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シーセッド・ヒーセッド

シーセッド・ヒーセッド
【実業之日本社】
柴田よしき
定価 1,785円(税込)
2005/4
ISBN-4408534714

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  朝山 実
  評価:C
   前著『ワーキングガールウォーズ』で、女性社会特有のいやらしさ、それを反転させた他者の発見を描くのがうまいと唸ったところだったので、肩透かし。トップアイドルのストーカー騒動、優男の組長宅に届けられた捨て子の母親探しなど、ありがちな探偵ものの連作。なんだかなぁは、「俺」ハナちゃんの謎解きが、すべて調査の相手だとか、知人や助手に頼んで調べさせた報告を分析するのみだというところ。おまけに誰もがハナちゃんにすぐに気を許し、事情をペラペラ喋るものだから、女性週刊誌のゴシップ記事に登場する、事情通のAさんBさんを見るよう。前著で発揮された、人と人との距離が通り一遍な感じになっているのが残念です。それでも、作者らしいと思わせるのは、新品の服ばかり着せられている少女の親に、皮膚を傷めることになりはしないかと気になるものの切り出せない。思案するハナちゃんのエピソードに生活臭が感じられて、よかった。些細な1コマが記憶に残る。ハードボイルドって、そういうことなんじゃないだろうか。

 
  安藤 梢
  評価:B
   ヤクザに多額の借金がある幼稚園の園長が、借金の返済のための副業として探偵をやる。あらすじだけ見ると切羽詰っているが、実際には借金苦の暗い話とは遠く、明るくテンポよく話は進む。アイドルのストーカー騒動に始まり、ヤクザの捨て子、大学教授のスキャンダルと3つの事件に挑む。幼稚園という平和で日の当たる世界と、探偵という裏の世界のギャップが面白い。
 調査の依頼があれば、一日中かかりっきりになってしまう探偵業務と幼稚園の運営にはやや無理があり、副業で園の仕事がおざなりになってしまうくらいなら、手っ取り早く経営の見直しをした方がよいのではないかとつっこみたくなる。探偵をやるなら、果物屋くらいにしておいてほしいところだ(どことなく『池袋ウエストゲートパーク』の中年版のような気がしなくもない。あるいは新宿版)。最後に登場する、おばちゃん探偵えっちゃんが何ともいい味出してるキャラクターである。次回は彼女を主人公にした探偵小説を是非。

 
  磯部 智子
  評価:B+
   主人公のハナちゃんは甘ちゃんの子供っぽい男、いつもならこれだけでキライな作品になるはずが、いやいやこれが面白くて。無認可保育園の園長兼私立探偵というありえない設定で、しかもその筋の親分に生命保険を担保にした数千万の借金まで背負っている。どうなっているんだハナちゃん、それは保育園のための借金か?お人よし過ぎるよ、と思わず肩入れしてしまう。ハナちゃんが引き受ける依頼の数々をハラハラしながら一緒に追いかけながら、赤ちゃんのオムツも替えるし事件も追いかけるカッコ悪い男のカッコよさを感じてしまう。新宿が舞台ということもあって登場人物たちがなんとも濃いキャラだが、ギリギリのところでリアリティを持っている。人気歌手のストーカー、極悪山内の隠し子、大学教授の○○疑惑の3本立てだが、どれも重苦しい深みに陥るのを軽妙な筆致ですくい上げて程よき具合。甘い男の甘くない生き方、ハナちゃんの人間性が際立っている。

