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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

うなぎ鬼
うなぎ鬼
【新潮社】
高田侑
定価 1,785円(税込)
2005/6
ISBN-4104768014
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  朝山 実
  評価:A
   コワモテながら親身。信頼をにおわすウラ稼業の社長に、気をゆるしかけた勝。しかし相棒は、用心しろと忠告をあたえる。「信頼するってことはなめてるってことですよ」
 ふいをつく台詞に漂うすごみ。みょうなタイトルですが、読めば納得です。
 東京郊外の鰻の養殖工場。殺風景な路地へと読者を引き寄せる。狭い箱に入れられたような居心地の悪さ。ホラーですが、お化けは出てきません。でもゾーっと背筋が寒くなる。
 借金をこさえた男が、アウトローな世界にどんどんハマっていく。いきたくねぇんだけどなぁ、そっちいったらまずいんだけど、足が向いちゃっている。ハンパな男の心の中、気の弱さがビンビン伝わってくる。感情移入するしないではなしに、いつのまにか、取立て屋をしながらデリヘルの運転者もする主人公の勝は自分なんですよね。こうはなりたくない自分。「にんげん」の愚を何重にも描きこんでいる。ちょい硬く言うと、差別が生まれるメカニズムとともに、なぜ消えてなくらないのかをあらわに描きだした重量級のエンタテインメントです。

 
  安藤 梢
  評価:C
   「うなぎ鬼」って一体何だ・・。分からないままに、うなぎの恐ろしさに震える。借金を肩代わりしてもらい、社長である千脇のもとで働き始めた倉見勝が少しずつ悪の世界に入っていくというストーリー。悪の全貌が分からないだけに、垣間見える細部から妄想が膨らんでいく。ただの模様が人の顔に見えてしまう、というように一度恐怖に取り付かれると、何もかもが恐ろしく見えてしまうから不思議だ。恐怖の元は見せずに、想像だけで恐がらせようという設定に見事にはまってしまう。体は大きいが気が小さい健(やくざのような見た目で、すぐ泣く)という、とびきり目立つ主人公をはじめとし、寡黙で謎だらけの千脇や、男を手玉に取るデリヘル嬢ミキ、と登場人物が濃すぎるのが少し重い。みんなどこか吹っ飛んでいて、普通の人が出てこない。この本全体から漂う陰湿な空気に、読み終わってしばらくはドロドロとした嫌な夢にうなされそうだ。

 
  磯部 智子
  評価:A+
   怖っ!怖っ!直接的な暴力描写が極力抑えられているのに、ぎっしり恐怖が詰め込まれ、そのくせ笑い出したくなるような滑稽さもあるとびっきり奇妙な味わいの作品。後ろからぴたりと貼りついて来るような、本当ともありえないとも言い切れないこの不気味さ。主人公は気の良い大男、倉見勝。借金の挙句一発逆転とばかりのギャンブル…お定まりのドン底の中連れて行かれた組事務所。そこで巨体を見込まれ「売掛金の回収」にスカウトされる。断れるはずなどない、臓器を売るか女房を売るかの中「地獄に仏」とはこのことだ。そしてそのうち「社長」から「黒牟」という町に日当15万でコンテナを運ぶ仕事を命じられるが…この黒牟の不気味なこと、立ち上る腐臭、うなぎの養殖場、不気味な男達、そしてホルモン屋で食べたものは一体?デリヘルの運転手もする勝が浮気心を起こした女の正体は?お人よしでちょっと弱いところがあって、柳の下にどじょうと一緒に幽霊も見てしまうような人間なら誰しも陥りそうな落とし穴。人の心の奥底に潜む手付かずの偏見や恐怖を上手く取り入れたこの作品は、最後の最後まで……私と同じ小心者ならチビります。

 
  小嶋 新一
  評価:A
   どっひゃ〜、おぞましいっすねえ。「超弩級の暗黒ミステリー」と帯にあったので、何ナニ暗黒ミステリー?と手に取ったが、なる程……と頷いてしまった。
 借金のせいでヤバイ商売に足を突っ込んだ主人公・倉見。一見こわもての大男だが、根は気の優しい小心者の彼が、社長から命じられた新たな仕事は、黒牟(くろむ)という街にある鰻の養殖会社へのコンテナ配送作業。異様な雰囲気の漂う街。1回15万円の支払い。ヤバイ荷物に違いない。近づきたくない、だが逃げるわけにもいかない。次第に倉見は、抜き差しならない窮地に転がり込んでいく。
 次、どうなる……?これ、ほんまの話ちゃうか……?怖いもの見たさで、息つく暇なく読み終えてしまった。どっかでこんな感じしたよなあと考えてみると、子供の頃読んだ怪談ばなし。図書館の隅に置かれているのを、放課後に食い入るように読んだ感じと近いのだ。
 最後に一つだけつけ加えれば、鰻好きには薦められません。僕はこの本を読んでいる間、今日の晩ご飯は鰻じゃありませんように!と祈っていたぐらいなので……

 
  三枝 貴代
  評価:D
   西原理恵子の漫画に、雨の日、ふるさと高知の道ばたを歩いているウナギと会ったという話があります。かわいいような、おかしいような、不気味なような。つまり、ウナギが歩いたり、網の上で横たわって休んでいたりくらいで怖がるのは、よほどナイーブな方ではないかと思うのです。肺魚に至っては、湖の底の粘土を日干し煉瓦にして建材にしたら、長雨の時壁からこぼれだして床でうねっていた、などという話があるくらいで。(しかしなぜ、世界不思議話を開陳しているのでしょうか、わたしは。)
 ということで、ホラーなのにあまり怖くないのは、いかがなものだろうかと思います。特に、最後に明かされる真相が、想像よりも怖くないのが致命的。最後に読者を安心させてどうしようというのでしょうか。夜、トイレに行けないようにしてこそ、ホラーじゃありませんか。わたしは怒っています。えぐいホラー映画の最後5分間の処理を見て、研究して下さい。
 主人公のキャラクターも矛盾が多く、その点でも、小説としてどうかと思います。

 
  寺岡 理帆
  評価:C
   ホラーと言うよりはミステリ。タイトルから想像できるとおりうなぎが出てくるのだけれど、このうなぎの生理的な気持ち悪さがホラーっぽいと言えばホラーっぽいか。とにかく主人公である勝に感情移入できなかったので、気持ち悪さも、恐怖も、謎に対する好奇心もあまり感じられなかったのが残念。
 想像だけでどんどんイヤな方へイヤな方へ気持が進んでいく主人公なので、次々と謎が提示され、それが少しずつわかっていって…という話ではない。一番怖かったのは主人公の後半の衝動的な行動だったりする。もしかするとその辺りがクライマックスなのかもしれないけれど、そう考えるとミステリとしてもちょっと異端?
 結局一番怖いのは見かけで根強い偏見を持ったり、いつも自分は被害者のつもりでいる世間にありふれた普通の人々…ということなのかしら? あ、そう考えるとかなり怖くなってきた…。
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