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勝手に目利き
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文庫本班

家、家にあらず
家、家にあらず
【集英社】
松井今朝子
定価 1,995円(税込)
2005/4
ISBN-4087747522
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  安藤 梢
  評価:C
   女って恐い。「大奥」というドラマが話題になったが、まさにあの世界である。14歳で叔母のいる大名屋敷に奉公することになった瑞江が、女だらけのどろどろした世界(もちろん苛められる)で成長していくというストーリー。起こった殺人事件よりも、女の本性の方がよっぽど恐ろしく、どこか事件は霞んでしまう。大体、犯人は半分くらいからよめてしまうのだ。外様大名のご主人様は国元へ帰っており、留守中にこんな事件があって大変だろうなと、他人事ながら心配になった。ただ、話があっちこっちにそれていき、途中だれてしまうのが残念である。もう少し絞った内容で、短くしてもよかったのではないだろうか(けっこう厚みがある本なのだ)。逆に、瑞江と叔母の浦尾との会話が少ないのも気になる。この本では、仕事か結婚か、女の幸せとは・・というテーマが根底にあり、そういう悩みは今も昔も変わらないのだな、と思う。

 
  磯部 智子
  評価:B
   ある種の雰囲気がある時代ミステリ。行間から鬢付け油が匂いたち、妖しさうごめく女ばかりの大名家の奥御殿が舞台。北町奉行所の同心の17歳になる娘、瑞江が御奉公に上がるところから物語が始まる。御年寄の「おば様」浦尾がいるもののそこは魑魅魍魎とした「言葉の端々にどんな針が隠されているか」わかったものではない世界。瑞江と一緒にのぞき見る楽しみも人が殺されるまでの話、不穏な陰りが一気に現実のものとなる。一方、瑞江の父、笹岡伊織も謎の心中事件を追ううち…。一件無関係に見える大名屋敷内と江戸市中の事件が繋がる時、瑞江の秘密も解き明かされていく。「美しい化け物」と形容される歌舞伎の立女形、荻野沢之丞も登場しおどろおどろしい雰囲気を盛り上げるが、作家の歌舞伎に対する造詣の深さが反映し正体が知れぬ危うさと1本スジの通った役者像が見事に絡み合う。細部に至るまで手抜かりが無い緻密な時代描写に暫し異世界に誘われます。

 
  三枝 貴代
  評価:A+
   同心の娘・瑞穂は、母が亡くなったのをきに、「おば様」と呼んできた浦尾のつてで、二十万石の大名家・砥部家の上屋敷奥に勤めることになった。瑞穂が屋敷にあがって一月後、下屋敷に住む藩主の生母・貞徳院につかえる女中が、役者と相対死にして発見される。瑞穂の父はその死を不審に思って調査を始める。やがて上屋敷の奥でも不審な死が。
 印象に残る殺人事件から物語は始まります。大奥と比べて規模の小さな大名家の奥なので登場人物数が整理されており、密室的な要素もでて、本格ミステリとして絶好の舞台となりました。が、そういうお話ではなく、家と血、その時代に女性であることの意味について問う物語です。江戸時代の、役者の世界、大名家の奥、八丁堀同心の暮らしという、それぞれに異なる世界がしっかりと描かれていて、興味深く読め、勉強にもなります。さらに最後には、女性の職業に対する誇りが見事に描かれ、胸打たれる、読み応えのある作品となっていました。

 
  寺岡 理帆
  評価:B
   時代もののミステリーって今までまったく読んだことがなかったわけじゃないのだけれど、ここまで本格的なのは初めて読んだかも。非常に愉しんで読めた。
 瑞江と一緒に未知の世界である大名家の奥御殿にドキドキし、気がつくと一緒に事件に巻き込まれている感じ。女同士の世界のかくも美々しく陰険なことよ(笑)。まるでドラマ「大奥」のよう(未見ですが…)。瑞江自身の秘密にはわりと早くから気がつくけれど、事件の真相は全然わからなかった。
 時代ものってわりと敬遠されがちだけれど、これはミステリ要素が強いし、奥座敷の世界を垣間見るような楽しみもあるし、さらに文章が非常に読みやすいので取っつきやすいかも。少々厚いけれどとくに分厚いというわけでもないし。
 普段時代小説に馴染みのない人にも、自信を持ってオススメできそうな一冊。

 
  福山 亜希
  評価:B+
   時代小説でありながら、ミステリー要素がふんだんに盛り込まれた、純粋に楽しめる一冊だった。エンターテイメントとして、とてもお勧めだ。
物語は江戸の町奉行の同心の娘・瑞江が、大名屋敷の奥女中として奉公に出るところから始まる。その奥御殿の権力者であり、瑞江の母の遠縁でもある浦尾が、瑞江の父を説得して奉公に出させたもので、本人も嫌で嫌で仕方がないのだが、その独特の環境で彼女は賢明に働いてみせるのだ。そして次々と事件が起こり、瑞江も持ち前の好奇心の強さからどんどん事件に深入りしていくのだが、ミステリーとしての物語の展開の他にも、独特の価値観を持った時代背景や、奥御殿のドロドロとした女同士の戦い、また、事件に巻き込まれていく女形の人気役者の登場など、見所が満載で全く飽きさせない。私は特に、女形役者の台詞まわしが、リズムがよくてとても好きになった。魅力的な登場人物と物語の舞台の特異性が、面白さをどんどん引き出している。映画やドラマといった、映像でも見てみたい一冊だ。