 
  小嶋 新一
  評価:A
   今やありとあらゆる探偵役が出尽くした感があり、探偵=保育園の園長といわれても、別にびっくりするわけでもない。ただし、その保育園が新宿のど真ん中にあって、子供の母親の大半が夜の店で働くシングルマザー、とまで凝られると、結構ひねってるねえと感じる。ミステリ書くのも大変ですね。
 園長の花咲ことハナちゃんが、借金に追われ、やむなく副業の探偵で走り回る。僕はもともとハードボイルド系のミステリが大好きだから、ついついこの手の私立探偵小説にはマルをつけてしまうが、どうだろう。ミステリとして冷静に見ると、謎解きの部分など結構甘い面も目についたりする。
 だから、この小説は人情ばなしとして読むべきなのだ。厳しい現実の中で生きる決して強くない人間たちに、ハナちゃんはついついおせっかいを焼いて、説教を重ねる。ほのかな希望と、人間への愛を感じる。この小説の読みどころは、そこだ。
 作中の登場人物がハナちゃんを評して「あなたって、牧師みたい」と語る言葉が実に印象的。

 
  三枝 貴代
  評価:C
   主役も重要な脇役もシリーズキャラクターなので、とっつきにくいかもしれません。しかし女性に大変人気のある作家さんなので、目を通してみるのは悪くないと思います。文章が荒れているのは、売れているが故の量産の結果なので、広い心で対処してください。
 柴田さんの作品には、同性愛、近親相姦、売春、ストーカーといった風俗紹介的な要素が強くあります。初期の桐野夏生のようですが、桐野さんの描くミロが異端の側にすぐにも転がりそうな不安定さを持っていたのに対して、柴田さんの描く人物はそういった異端風俗を常識の側から見るのです。凡庸な人間が異端を見て論評説教するといったスタンスは週刊誌的で、一定のニーズがあるはずなのですが、従来そういった小説は主に男性向けノベルスとして供給されてきました。柴田さんはニーズがあるのに少ない女性週刊誌的風俗小説を提供する数少ない作家なのです。本作も、ジュエリー、グルメ、芸能人、育児といった、女性好みの要点を押さえて、常連のお客さんに期待通りの商品を出す手際が実に手慣れていて見事です。西村京太郎とか内田康夫といったような、消費財としての小説作家としては、完成形に近いと思います。
 ただ、もし柴田さんが桐野さんの『OUT』に相当するものを書きたいと願うのならば、桐野さんより安定しているがゆえに、そこへ踏み出すのがかなり困難だろうなあと思うのでした。

 
  寺岡 理帆
  評価:B+
   新宿の無認可保育園の園長兼私立探偵・花咲慎一郎シリーズの3作目。課題が出されて慌てて前2作を読んだのだけれど、テンポのよさであっという間に読了してしまった。シリーズの味を一言で言うなら、ハートウォーミングなハードボイルドミステリ?(笑)
 今回は長編だけれど連作中編のような形式で3つの事件が起こる。命の危険を冒して活躍するというよりは、わりと頭と体を使って情報を集め、真相を探る、という「探偵」小説に重点を置いたイメージ。
 主人公の花咲がとにかくおいしいキャラなので、それだけで愉しんで読める。何たって新宿二丁目の無認可保育園の園長で、“ウラ”の仕事ばかり抱えてしまう探偵で、ヤバいヤクザに生命保険が担保の借金を抱えてるんだもの!
 出来のいいエンタメなので、気軽にハードボイルドを愉しむには最適かも。

 
  福山 亜希
  評価:B
   ハードボイルドの面白さがいっぱいにつまった一冊だった。花吹慎一郎を主人公としたシリーズ物で、私自身は初めて読むのだが、人情に厚くて男くさい探偵ハナちゃんが、一生懸命事件を追う姿はとても素敵だった。カリスマ歌手に沸き起こるストーカー騒動にホモ疑惑と、話題と事件には事欠かない一冊で、流れるような展開に、読むスピードもどんどん速くなった。主人公は、ハードボイルドを体全体で表現するような探偵でありながら、保育園の園長も兼任するという設定も可笑しい。子育てに熱く、事件の解決にも熱く、本の帯も熱い文句でいっぱいだった。ハナちゃんのような友人がいたら面白そうだなと、読む方にも色々と夢が膨らんでくる一冊だった。