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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

サウスバウンド

サウスバウンド
【角川書店】
奥田英朗
定価 1,785円(税込)
2005/6
ISBN-4048736116

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  朝山 実
  評価:AA
   入り方が、おみごとだ。ちびっ子どもが古本屋で『あしたのジョー』を探している。それも百円均一の棚で。一揃いだと高いから。それで、いまだに力石と出会う場面は読めてないという独白がかぶる。昔と今を結ぶポイント、オヤジ心をくすぐするコニクイ演出。
 主人公は小学6年生の男の子。お父さんは、反体制を貫く“伝説の闘士”。巨体で柔術の猛者。年金の督促に来るオバサンにギロン。修学旅行の積立金に疑惑があると学校に乗り込み、新任の女教師にオルグだとちょっかいかけるわ。子供の目にはただただ迷惑この上ない。しかも日中家でプラプラ。同情するね。そんなオヤジに対する思いがまあ、いろいろ、さらにいろいろあって、終盤に逆転する。物語の常套とはいえ、子供目線の、ホントいやだろうなぁという場面場面のタメがきいていて、わかっていてもカンドウだ。ニクイね。
 もうひとつ。腰をすえハラハラ読んだのは、陰湿なイジメを受け、どうしのいでいくのか。子供の世界の問題に、大人は無力と少年はつぶやく。どこにでもある「大難問」を真っ向から描きこんでいる。ふぁいと!と言いたくなる、めちゃくちゃガッツのある小説だ。

 
  安藤 梢
  評価:B
   テンポのいい、ノリノリの小説である。主人公二郎の父親、一郎(名前もなんて安直なんだ!)は、やることなすこと常識離れしているとんでもない人物である。法律だろうが、一般常識だろうが、お構いなしである。自分の強烈な信念に従い(端からみると好き勝手やっているようにしか見えない)、国民の義務を放棄し、二郎の担任の先生にちょっかいを出したりしている。二郎への教育もその調子で、学校に行くのを「一日おきでもいいんだぞ」と言う。笑える。しかし見ている分には面白いが、自分の父親がこんなふうだったら嫌だろうな。実際、二郎の抱える悩みの大半(というか根源)は父親が普通ではないことにある。物語の後半、西表島に移り住んでから父親はますますパワーアップするのだが、まさに水を得た魚といったところだ。一家の島での生活が鮮やかすぎて、前半の東京での暮らしが霞んでしまう。島の暮らしに比重を置いた方がよかったような気がする。

 
  磯部 智子
  評価:C
   父は44歳、母は42歳の元過激派……えっこれはありえる設定か?と疑問を持ちながら読み進む。主人公は12歳の少年二郎、子供の世界も大変だ、女子はからんでくるわ、古本屋はオタクだらけで酸っぱい匂いが充満しているわ。親が離婚して、ホステスの母親と二人でアパート暮らしの黒木は、髪を染めた中学とつるんでいよいよ本格的にぐれだし、これがまた二郎達をカツアゲしてくるわ、家庭環境が理由?二郎の父一郎なんて物心ついたときから殆ど家にいる、だって彼はもと過激派のフリーライターだから……ふぅ〜とここでまた一息。国が嫌いで国民年金を払わない?払えといわれれば国民をやめるという…それから修学旅行費が高いのは業者と癒着しているはずだと学校に怒鳴り込んでくる。どうしても過激派という設定がひっかかる。型破りな父?この借り物の思想、借り物の設定が胡散臭すぎる。面白おかしく描かれているが、面白ければ無茶苦茶なコラージュでもいいのか?と素朴な疑問。で最後はユートピアかぁ…せっかく子供の世界の造形が良いのに…「父は元過激派だ。」がハチャメチャな父を描く為なら、肩透かしを食らった気がする。

