年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

バルーン・タウンの手毬唄

バルーン・タウンの手毬唄
【創元推理小説】
松尾由美
定価 735円(税込)
2005/5
ISBN-4488439047

商品を購入するボタン
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  浅井 博美
  評価:A
   こんなに冷静な判断を下せる「妊婦」には初めてお目にかかった。わたしは妊婦になったこともないし、ごく身近な人が妊婦になったこともないと断った上で言うが、妊婦という人達は独特の空気感をまとっているように思われる。妊婦自身は幸福感や自己犠牲であると思っていることも、他者には自己満足や開き直りとしか受け取れず、複雑な気持ちになることがある。そんな非妊婦(こんな言葉あるのだろうか?)側から妊婦がどう見られているかということをシニカルな視点から描いているというだけで、本書はかなりおもしろい。加えて本書の舞台は人口子宮が普及した近未来にあえて自然分娩を希望する女性たちのために設けられた特別区、通称「バルーンタウン」という場所なので、登場人物のほとんどが本物の「妊婦」を見るのがはじめてという設定なのだ。ものすごくひねくれたものを感じて、うれしくなる。本書は立派な推理小説なので様々な事件が起きるが、もちろんすべてが妊婦がらみ。「亀腹」なんて言葉はじめて聞いたし、それが事件に関わってくるなんて!本書は、SF推理小説と称されることも多いらしいが、わたしにとって「妊婦」こそが十二分にSFそのものであった。

  北嶋 美由紀
  評価:C+
   シリーズ3作目である。前二作ではバルーン・タウンの住人であった、探偵役の暮林美央は、現役妊婦を引退し、回想を含めたバルーン・タウンに関わる謎解きに挑む4短編である。人口子宮なる便利なものが存在する(もちろん未来社会の設定)にもかかわらず、(昔ながらに)不自由でキツイ9ヶ月をすごし、“お腹を痛めて”出産しようとする妊婦達の保護区がバルーン・タウンである。つまり、この世界では、妊婦自体が特異な存在で、バルーン・タウンは異世界、不可解な世界なのだ。
 松尾由美の作品には幽霊やら話す椅子やら不思議
なものが多く登場する。この作品はそういった意味ではSFの類かもしれないが、「妊婦ばかりが暮らす町」という以外はふつうである。
 妊婦の世界の話であるから、胎教に悪そうな無惨な死体がゴロゴロ転がるわけもなく、大きなお腹を抱えて犯人追跡で走り回るわけでもない。「ちょっとした事件」が主流である。
 実はこのシリーズを読むのは初めて、というか、このSFチックな設定が好きではなくて今まで避けていたのだが、4編読むうちにズボラな女性探偵に親近感を覚えてしまった。
 出産経験のある女性にはよりおもしろく読めるだろうが、男性はどうなのだろうか。

  久保田 泉
  評価:B+
   未来の日本の出産は人工子宮全盛で、昔ながらの出産を望むような物好きはほとんどいない。通称バルーン・タウンを除いては。この奇抜な設定だけで座布団5枚はあげたいが、そこで2度の出産を経験した妊婦探偵(!)の暮林未央が鮮やかな推理でバルーン・タウンでおきた謎の事件を解決していく、となると期待感は一気にふくらみ座布団10枚(いらないだろうが)は差しあげたい! 物語は、新聞記者で大のミステリー好きの友永さよりが、おいしいお弁当を餌に、自称引退した元妊婦探偵未央にかつてバルーン・タウンで経験した事件を語ってもらう形で進む。事件といってもおどろおどろしいモノはないが、謎はしっかり謎になっていて、ふーんと感心したり、ニヤッと笑ってしまう。何より、人をくったようでいて、ひとたび推理となるとピタッと周波数が合い名推理を披露する未央のキャラクターが楽しい。マニアックな赤木かん子さんの解説も是非読んで、倍お楽しみ下さい。

