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二度失われた娘

二度失われた娘
【文春文庫】
J・フィールディング
定価 870円(税込)
2005/4
ISBN-4167661950

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  浅井 博美
  評価:C
  非常に耳が痛くなる小説である。そしていたたまれない。女優を目指す美しい娘が失踪し、母親が半狂乱になり探し続けるという物語で、よくありがちなミステリーだと最初は思うかもしれない。しかし何か違和感を感じる。「別に娘が助からなくても良いんじゃないの?」読者にそう思わせてしまう筋運びだからだ。もの凄く気まぐれで、女王様のようにわがまま、離婚して別居しているが、両親共に自分を溺愛して何でもしてくれると信じ切っている。妹は付属品扱いのひどい姉でもある。母親以外のまわりの人間も自業自得では?とどこかで感じてはいるのだが、もちろん言えるはずもない。母親視点からだと娘は天使のような良い子なのだ。もうこんな奴戻ってこなくていいじゃん、といらいらが最高潮に達した頃にはたと気が付いた。わたしもこの娘に似てるかも、母親への傍若無人な接し方、かなり思い当たる節がある…。物語のクライマックスで母親はある決断を下すことになるのだけれど、怖くて震えてしまった。もう母の日は過ぎてしまったけれど大きな声で言いたい。お母さんとても感謝しています。今までありがとうございました。これからもよろしくお願いしますね。くれぐれも。

  北嶋 美由紀
  評価:C
  「親ばか」「馬鹿な子ほど可愛い」「親の心子知らず」そんな言葉がプカプカ浮かんでくる話だ。成長した娘は「女」になり、母娘関係も「女vs女」になってゆくが、母親はいつまでも自己犠牲的な思いがあって、気を遣い、甘やかしてしまう。主人公はそんな典型的で平凡な母親だ。通り一遍で読めば、この母は独り相撲で、過剰反応をする常軌を逸した女かもしれない。しかし、同じような立場になれば、その不安と苛立ちは理解し得るだろう。
 少々思慮の浅い彼女の疑心暗鬼の渦に巻き込まれ、悪化してゆく人間関係や、母親自身の恋愛もからみ、ちょっと変わったホームドラマのようだ。展開としては、「母は一生懸命」のしつこさが鼻に付くが、彼女の妹も含めた、もうひとつの母娘関係がうまくからみあってゆく。強い反面、一つ間違えばバランスを失う血縁の力をうまく配分している。
 それにしても、自己チュー娘はともかく、あんなバカな元夫!−離婚していてよかったねと言いたくなる。最後はスカッとした。

  久保田 泉
  評価:A
  子どもを失うことほど哀しいことはない。全くその通りで、子を持つ親なら、誰もが想像するだけでぞっとすることだろう。失う、といえば死んでしまうことをまず連想する。しかし、この小説を最後まで読みきると分かる、胸につきつけられる〈子を失う〉ということとは?ある意味、凄いラストだと思う。7年前の離婚の傷がまだ癒えない、主人公のシンディ・カーヴァーは、離婚の際に愛する長女のジュリアを失った。ジュリアは自分の意思で、夫のトムについて行ったのだった。元夫の再婚にともない、数年振りに自分の元にジュリアが戻り、喜ぶシンディ。しかしジュリアの態度は挑戦的で、母と暮らしてきた次女のヘザーやシンディとも口喧嘩が耐えない。そんなある日、女優志願のジュリアがオーディションに出掛けたまま、失踪する。最愛の娘を又失うのか?と必死に娘を捜すシンディ。一見、失踪の謎を解くサスペンスだが、母と娘、姉妹、女友達、女同士が生む、喜びと哀しみのドラマだと思う。母と娘という関係の真実を表している、シンディの決断に共感して評価Aです。

