年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

ぶたぶたの食卓

ぶたぶたの食卓
【光文社文庫】
矢崎存美
定価500円(税込)
2005/7
ISBN-4334739059


  浅井 博美
  評価:A
 山崎ぶたぶたさんという人は、本当にステキな中年男性なのだ。料理上手で思いやりがあり、ウィットに富んでいる。妻と娘二人の良き夫であり、良き父でもある。
そして「ぶたのぬいぐるみ」でもある。
すごくステキな人がたまたま「ぶたのぬいぐるみ」でした。それが何か?というテンションで進んで行くのがいつもながら本当に気持ち良い。様々な人が「ぶたのぬいぐるみ」であるぶたぶたさんに癒しを求め、なんらかの救済を得ようとする。でも待って欲しい。ぶたぶたさんは文字通り傷ついた人達の「愛玩動物」なのだろうか?という踏み込んだところにまで本書では迫っている。
ちょっとばっかり人より多くの苦労をして来た賢い人は、自身の多めの経験の引き出しの中から、悩んでいる人に的確な助言をしてあげることが可能だろう。そんな人があなたの周りにもいるはずだ。しかし引き出しが多くて優しいだけであって、彼にも彼の人生がある。割り切った考え方が出来るからって苦労やしがらみを感じない超越した人間ではない。本書を読むと、そんな賢い彼らにも休息の場が訪れることを強く願わずにはいられなくなった。

  北嶋 美由紀
  評価:B
 “ぶたぶたがぽむっと手を叩いた”“「まかせて」胸をぽむと叩く”──ぶたぶたは薄ピンク色のバレーボールくらいの大きさのぶたのぬいぐるみである。だから手も胸もポンとは叩けないのだが、この「ぽむ」の響きが何ともよい。“ぶたぶたは眉間ーではなく、点目間にしわを寄せて……”ンー可愛い! 
 山崎ぶたぶた。妻と二人の娘を持つ料理上手な中年男。会社員だったり、失業中だったり、カフェの雇われマスターだったりする。「ぶたぶたシリーズ」は初めてで、知らなかったのだが、西澤保彦氏の解説によると(ちなみに彼は私の大好きな作家で、ぶたぶたファンとは、いかにも彼らしい)ぶたぶたは様々な転職、転生を繰り返す謎の存在であるらしい。(刑事ぶたぶたは読んでみたい。)彼の料理はとてもおいしそうだ。特に二度おいしいチャーハンはぜひ食べてみたいものだ。彼は決して特別な能力を持っているわけではない。人間そのものが丸ごと好きで、私達がぬいぐるみを抱きしめて癒されるのと同様、ふんわりとやわらかい感触で包み、癒してくれる。単に可愛い存在ではなく、真剣に向き合ってくれるのだ。町で見かけたら、家に連れて帰って「夫」にしてしまってもよいかなと思うほど。
 4編の連作だが、「ここにいてくれる人」が一番よかった。

  久保田 泉
  評価:A
 私、個人的に“ぶたぶた”さんの大ファンです。ぶたぶたさんが、大好きです。それがなんでかは、延々ここで語りたいところですが、それにはまず“ぶたぶた”さんの話を、一度読んでもらはなくては始まらないのです。彼の外見に関して詳しく語るのは、どうか勘弁してください。名前は“山崎ぶたぶた”。もちろん本名です。彼は、心優しき中年男。4つのエピソードにはそれぞれ軸になる登場人物がいるが、そこに颯爽と(?!)現れるのが“ぶたぶた”さん。実際はリストラの憂き目にあい、失業中のぶたぶたさん。けれど彼は料理名人。今回のお話には、美味しそうな料理がたくさん出てくる。祖母の思い出のチャーハン、採りたてアサリのボンゴレ、キャラメルのガレット、遠い記憶を呼び起こすかき氷、それらが少し心が疲れてしまった人々の人生とぶたぶたさんを引き合わせ、ありそうでどこにもない、ぶたぶたさんの物語になる。読んで元気が出てきたら、シリーズものなので是非そちらもお読み下さい。 


