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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

ハミザベス

ハミザベス
【集英社文庫】
栗田有起
定価480円(税込)
2005/7
ISBN-4087478408


  浅井 博美
  評価:A
 表題作はわたしにはいまいちだっだけれど、一緒に収録されている「豆姉妹」が最高だった。
ある日突然アフロヘアにしなければならない気持ちに陥った妹と、肛門科の看護士をしていたけれど、「今やっていることとプレイ大差なかった。それで給料は三倍なんだって。」という理由でSM嬢に転職してしまった姉が二人で暮らす家に、突然おねえ言葉で話さずにはいられなくなった従兄弟の少年が居候として飛び込んでくる。
奇妙な生活を描く風変わりな小説かと思いきや、しっかりした青春小説なのが興味深い。「わたしは何者になるべきなのか?何が出来るのか?」そんな漠然とした不安を抱えている高校生であるアフロ妹の描写が特にすばらしい。最後に彼女なりの結論を見つけることが出来るのだが、その課程、そう思い立った瞬間の描き方にうなってしまった。ああ、わたしもこんな感じだった、と。ここまでリアルに青春の焦燥感を思い出せる小説はちょっとないと思う。


  北嶋 美由紀
  評価:B+
 タイトルの由来を探るべくページをめくる。ハミザベス登場までに文章のおもしろさにはまっていた。
 表題作と「豆姉妹」の2編だが、どちらも主人公の視点で書かれているわりには感情的部分が少ない。そっけなくて無愛想とも思える文体で、妙にサッパリとした母娘関係や家族関係が語られる。ドロドロしたものは全くないが、冷淡でもなし。おしつけがましさがないのがよい。
 表題作では、通常ならショッキングなこともまるで他人事のように淡々とした語り口で進む。「豆姉妹」でも世間一般的にはどうかと思われるような家庭環境も本人は全く気に留めず、自然体で受け入れている。主人公がとてもまじめに真剣に自分と向き合う様は好感が持てる。何の変哲もない、ごくありふれた日常のようで、実はギクリとすることだらけの内容だ。よく考えると、登場人物のほとんどが、ちょっと一般の感覚からはずれている。ユニーク(すぎるかも)だが、変に飾らない、騒ぎ立てないスッキリとした存在だ。教師との面談場面(豆姉妹)をはじめ、会話なども爆笑ものでありながら、決してふざけた感じなないし、明るくさわやかでおもしろかった。

  久保田 泉
  評価:C
 不可解な題名と、本から漂う純文学系の香りを嗅ぎ取りつつ、読み始めた。ハミザベスとは、ハムスターの名前だった。中川まちるは、二十歳の誕生日を前に、望んだわけではないが、顔を見たこともなかった父の遺産のマンションをもらい、父の同居人だった女性からハムスターをもらう。まちるは33階の西日の強いマンションで一人暮らしを始める。話の内容が難しいわけではない。まちると、まちるの母、元恋人の友人や、父の同居人との会話が主だ。短い会話だけで何ページ分もある。一つ一つは笑ってしまうものもあるが、組み合わさっていくとつかみどころが無い。そしてそのまま終わる。もう一作は「豆姉妹」。こちらはもっとつかみどころがない!看護婦からSMの女王に転向した姉、突如脈絡なくアフロにした高校生の妹、オネエ言葉を話し、義理の母に恋する義理の弟。この会話の分からない絡まり方が魅力なのか。何が起きたのかあらら?と分からないまま読了…。

  林 あゆ美
  評価:B
 ドラマティックなことを形容詞いっぱいに書くことの対極にある作品だと思う。日常をあらわすのに、くどくない形容詞で、特徴的な風景にみせてくれる。ん、でも、主人公のまちるが1歳の時に別れたばかりの父が20年後に亡くなり、不動産とハムスターをもらうのは、日常に「非」が若干つくかも。タイトルの物語は、思い出もなく、ほとんど知らないといっていい父親からもらう、大きな贈り物(不動産)と小さな贈り物(ハムスター)の話。
『ハミザベス』というタイトルをみたとき、なにかの呪文かしらと思った。読んでいて、なーるほど、うまい!とうなる。私も今度何かの時にまねしてみよう。もうひとつ入っている作品は「豆姉妹」。「ハミザベス」も「豆姉妹」もグリム童話かなにかにでてきそうなタイトルで、読み終わったあと心に残るのは、あれこれのシーンではなく、こうした何げなくでてくる単語だ。その独特さには、あほらしと笑ってしまうユーモアもあり、ちょっとくせになりそうな味がある。

  手島 洋
  評価:C
 表題作は、突然、マンションとハムスターを遺産として受け取ることになった母子の話。その遺産の贈り主が、母からずっと昔に死んだと聞かされていた父だと聞かされる娘。おまけに父と同居していた女性からハムスターまで受け取ることになってしまう。不思議なことが次々と起こるし、登場人物たちは、みんなそれぞれ、いびつな人生を送っているのだが、それぞれが自分の人生を淡々と受け入れて生きている様子が描かれている。全然リアリティのない、とんでもない話なのに、現実的な状況を描いた作品であるかのように読めてしまう。そのギャップは読んでいてなかなか楽しかった。しかし、いしいしんじ氏の解説にあったようには笑えなかったし、ハミザベスというネーミングにも特にセンスは感じなかった。畳○畳敷きなんて話は笑えないだけでなく、何で入れたんだろう?という疑問がわくばかりだった。正直、そういう部分が何ヶ所かあって、のりきれないところがあった。それって、笑いのセンスの問題なんだろうか。

  山田 絵理
  評価:A
 なんというか実にあっけらかんとした小説だ。登場人物達の意外な設定に驚き、話がどんどん思いもよらない方向へ転がってびっくりする。
「ハミザベス」では、今まで会ったこともなかった父が死に、まちるは父と一緒に住んでいた若い女性からハムスターと遺産のマンションを譲り受け、そこに住むことに。更年期障害に苦しむ母。突然の明らかになる出生の秘密。「豆姉妹」では、看護婦だった姉が突然SMクラブの女王様に転職。姉にそっくりの妹は、そんな行動に戸惑いを隠せない。そしてなぜか衝動的に髪型をアフロにする。
 こう書くと余談を許さないような展開になっていきそうでしょう?確かになってゆく。でも、読後は「ふーん」という感じ。他人から見るとずれているように見えるけど、本人にしてみればいたって普通の日常なの。そんな風に描き出してしまうこの作者って、いったいどんな冷静な観察眼を持っているのやら。不思議だ。
 それにしても印象は強くないのに、この作風にははまるし面白い。他の作品も読みたくなる。

  吉田 崇
  評価:C
 ひと言で言うと、ヘンチクリン。決して、悪い意味ではない。
 タイトル作と『豆姉妹』の2作品から成る本書、一風変わった登場人物達が、それでも必死に真面目に生きている、そんな物語。何かが始まる様でもなく、どこかに行き着く訳でもなく、ただただ、途中をぶった切って差し出されたかの様なそんな感じ。ま、色々想像できる楽しみがあるから良いんだけどね。
 とは言え、やたらと情報量の多いこの頃では、この作品の中にある『ヘンチクリン』な部分は、実はさほど新味のあるものでもなく、「日本の現代文学ってみんなこんな感じかな、ふっ」と溜息ついたりもするのだが、個人的には大爆笑ポイントが2カ所あり、それでかろうじてこの評価。
 あんまりさらっとしすぎるのもどうかと思うのである。

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