  林 あゆ美
  評価:B
   のどかに楽しめるコージーミステリ。舞台は近未来の日本、バルーン・タウン。そこは人工子宮全盛の中、昔(!)ながらに十月十日を待って子を授かる女たちを集めた保護区のこと。みなが、まぁるいお腹をかかえて済んでいる所で起こる事件を、同じようにまぁるいお腹をかかえた妊婦探偵が解決していく。さて、どんな事件?!
 お腹にもう一人の命が入っている時は特別な時間。自分の体でも思うようにならない時に、同じような人たちが周りにいたら心強いだろうな、おもしろそうと思い読んだら、期待を裏切られず、おもしろかった! 随所にある妊婦ならではのユニークな伏線がたまらない。とがり腹やら亀腹と描写されているお腹を読んでいると、私の時はどんなだったろうと思い起こすが残念ながら覚えていない。しかし、お腹の形までもが、重要になってくるミステリなんて、それだけで楽しくなるのは、やはり元妊婦だったから? 
 連作短編はいずれも一話完結。どこから読んでもオーケー。本書ではじめてバルーン・タウンをのぞいた方は、シリーズをさかのぼって楽しんでみては。

  手島 洋
  評価:B
   一風変わったコージーミステリー、バルーン・タウン・シリーズの第三弾。妊婦たちが集まって暮らすバルーン・タウンで繰り広げられるミステリーだ。最初は文章の軽いタッチに、創元推理文庫からこんな作品が出ているのか、と驚いた。妊婦たちの間で繰り広げられるユーモアたっぷりのかなり軽いミステリーだからだ。
 しかし、読みすすめるうちに、なるほど創元推理文庫らしい本だと分かってきた。タイトルから「悪魔の手毬唄」のパロディの表題作では、ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」を例に挙げながら、“見立て事件は読んでいる間はわくわくするが、後で考えると納得できないことが多くて”、などというミステリー・マニアならではの見解を織り込んでいる。話の設定がミステリーのパロディになっているだけでなく、マニアなら共感できるだろうミステリー観が随所に存在しているのだ。なんともマニアック。
 といってもミステリーに詳しくない人でも十分楽しめるのが、この作品のいいところ。パロディの対象になっている作品を読んでいなくても、謎解きも話の内容もしっかり楽しめるのです。まずはこの作品を読んで、パロディの対象となる作品を読んでみてはいかがでしょう。

  山田 絵理
  評価:B
   近未来都市東京。人工子宮を使った妊娠・出産が当たり前(!!)になった世の中で、自分のお腹を痛めて子供を産みたいという物好きな妊婦達を集めた保護区、通称「バルーンタウン」が舞台で、妊婦探偵(!?)暮林美央がバルーンタウンで起きる様々な事件を解決するという、ミステリー短編集。
 設定はSFっぽく、一応シリアスな事件が起こるのだが、どこかおまぬけだったりして、うふふと笑いたくなるのだ。だってバルーンタウンのメルヘンチックな町並みを、色とりどりのジャンパースカートで妊婦達がそぞろ歩き、やたらと迷信深かったりするのだから。また海外ミステリ小説の翻訳を生業とし、締め切り破りの常習犯である暮林美央の、奔放な性格に親近感が湧くなあと思ったら、冷静に推理を披露する場面に出くわして「へぇ〜」と思ったりして。
 要するに、気楽に楽しめるのです。このシリーズを初めて読んだ私も十分面白かった。そして読後、妊婦さんのお腹に目が行くようになること請け合いです。

  吉田 崇
  評価:B
   妊婦達の集う街、バルーン・タウン。もう、この設定だけで脱帽である。周りを見回すと、みーんなお腹がでかいのだ。その出っ張り方にも違いがあって、立派なものもあれば、そうでないまだまだ青いお腹もある、と。何だかいつでも眠たくて、でも、格好いい店員のいる乾物屋には殺到して、げ、妊婦のみなさんごめんなさい、想像するとちょっと怖いのだ。
 そんなバルーン・タウンで起こる事件を妊婦探偵(厳密に言うともと妊婦)暮林美央が解決していくという趣向のこの作品、ちっちゃい頃に読んだホームズものみたいなテイストが感じられて、○。ミステリ好きの人には、多分くすっと笑える所がもっと増えそうだから◎。そうでない人にも、何より、楽しく読めるのが良い。ま、唯一、妊婦が嫌いという人は、読まない方が良いかもしれません。
 本著、シリーズ第3作という事なので、前2作をいつもの様に読みたい本リストに書き込む。これ、今月のトップ賞です。

WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書