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白いへび眠る島

白いへび眠る島
【角川文庫】
三浦しをん
定価 660円(税込)
2005/5
ISBN-4043736037

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  浅井 博美
  評価:C
   以前紹介した三浦しをん氏のデビュー作、「格闘するものに○」はおもしろかった。彼女にしか書けないだろうし、彼女に書く意味があると思った。未だ古い因習や、伝説の残る孤島に帰省した少年の周りで数々の「不思議」が起こっていく。少年と兄弟のちぎりを交わした島に残っている少年、はたまた謎を握ると思われる神主の息子などを巻き込んで繰り広げられる少年の冒険物語─というのが本書の概要だ。本書の他に著者の小説は「月魚」しか読んだことはないが、どちらの著書もうまくまとまっているし題材も厳選されているのだろう。しかしつまらなくもおもしろくもない、というのが正直な感想だ。さらーっと読めるし、不快感も覚えないのだが、3日後には確実に忘れている。三浦しをん氏のエッセイはかなりおもしろい。毒々しさや、独特の視点、愛すべきへなちょこぶりなど、若手の作家の中でもエッセイのおもしろさはピカイチだろう。小説はそれらの素敵な要素が生かされていないように感じる。よそ行き仕様にしすぎていて、近づき難いのである。

  北嶋 美由紀
  評価:C
   いろいろな要素がミックスされすぎて、おもしろいような、わかりづらいような……。ビデオもケータイもちゃんとある現代という時代設定でありながら、閉鎖的で時代錯誤ともいうべき感覚の中で濃密に関わり合う村人達の島。冒頭から不可解でおどろおどろしい雰囲気が漂う、そんな島に帰省する18歳の悟史を主人公に村の風習がからむ。悟史はいわゆる「見える」体質なのだが、「あいまい」が許せない性格だ。この島全体が「あいまい」に満ちている。人が他人と生活していく上で必要な「あいまいさ」を受け入れることで悟史は自分を見つめ直して成長するが、この島の「あいまいさ」は「神秘」とはまた違っていて、結局何だったんだ?という感想が残る。「持念兄弟」も今ひとつ説得力に欠ける。悟史と光市はかたい友情で結ばれているということで十分だろうし、むしろ持念石パワーとして登場すべきだと思う。
 弓をひいて邪を払うのは源氏物語の世界か、伝統行事のようだ。オカルトでもホラーでもさりとて青春小説でもない、強いて言えば、便利で神秘性のなくなった現代だからこそ、因習との亜空間に異次元めいたものができるのだろうか。思わず「死」とか「魂」のことを考えてしまった。
 この作者ならではの発想─トボトボ歩くカミサマが印象に残ったのが唯一のおもしろさだった。

  久保田 泉
  評価:B
   高校3年の前田悟史が、お盆に久しぶりに故郷の拝島に帰省した。悟史を迎えたのは、悟史を誰よりも分かっている幼なじみの中川光市と、13年振りに大祭を控え、多くののぼりがはためく荒垣神社の神域の森だった。島の人々はそのご神体を白蛇様と呼んだり荒神様と呼び、丁重に祀っていた。そんな中、悟史は母親から聞かされる。「…あれが出たの」と。古い因習にのっとり、持念兄弟と呼ばれる悟史と光市は何かが起こりそうな予感にかられる。黒い人影、島に戻れるはずのない次男坊の荒太、祭りの時期に入り込んだ外部の人間犬丸。小さい時に“不思議”を見る能力のあった悟史は島で「あれ」を見る。そして又特別な能力も戻ってきた。島で過ごしたひと夏に、悟史と光市は、とても遠く深い場所で謎めいた冒険をし、穏やかで自由な友情で繋がる。なんとも不思議でミステリアスなストーリーはまだ初々しい三浦しをんならではの魅力がつまっている。

  林 あゆ美
  評価:C
   高校最後の夏休みに、主人公、悟史が拝島に帰省した。島では13年ぶりの大祭を控え、空気が高揚しているが、島が肌にあわなくて離れた悟史にとって大祭だからと浮かれるものは持っていない。しかし「あれ」が出たとなると……。
 排他的になりがちな島の生活を、ある意味疎んでしまう悟史の気持ちはよくわかる。住んでいる人間を誰もがよく知っている中で暮らすこと――それを安心と受け止めるか、窮屈に感じるか。いっそ、安心しゆだねられればどんなに楽か。狭い社会だからこそ、そこを窮屈に感じ始めると疎外感は大きい。
 風景も心理も丁寧に描写され、美しく仕上がっている。疎外感も理解できる。狭い土地での閉塞感もリアリティがある。どれもが、きちんとしていて、それぞれ物語にほしい要素がきちんと配置されている。しかし、私が物語にほしいと思っている、これが書いてあればいいやと思えるものがなかったのがさみしい。

  手島 洋
  評価:D
   三浦しをんはこういうものも書くのか、と意外だった。高校生の悟史が夏休みに地元の拝島に戻り、体験する不思議な出来事。中、高校生向けライトノベルといった感じのファンタジー。謎の怪物、白蛇、島独特の因習、不思議なパワーをもつ石、などが登場し、非常にわかりやすく話が進んでいく。そういえば、昔、横溝正史の「大迷宮」とか「幽霊鉄火面」とか読んだりしたなあ、と関係ないことを思い出してわくわくした。でも、読み進めるうちに、どんどんその高揚感は消えてしまった。
 よどみなく進んでいくストーリーのたくみさに比べて、主人公の男の子と幼馴染の少年がさわやかすぎる。男子高校生って、もっとアホだし、どうしようもないものじゃないだろうか(そこがよかったりするのだが)。他の登場人物たちの中にも共感できる人物は皆無だった。人物に厚みがない。もう少し、主人公の妹や父親を活躍させてほしい。そうでないと、主人公の大人への自立、というテーマも生きてこない気がする。地元の人々や生活に魅力を感じながらも、自由を求めて旅立とうとする、主人公の葛藤がすごく弱いのだ。

  山田 絵理
  評価:C
   舞台は今も古い風習にしばられる拝島。高校生最後の夏休み、島に戻った悟史は「持念兄弟」といわれる光市や家族、島の住民に温かく迎えられた。ところが生まれ故郷である島に、いつも違和感を覚えてしまうのだった。13年に一度の大祭に集落が盛り上がる中、恐ろしい怪物“あれ”が出現したとの噂がかけめぐる。幼いころから不思議を見続けてきた悟史は、光市と一緒に島の不思議にまきこまれていく。
 田舎の習俗が好きな私は、閉鎖的で独特な雰囲気に満ちた拝島やお祭り、まつられている神様に興味津々なのだが、どうも話の展開が重たく感じられて、読み進めづらかった。
 著者が一番書きたかったのは、島になじめない悟史の、よりどころのなさからくる不安定な気持ちや、光市との特別な友情についてだったと思う。でも拝島の不思議をはじめとしていろんな要素が作品にてんこ盛りなため、それらが埋もれてしまった気がしてならない。三浦しをんさんのデビュー作やエッセイは大好きなだけに、ちと残念……。

  吉田 崇
  評価:B
   面白かったです、これ。著者の作品はこないだ読んだ『格闘する者に○』とこの2作品しか読んでいないので正確な所は判りませんが、この人、技術的にいろんな小説が書けるんだろうなと想像します。
本土とは異なる不思議な因習の残る拝島、そこを舞台にライトノベルめいたキャラクター達がアニメっぽいストーリーを生きる。「持念兄弟」だとか「持念石」だとかの設定、何かを参考にしたのかどうか知らないが、とにかく一つの世界を作り上げる作者の力量には感心した。島の内部の描写も精密、かつ的確で、ストーリーの土台としての世界設定がしっかりとリアルな為に、ぐいぐいと物語に引き込まれていきます。
何となくどこかで聞いたことのあるようなキャラクターですが、犬丸が好き。併収の『出発の夜』が、だから、じんと来ました。

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