 
  小嶋 新一
  評価:A
   東京から沖縄・西表島へ――南へ(=サウスバウンド)流れゆく家族の冒険譚を、夏の休日に家にこもって一気読みして、真夏の暑さ以上に自分自身がアツくアツくなってしまった。
 主人公は東京の下町に暮らす、小学校6年生の男の子。元・過激派の父親が今だに奇天烈な生き方を貫き通すので、家族みんなが振り回され、バラバラになる寸前。いくらなんでもこれじゃ時代錯誤、哀れで滑稽に最初は思えた。
 しかし、周りとの確執から東京を離れ、西表へ移り住む物語後半からは、彼の見え方が180度変わってきた。潔いぞ!格好いいぞ!手に汗握り、家族を、父親を、子供たちを、頑張れえっ!と応援していた。生きたいように生きる様が、徹底的に気持ちいい。こんな風にやれたらなあ!ああ家族っていいよな。ああ自然っていいよな。ヒトとヒトとが素直に心を通い合わすって、いいよなあ。
 日常生活やいろんなしがらみに縛られ、身動きの取れない僕らに、この小説は自由に心おもむくままに生きる夢を、強烈にまざまざと見せてくれる。ああ、圧巻至極。

 
  三枝 貴代
  評価:B
   学生運動の頃「30歳以上は信用するな」という合い言葉があったそうです。すでに30歳をずいぶんと過ぎてしまったかつての左派闘士たちは、自分の年齢とどう折り合って日々をすごしているのでしょうか。気にはなってはいたけれど、たずねてはいけないことのような気がした物語が、ここに大笑いで展開されています。
「生涯においてただの一度も左翼でなかった人間は人間味がないが、だからといって一生左翼である人間はただの馬鹿だ」といったのは、いったい誰だったか。いやあ、馬鹿のすがすがしさ、めいっぱいです。しょうがないなあと思いつつ、その挫折しない姿につい拍手を送りたくなります。信用できないと思っていた相手をまねて生きるしかなかった多くの人々と違って、手探りでも、自分で30歳以降の生き方を探せた彼を、笑ってすませてはいけませんがね。

 
  寺岡 理帆
  評価:A
   面白かった! とにかく言うことやることがむちゃくちゃで元過激派な父親・一郎、このキャラクターが強烈。義務教育も納税も認めず、息子の担任教師に手紙やFAXを送りつけ、定職には就かない。絶対こんな父親だったらイヤだ。誰もがそう思うはずなのに、本を読み終わった頃には何故か、こんな父親ちょっといいかも…と、きっと誰もがそう思ってしまう。そういう風に不自然でなく話を持っていかれてしまう。
 主人公である小六の二郎がまた、こんな小学生いそうだなあ、というリアルさ。『空中ブランコ』もそうだったけれど、この、ホントにいそうなリアルな人物と、絶対こんな人間いないだろうという破天荒な人物を、同じ舞台に自然に立たせているところがすごい。この辺りが物語をぐっと面白くさせているんだろうな。
 第二部で舞台が唐突に移ったときはちょっと戸惑ったけれど、あとはもう、一気読みだった。

 
  福山 亜希
  評価:B
   主人公は、小学校六年生の長男、次郎。長男なのに次郎というへんてこな名前をつけた父親は元過激派だ。普通の会社員勤めをしたことは一度もないし、同じ様に破天荒な母親に囲まれて、次郎の人生は大きな転換期を向かえる。父の周りにうようよしている可笑しくて危険な大人たちに、次郎に目をつける不良中学生など、彼の身の回りには危険な因子がこれでもかというくらいウヨウヨしている。そして、彼ら家族は南の島へと移住するのだ。南の島へ移住すると、それまで家でゴロゴロしているだけだった父親も、伝説の過激派時代を髣髴とさせるように動き始める。税金は払わない、学校なんて行かなくても良い、国なんて大嫌いという、完全な無政府主義者の毎日は、見ていて羨ましくなるくらいの自由に溢れ、そして冒険に富んでいる。自由への憧れと、冒険心を掻き立てる一冊で、思わずおなかに力をこめながら読んでしまうような、ドキドキ感が素晴らしかった。
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