  林 あゆ美
  評価:C
  シンディ・カーヴァーには2人の娘がいる。夫と離婚した時、上の娘ジュリアは父親を選び、シンディの元には次女のヘザーが残った。離婚から6年後、元夫が再婚し住んでいるところが手狭なため、ジュリアは母親のところに戻ることになる。一度、自分から離れた娘が戻ってきた。シンディは大喜びしたのだが……。
 表題にあるように、離婚がきっかけで失ったジュリアを、またもシンディは失ってしまう。今度は失踪で。大事なものを失い、それをまた繰り返すのはつらい。我が子であれば、なおのこと。うちのめされているシンディを、周りの女たちは励まし支える。娘のヘザーも、シンディの母親も妹も。
 家族がそれぞれに持つ感情は複雑だ。何がどうなっているか、いま動いていることで何を見極めなくてはいけないのかがわからなくなってしまう。でも読み手の私は一歩離れたところでシンディを見ているので、彼女がすでにわからなくなっているものがわかる、手放しそうになっているものが見える。そしてシンディにはわかるのかしら、と心配になる。ラストで、シンディは私に追いついてきてくれた。あなたの判断は正しい。

  手島 洋
  評価:C
  こういう小説はどんなジャンルに分類されるのだろう。ミステリーやサスペンスと呼ぶのには断固として反対したい。確かに、突然、失踪した娘を探す母親の物語で、ちゃんと謎があるし、それなりに、サスペンスを感じさせる場面もある。しかし、ミステリーとしての出来ははっきり言って三流。最後まで読んだときには、ラストの馬鹿馬鹿しさに本を破りたくなりました。じゃあ、駄目な本かというと、そんなことはまったくない。夫と別れ、仕事を持ちつつ、娘たちを育てる女性の心の機微や本音がしっかり描かれている。比較的、自分を慕ってくれる次女より、けむたがられている長女に愛情を抱いたり、別れた夫を始め、家族や友人を嫌悪しながらもどこかで彼らに頼ってしまったりする主人公。   
 読んでいていたたまれない気持ちになった私のようなものにはとても向かない本だが、きっと好きな人もいるはず。そんな人のためにも(私が読まずに済むためにも)ぜひジャンル名をつけてください。

  山田 絵理
  評価:C
  「よき妻・よき母」という言葉がある。結婚や出産を機に、女性は無意識にその役割を演じようとするのではないかしら。時には、自分の気持ちがその役割についていけないと感じながら。その葛藤を描いたのが本書だと、私は思った。
 シンディーには二人の娘がいるが、離婚後、長女のジュリアは父親について出て行ってしまった。娘は母親といるべきものと思っていたシンディーは深い喪失感に苦しむ。数年後父親が再婚、再びジュリアは母親と暮らすようになるが二人の仲はうまくいかない。ある日突然、ジュリアは家を出たまま行方がしれなくなった。シンディーは再び娘を失ってはならないと、ヒステリックなまでに娘を探す。
 空白期間を埋めるべくジュリアに固執し「よき母」になろうとしていたシンディーが、自分勝手なジュリアの行動にひどく苦しむ部分は読んでいてつらかった。最後、彼女が現実を受け入れ役割を捨て、静かに力強く「子離れ」を果たす部分には、拍手を送りたくなってしまった。

  吉田 崇
  評価:D
  えーと、ごめんなさい、評価低いです。
 あのー、結構早くからくりに気付くと思います。
 親子とは言え、所詮は別人格、つまりは他人というのは明らかな事で、母親だからとか兄弟だからとか、役割に対する強迫観念みたいなもので自分の行動指針とする事には、凄く抵抗があります。かくあらねばならない自分を設定して生きるのも一つのやり方かとも思いますが、それがたかだか親子関係なんていう物に終止するのはナンセンスな気がして、いやぁ、退屈退屈。結局、最後は好き嫌いを口にしてめでたしめでたし、で、だから何なのさ、というのが読後感。人物同士の関係性を描ききる事がミステリの醍醐味だと考えるのですが、本書においては、主人公が何を大切に想い、何を守りたいのかが明確にされない分、ただいじいじと散漫な物語となった気がします。敢えて共感したいのは、娘のジュリア。主人公の母親より、よっぽど鮮明に存在している気がするのですが、どうでしょう?