修学旅行で行った東京で、奇天烈な姉妹と出会い、ヒステリックな事件にまきこまれ、どんどんと非凡なことが続くのだけど、うんうんそうだよなぁと、共感してしまう。まぁ、どう考えてもそんなに数々の密室殺人事件には出会う人はいませんが、でも読んでみてください。奇妙な共感と納得がこの物語の魅力なんです。

  手島 洋
  評価:A
  「煙か土か食い物」も破壊的な要素をもつ作品だったが、この作品では更にその要素が強くなっている。父親に部屋の中に閉じ込められ、外に脱出しようとして転落死した女の子の死。奇妙な連続殺人事件。そうした事件の謎を解くというミステリーにはなっているものの、主人公の友人が身も蓋もないくらい、あっさりと、わけの分からないくらい凝った謎解きを次々に行っていく展開は、実に痛快で暴力性まで感じさせる。ミステリーという小説のジャンルが完膚なきまでに破壊されている。それでも、これがミステリーなのは間違いないし、優れた小説なのも確かなのだ。
 そして、もうひとつの面白いのは、そんな破壊的な作品がふたりの少年とエキセントリックな姉妹の話がベースにしているところ。怪事件が次々と起こる、とんでもない世界に巻き込まれても平気な4人が妙にウブで青春してしまっているのだ。ここに、こんな設定持ってくるか、というミスマッチぶりだが、これが結構いけるから不思議だ。なんともいえないミクスチャーぶりをご堪能ください。

  吉田 崇
  評価:C
  実はかなり期待して読み始めた本書、前半のシュールさがどう着地するのかとページをめくると、案外爽やかなライトノベルの様に終わってしまう。良いよな、悪いよな、もやもやした感じでこの評価。小説としては破綻していて、ひと言で言えば無茶苦茶。帯にある文字を列挙するなら『修学旅行』『受験』『夏休み』『大量密室殺人事件』、おまけに親友の名前がルンババだったりして、ホント、何だか訳がわからない。著者は一体、対象をどう定めてこの作品を書き上げたのだろう?
 まるでキメラの様な本書、でも、結構楽しめます。最近ようやく読んだ『阿修羅ガール』が今ひとつつまんなかったのに比べ、作者のテンションが高く感じられ、結果、余計なことを考えずに物語を眺められます。
 今年の夏休みの読書感想文の課題図書にして欲しい一冊、この爽やかさと切なさとに距離を感じてしまった僕には、もう宿題もないのだなと感慨も一入。