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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

ロズウェルなんか知らない
ロズウェルなんか知らない
【講談社】
篠田節子
定価 1,785円(税込)
2005/7
ISBN-4062130068
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  朝山 実
  評価:B
   いわゆる村おこし物語。読み出して、著者名を二度確かめた。篠田節子とは思えない、軽妙さ。これまでにないタッチです。
 ギリシャを模した野外円形劇場は、もっぱら町民のカラオケ大会にしか利用されない、ただのデカいハコ。オリンピックの頃には繁盛したが、新幹線の駅から遠く、スキー場もすたれて閉鎖、遊園地も廃墟。おらが町は冷え込むいっぽう。温泉もなきゃ地ビールもない。ないないづくし。それでも知恵をふりしぼり、青年たちは旅行会社をまわり、軽くあしらわれながらも奮闘する。しかも光明が見えかかると横槍が。甘い汁が忘れられない民宿のジジババは軒並み、改革反対。役所はおざなり。なさけないったらありゃしない。
 さあ、村を捨て町に出るか、座してくたばるか。跡取り息子たちがとった選択は、もはややけっぱち。村そのものを、トンデモな不思議ランドに仕立てしまうという奇策。地方事情の深刻さと、おもいつきが思わぬ騒動をうむハチャメチャさはリアルだしおもしろい。しかし、480ページはどうか。さすがに後半だるく息切れ。スリムにしてもよかったかも。

 
  安藤 梢
  評価:B
   何だか変なタイトルだなぁ、と思い、装丁から勝手にSFだと勘違いしていた。読んでみたら一風変わってはいるものの、現実的で切羽詰った(だからこそ笑える)話だった。どたばたコメディというのが一番近い。出てくるのは宇宙人ではなく、過疎の町、駒木野町で村興しに奮闘する元若者たちである。元というのがポイントで、そもそも過疎の村には若者はおらず、40間近でも若者になってしまうのである。何とか町に人を呼ぼうと、様々なイベントやツアーを企画するのだが、その悪戦苦闘ぶりが面白い。必死なだけに的外れであり、笑える。何かしなくてはいけない、という時に行動を起こせるフットワークの軽さが、この元若者たちの救いである。転んでもただでは起きぬというか、藁にもすがるというか、追い詰められた人間の底力が頼もしい。
 それにしても何より驚いたのは、福島県の「UFOの里」がモデルとなっていたことである。思いっきり他人事として読んでいたが、地元ではないか・・。

 
  磯部 智子
  評価:B+
   価値観の対立、これがなかなか実感のある話ばかり。過疎の町を救うのが目的か、そんな町に埋もれ風土にどっぷり取り込まれた自分達を救うのか目的か、青年団というにはいささかとうのたった靖夫たち元若者が、町おこしに立ち上がる。首都圏から最も近いスキー場だった駒木野は新幹線と高速道路で事情が一変、最寄り駅から車で1時間…民宿も土産物屋も閑散とし、2030年には人口ゼロの推計を受けて、あの手この手で客を呼び込もうとするが…6時間かけて夜行バスでスキー客がやってきた時代を生きてきた親父世代には通じるはずもなく、そんな殿様商売を批判する靖夫たちが、やっとのことで呼び寄せた宿泊客に思いつく限りのサービスをした挙句、事後アンケートでは今更ながら自分達も彼らにとってはズレまくりなのを再認識。それでめげて引けるような状況ではなく、UFO(それでこのタイトル)、座敷わらし、この際なんでも客寄せパンダ、やってくるのはマトモな客ばかりではなく……軽快に描かれたこの物語を、最初から整えられた対岸にいて人事の様に笑ってばかりはいられない。ラストに見えたもの、一瞬不意をつかれ…読後は爽快。

 
  小嶋 新一
  評価:A
   ひとことで言えば「オカルト式・町おこし奮闘記」。スキー場の撤退で過疎化に拍車がかかる駒木野町。このままでは、と青年クラブのメンバー(「青年」と言ってもみな30代後半だが……)が立ち上がる。知恵を出し合い、手弁当で観光客の誘致を目指すが、民宿も観光施設も現代のサービス水準から取り残された駒木野町のこと、あっけなく暗礁に。
 そんな行き詰まり状態を一変させるのが、村へ流れ着いた軽佻浮薄な男のアイデア「四次元地帯・駒木野」。きわもの路線にとまどう青年クラブも、目に見えてあがりはじめた成果に、次第に町全体をまきこみオカルト路線を推し進めていくが……。
 行政や保守派とのぶつかり合いや、マスメディアからのバッシングなど、次々と起こる問題に立ち向かい、町おこしを成功させていく熱血物語。実に痛快。ただ、その中にも、現代の抱える過疎問題やマスコミ批判が内包されており、考えさせられた。無策なのに問題が起こったときだけ責任を突きつける行政の姿勢、スケープゴートに殺到するマスコミの「正義の味方」ぶりには笑わせられたが、実は深刻な問題。笑ってばかりもいられないよなあ。

 
  三枝 貴代
  評価:B
   爆笑村おこし小説。超常現象を売り物に、なにもない田舎に観光客を呼ぼうという企画顛末です。
 作家(とその旦那様)の元の職業が地方公共団体の職員であるのと、元々良く下調べをして書く方だということもあって、ディテイルの正確さ、いかにもな老人の反応など、この企画を本当に誰かがやったのかと思わせるほどリアルです。登場人物もそれぞれ欠点と弱さがあって、いかにも実在していそう。お見事です。もちろん、現実は作り事より魅力がないわけで、そのリアリティが、作品の奇妙な魅力のなさの原因ともなっているのですが。うーむ、残念。
 しかし。超常現象を徹底的に笑いのめす内容に、これまでのこの作家の作品制作態度との矛盾がうまれそうだと思った心配は、杞憂に終わりました。不思議なことに対して、寄りかかりすぎず舐めすぎずの、あいかわらずの見事な距離感は、作者の、謙虚で冷静な人柄をあらわしているように思えます。

 
  寺岡 理帆
  評価:A
   篠田節子は、やっぱり安定して上手いなあ、と思った。もう、作品にすっかり心を預けて安心して読めるような感じがする。そして、予想通りの展開で進む物語なのに、まったく飽きることなく読み進めることができた。
 安楽死するしかないと言われる過疎の町を何とか再生しようとする青年クラブ(30代後半くらい)のメンバーたち。過去の栄光を忘れられず自分を変えようとしない年寄りたち、協力を望めないお役所、そして町に住むことになったトリックスター的な存在の鏑木。自分たちが作って転がし始めた小さな雪玉がやがて大きな雪だるまと化して思わぬ事態をひきおこす…結構シビアな展開になったりもするのだけれど、全体的にどことなくユーモアが漂っている。まあ、町おこしの手段が「日本の四次元空間」だもの。こういう事態を笑えない自治体はたくさんあるのだろう。けれど少なくとも、こんなに地元の若者に愛されている駒木野は、大丈夫な気がした。

 
  福山 亜希
  評価:A
   物語の舞台はひなびた地方の観光地。温泉は出ないし、特産物はない。ゴルフ場も計画倒れで誘致できず、唯一の観光資源であったスキー場も、駅から遠過ぎて人がよりつかなくなってしまった。息も絶えだえのその観光地に残されたのは、時代についていけなかった老人達と、倒産寸前の民宿。この土地を捨てて働きに出るか、起死回生の新たな観光業を創り上げるか。追い込まれた男達は、廃墟寸前の観光スポットを利用した、ミステリーツアーに、最後の望みをかけた。UFOやお化けが出るという噂を流し、そういうキワモノに興味を示す若者を中心に、口コミで話題を拡げることで、徐々に人が戻り始める。
私自身も旅行先では、日本全国どこも同じ様な観光スポットに少し飽き飽きとしてき始めているところであったから、普通なら人がよりつかなくなるような「怖い噂」を流して人を集めるこの手法には興味を持った。旅先にエキストラを仕込んで、思いがけない素敵な出会いを演出させたりとか、まやかしでも良いから、そんな楽しさを提供してくれたらと思ったりしたこともあったので、観光客が行く先々に驚きの仕掛けを準備しているこの物語に入れ込んで読み上げてしまった。
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