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勝手に目利き
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サラン
サラン
【文藝春秋】
荒山徹
定価 1,700円(税込)
2005/5
ISBN-4163239405
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  磯部 智子
  評価:B
   近くて遠い国、韓国が韓流ブームで一気に身近なものになった。いやいや日本と朝鮮には長く深い因縁があったのだ。端正な6編からなる短編集だが虚実が絡み合い思わぬひねりがきいている。何れの作品も秀吉の朝鮮出兵が大きく影を落とし日本と朝鮮の人々の運命を翻弄していく。漢字や仏教、それ以外にも多くの日本文化の源流が半島から伝わってきた。『匠の風、翔ける』では身分の低い朝鮮の「沙器匠」が200年の差別の歴史に決別し自ら望み望まれて日本に焼物を伝え「薩摩白焼き」が誕生する。逆に命の危機にさらされ日本を逃れ半島に渡り朝鮮の女として生きる決意の日々が朝鮮出兵で突然敵国の女「倭奴」に成り下がる皮肉。表題作は朝鮮最下層の身分、奴婢の少女「たあ」が両親を亡くし日本に渡ってから「朝鮮貴族の娘」と噂され数奇な運命を生きた挙句、思わぬところに着地する。いささか情に流され手前味噌な点も否めないが、古くから深い交流があった日本人と韓国・朝鮮人には同じ血が通っているのだという作家の熱い思いは充分に伝わってくる。

 
  三枝 貴代
  評価:C
   日本人と朝鮮人との感情のもつれの根本原因だろうと思われる豊臣秀吉の半島出兵、その前後数十年間の日本人と朝鮮人との個々の関わりを描いた短編6作で構成された本です。
 朝鮮にわたった日本人、あるいは逆に日本にわたった朝鮮人。いずれも故郷を捨てて新しい国になじもうとけなげに努力しますが、差別され、追放され、行き場を失います。その原因を、作者は朝鮮人の武人軽視、厳しい身分制度、日本人を劣等民族とみなす習慣、あるいは宗教、と提示するのですが、それが今も続く諍いとは関係ないように思え、納得できないのです。
 テーマはまさに今読むべきものだし、非常に新鮮です。こういった小説が読みたかったのだと思われるかたは多いでしょう。が、筆致が重く、暗い調子で、なんともやりきれなく、文体も読みにくくて娯楽性にかけるので、根性据えてとりくまないとなりません。

 
  寺岡 理帆
  評価:A
   日本と朝鮮の狭間で人生を生きた人々を主人公にした歴史物の短編集。古い時代の朝鮮と日本の関係を扱った小説だなんて、それだけで個人的にはかなり新鮮だった。昔の朝鮮に関する知識も殆どなく、読む話読む話興味深い。ほとんどが悲劇なのだけれど、まさに「小説」の醍醐味を味わえるドラマティックな展開だ。しかも全く知識のない、遠い世界のような舞台なのに豊臣秀吉やあの歴史上の有名人が出てきて、その意外な繋がりも読者を飽きさせない。
 表題作である最後の作品だけは少し異質。最初は波瀾万丈な女性一代記かと思いきや、捩れた心が引き起こす意外なドラマの結末には驚愕。タイトルの意味がまったく違ってくる。
 でもサブタイトルはちょっと余計な気も…。正直言って、このサブタイトルのおかげでかなり読むのが億劫だった(苦笑)。損しているんじゃないかしら…。