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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

月下の狙撃者

月下の狙撃者
【文春文庫】
ウィリアム・K・クルーガー
定価870円(税込)
2005/7
ISBN-4167705044


  浅井 博美
  評価:C
 大統領夫人がある暗殺事件に巻き込まれた。まさに暗殺を企てようとする男と、彼女を守るために奔走する男、二人の男の複雑な気持ちが交差して行く。彼らにはお互いに人には言えない過去、壮絶な苦しみを強いられた子供時代が存在する。その様な似た境遇だからこそ生まれるお互いへの近親憎悪や同族意識、反発やいたわりなど様々に絡み合っていく二人の生き様が興味深い。
しかし非常に魅力的であるとされる大統領夫人の描写がいまいちで、2人の男が人生をなげうっまで、彼女に狂っていくという魅力の片鱗を見いだすことが出来なかった。
しかも彼女の夫の大統領がステレオタイプなアメリカ人の良い人、まるで阿呆のように描かれていて、そのあたりが物語全体を軽くしてしまっている。つまらないわけではないので、なおさらに詰めの甘さがおしいと感じてしまった。


  北嶋 美由紀
  評価:B+
 最後まで退屈せずに読めた。映画「ボディーガード」との類似が宣伝される文句に「期待薄」とふんで読み始めたが、全く違っていた。あえて言えば、人間くさいサスペンスというか、恋愛から政界陰謀まであり、途中この話はどこで終わるのか不安になったほどだ。
 一人の女性=米大統領夫人をめぐる二人の男がメインである。一人は彼女の身辺警護をするボー。もう一人は彼女を殺そうと狙うモーゼス。当然、善人と悪人、敵同士なのだが、二人とも別の意味で魅力的だ。立場は反対だが、二人は相似であり、深いところで理解し合えるものを持っており、奇妙な友情すらある。最近この手の小説ですっかりおなじみの「幼年時代の暗い過去と心の傷」付展開なのだが、本書では「またかよ〜」とウンザリすることはなかった。父親の愛を知らないボーとモーゼスに対して、父の保護から逃れたい大統領の姿もある。ボーの上司で日系の女性の部屋の様子などはおそらく外国人の考える日本そのものだったり、シークレットサービスが警護をしない時は何の仕事をしているかわかったり、別の楽しみもある。

  久保田 泉
  評価:B
 ドラマチックなストーリーと、読み手の心をつかむ上手い配役、物語の前半と後半でテンポが変わるのも、読み手を飽きさせない。 個性溢れる、対立する二人の主人公が魅力的だ。一人は、優秀なシークレット・サービスの特別捜査官ボー・トーセン。元不良少年で、母親とけんかして家を飛び出た時、行きずりの男に母を殺されたという過去を持つ。もう一人は、冷酷な暗殺者ナイトメア。爆弾魔の祖父に、地下室に幽閉されて育つという過去を持つ。彼には、更に過酷な過去があり、う〜むまたもや…と思わぬでもないがストーリーの重要な核となる部分だ。 この二人が皮肉にも同じく愛した女性が、トーセンが警護するアメリカ大統領夫人ケイト・ディクソンだ。冒頭の、ケイトの父で元副大統領の暗殺未遂から、大統領夫妻の不仲、政界の黒幕の大統領の父、謎の団体NOMan、映画のようなキャスティングと話の展開はとてもアメリカ的。問題の根は深く暗いのに、同時に単純で明快なのだ。面白いけれど、余韻がないとも言える。

  林 あゆ美
  評価:A
 かっこよくて、ロマンティックなサスペンスストーリー。
 ドンパチもいいし、ノンストップのサスペンスもいい。でも、時にはロマンティックな話もいいと素直に楽しめた1冊。
 とはいえ、かっこいい男と美しい女がでてくるだけではなく、暗殺の標的である夫人も、暗殺者も護衛するシークレット・サービスも3人3様、過去に暗い影をひきずっている。しかし、人物造形がいい意味でわかりやすく、魅力的に描かれていて、読後感がいい。誰しもが過去に暗いものをもっているのかもしれないが、暗殺者ナイトメアの抱えているものの重さは深い。その重さが、彼の人生により陰影をあたえ、残酷なのだけど惹かれる人物にうつった。後半はホワイトハウスがらみのサスペンスで白熱してくるが、ハラハラさせられるだけでなく、人間のもっている善きものが大事に描かれていて読んでよかったと思える。

  手島 洋
  評価:C
 ファーストレディと彼女の父を狙う狙撃者とシークレット・サービスの戦い。帯に「映画ボディガードのようなスリルとせつなさ」と書いてあるが、まさに、映画的なストーリー展開。登場人物たちの過去のトラウマ、ストーリー展開といったなにもかもが、実に映画的に分かりやすく、めまぐるしく展開されていく。読んでいて飽きないし、最後まで読まされてしまう本ではあるが、話の都合が良すぎるし、後に残るものがない。
 狙撃者を天才的な力をもつ男にしてしまったために、対抗する主人公も当然、同等の力をもつ人物になってしまい、突出した力をもつふたりが他の登場人物から浮きまくっているのも問題があるように思える。最後に主人公と狙撃者の対決が待っていると予想がついてしまうから、それまでのアクション・シーンは軽く読み飛ばしてしまった。大統領の父もかかわるNOManの秘密、狙撃者の悪夢のような少年時代のエピソードもそれぞれすごい話なのだが、こういう話に組み込まれてしまうと、意外性を持たせるためのエピソードとしか思えず、驚きが感じられなかった。純粋に娯楽作品を楽しみたいという人にはそれで十分かもしれないが。

  山田 絵理
  評価:B
 前半は、シークレットサービスの特別捜査官ボーと護衛対象である大統領夫人、そして彼女を狙う暗殺者ナイトメアとの3人の関係と対決、後半は一転して、ある政府機関の大統領選挙にからむ組織犯罪に巻き込まれ、手も足も出なくなってしまったボーが、どのように不正をあばいてゆくのかが本書の読みどころ。
 ストリートキッドであったボーが、過去を乗り越えシークレットサービスの護衛官になり、高潔に生きる姿に惚れ惚れしてしまう。自分の見たこと聞いたことのみを信じ、孤独な戦いを続け、危機一髪でファーストレディの命を救う。そりゃかっこいいよ。彼女と一時親密そうになるのも無理もない。彼の叶わぬ恋の切なさを思うと、ますます素敵に見えてしまうわ!
 原題は「悪魔の寝床」。これは暗殺者ナイトメアのエピソードから来ているものだと思う。もしかして彼が主人公なのだろうか?彼の生い立ちは悲惨そのもの。同情はするけど、だけどどうしてもボーの影に隠れて、霞んでしまう。ああ、ごめんね、ナイトメア。

  吉田 崇
  評価:C
 すごく微妙だけど、今月の一番はこれ。といっても、全て評価Cなんですけどね。
あのー、特に目新しい物はありません。どれもこれもどっかでみた様な聞いた様な、だって帯に「映画『ボディカード』のようなスリルと切なさ」なんて書いてあるんですよ、あの映画を評価しない人が読んだら、けっ、と言って絶対にこの本は買わないでしょう。
で、けっと言いながら読み始めたのですが、前半はとにかくたるい、この手のストーリーって腐るほどあるんだなぁと変な関心をしながら読んでくうちに、この作家の上手な事に気付きました。つまんねぇなぁと言いながらも、ページをめくるスピードは落ちません。やがて、主人公と好敵手とさらに相対する組織などが出てくる頃には、結末までほぼ一気読み間違いなしです。脇役なのに急に人間味の出てくる大統領にも好感が持てますし、ですから当然、『ボディカード』のようなロマンスは無し、要りません。
これ、シリーズ化しないかなぁ、期待度80。

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