  林 あゆ美
  評価:B+
 ――薄ピンク色のバレーボールくらいの大きさで、右側がそっくり返った大きな耳と突き出た鼻――
 これがぶたぶたさんの描写。チャーハンをおいしくつくり、その腕で料理の講師をしてみたり、雇われマスターになったり。おいしい食べ物で、人の心をほぐしてくれる人。人? いや、ぬいぐるみ? そのどちらでもあるぶたぶたさん(見た目はぬいぐるみで、中身は中年男なの)は、その存在が不思議なオーラをはなっている。最初は、なぜにぶたぶた?とクエスチョンマークいっぱいで読んだのだが、ページを繰っているうちに、その存在を自然に受け入れた。なんだか、読んでる私にとっても、親しみがわいてくるキャラクターなのだ、ぶたぶたさんは。ぬいぐるみだから、年をとらないとか、ずっと同じというわけではなくて、少しずつの変化はあり、その変化が物語に深みをあたえている。私の友だちも、朝顔をこよなく愛するくまたんと一緒に暮らしていて、ときどきその暮らしぶりを見せてくれる。偶然にもぶたぶたさんと同じ恵比寿出身のくまたんのことを思いながら、このぶたぶたさんの話を読んで、その夜おいしいチャーハンをつくった。

  手島 洋
  評価:B
 これぞ超癒し系という一冊。ブタのぬいぐるみにしか見えない中年男性、山崎ぶたぶたが悩める人の心をおいしい料理と控えめな言葉で癒してくれるという驚きの話なのだ。短編集の中の4つの話はすべて悩める人たちが主役になって、ぶたぶたが脇役なのもいいバランスだ。決して、出すぎた真似や、無用な説教をすることなく、それでいて人生のほろ苦さをそれなりに知っている中年ならではの渋い発言もでてくる、という至れり尽くせりなキャラクター。その上、普通とは一味違うチャーハン、あさりのボンゴレ、クレープを食べさせてくれる。実際にこんな人がいたら(怖いけど)みんな癒されてしまうはずです。
 これだけの魅力があれば、ストーリーなんて、つけたしのようなものだが、あえて言わせていただくと、どの短編も最初はかたくなに自分の殻に閉じこもっている登場人物が、心を開く瞬間がちょっと唐突過ぎる。そんなに安易にみんな「いい結末」にもっていかなくても、という気がしてしまった。ぶたぶたはそんな人生のほろ苦さもきっと分かっているはずだから。

  山田 絵理
  評価:A+
 ぶたぶたさんの大ファンとして、新作が読めて本当に嬉しい。ほっとするストーリーも、暖かな作者のメッセージも大好きだ。
 登場人物は普通の人々、しかもちょっと頼りなさそうで、心にすきま風が吹いている。そんな彼らの前に、ピンク色のぶたのぬいぐるみである「山崎ぶたぶた」氏が突然現れる。そして一緒に時間を過ごしているうちに、元気になってしまうのだ。
 でもぶたぶたさんは別にすごいことを言っているわけではないし、魔法を見せるわけでもない。ただぬいぐるみの如く変わらずそこにいるだけ。なのに彼が見守っているだけで安心するし、言葉は素直に耳に入ってくる。
 今回、ぶたぶたさんはプライベート面で大変だったらしく、失業していたり雇われマスターだったりと、ころころ職が変わっていて面白かった。そしてぶたぶたさんの作る料理のおいしそうなこと。おいしい料理は元気が出るものね。
 余談だが、この本はプレゼントに最適だと思うのです。私はもう2人にあげました。でもこの本を置いている本屋さんはそう多くなくて、残念。 

  吉田 崇
  評価:C
 実はこのシリーズ、文庫班の採点員応募の際、前作の『ぶたぶた日記』を書評したせいで、何だかやたらと懐かしいのであった。結構気に入って、周りの人間に読め読め言って廻って、その結論、心の純粋な部分のない人には、実は案外読みづらいお話なのかもしれない。一種の試金石だと思うので、心して読むべし。主人公は外見ぶたのぬいぐるみ、中身渋めの中年男性。悪い人は出てこないし、ほろっとする部分もどっちかというとベタで、ファンタジーと書いてはあるが、それらしい意外性はない。『心優しい登場人物達の心温まる交流、こんな内容、普通の人間だけでやられたらこっ恥ずかしい事この上なし。でも、ぶたぶただったら許せてしまう』と、僕は以前書いたのだが、そうか、ぶたぶたでなかったら、このお話一切成立しないのだと気付く。とは言え、僕は心が純粋なのでこの評価。DとかEの人はまとも過ぎる社会人で、AやらBやらつけた人は、あわわ、他の採点員に喧嘩を売りそうなので敢えてここでは何も言わない。
 完成度は前作、ただし本作で出てくる食べ物には妙にそそられる。ダイエット中の人は読まない方が吉。

WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved