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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

NHKにようこそ!

NHKにようこそ!
【角川書店】
滝本竜彦
定価580円(税込)
2005/6
ISBN-4043747020


  浅井 博美
  評価:C
 「ひきこもり」という、今では一種の人種としてくくられている部類に生息している青年。大学中退の上、4年の「ひきこもり」生活を一人っきりで送っている主人公の青年の妄想と現実の繰り返しで構成された物語だが、人間誰でも妄想するし、人が怖かったり会いたくないと思うことだって当然ではないか、と思ってしまうのは、わたしは立派な「ひきこもり」予備軍だからなのか。著者は本当の「ひきこもり」さんで、あとがきを読むと現在もいまだ「ひきこもり」、しかも本書で力つきて次の小説が書けないでいるらしい。彼の考える「ひきこもり」さんたちに必要なモノは何だったのだろう?本書において「ひきこもり」君を外に出す役割を担っているのは「岬ちゃん」という色々なトラウマを負っている不思議少女なのだが、本書の「ひきこもり」君は彼女に必要とされたから外にでる気持ちになったのだろうか?自分一人の努力ではどうにも出来ないのだろうか?全国の「ひきこもり」さんみんなに「岬ちゃん」がいるわけではない。彼のような状況で「岬ちゃん」のために外にでるのは至極まっとうな人間のすることだと思う。もう少しリアルな「ひきこもり」さんの気持ちが知りたかった。


  北嶋 美由紀
  評価:B
 本書のNHKの意味するところは知っていたので、勘違いのオドロキはなし。予想していたほど陰鬱さもなし。かといって、スゴク感動!というほどでもない。ただ、笑えて、呆れて、ちょっと同情もしながら読むのみである。ラストはまあチョッピリよいかな……家族と同居してのひきこもりとはまた別なのだろう。少なくともこの主人公には就労意欲はある。順応できないだけなのだ。だから心地よい架空の世界へ現実逃避する。巨大組織が存在していてほしい、という主人公の願いは、自己責任によって今の自分があるわけではない、という逃げの理論である。神様に不幸の責任を押し付けられればと願う岬の想いと共通する。思うようにいかない人生つらさ、幸福などそうころがっているわけもない現実への不満、自殺願望と隣り合わせの日々、本当は苦しくてたまらない自分をごまかす毎日、他人から見れば怠けでも本人はつらいのだと訴える姿は、作者が実体験を元にしている分、説得力もあり、馬鹿にして笑ってばかりもいられない。大した助けにもならない後輩と先輩の存在もそれなりに貴重であるし、デキの悪い主人公より優位に立っていると思うことで自分を慰める岬との関係は、やたら愛を叫ぶ恋愛小説より好感がもてる。

  久保田 泉
  評価:D
 この本は、現在進行形のリアルひきこもりが書いたひきこもり小説だそうだ(2001年の段階では)。今はニートらしいが、まだひきこもっているのか定かではない。
 主人公はひきこもって4年、大学中退で無職の佐藤。自分を取り巻く不幸は、すべて悪の組織NHKの陰謀だ!という誇大妄想に取り付かれた男のじたばた一人芝居が続く。他にかなり壊れている後輩や、かなりバランスを欠いている美少女などが出てはくるが、佐藤の独壇場。
 私は作者の言うひきこもり小説を初めて読んだが、どの辺りをもってそう指すのかさっぱりよく分からなかった。それに主人公は、ひきこもりじゃない人でも躊躇するような、怪しげな宗教の集いに勧誘員にゴリ押ししてまで出かけるし。引きこもってないじゃん! はちゃめちゃなようで、終わり方は大分普通。私なりの結論…小説界においては、ひきこもりじゃない人の方が過激だと思う。

  林 あゆ美
  評価:B
 NHKってあの(?)NHK?と思ったら……。
 ひきこもりアクション小説! という本の内容説明に、「ひきこもり」と「アクション」という相反するように思える言葉に、何が書いてあるんだろうと期待してページを繰る、繰る。確かに、そこには、ひきこもりの大学中退22歳無職男がいました。で、アクションは?と思いながら、またページを繰る。でも途中からそんな捜し物をしなくても、物語にハマリました。そして、ぷぷぷと一人笑いごちながら、ひきこもり生活に非常に親密さを感じ始めました。ふつうに生活するのと紙一重の世界が描いてあって、若さがぴかぴか光っていないけれど、その世界のリアルさに「読んで損はありません」。
 世の中、くらくておもしろくないことがゴロゴロころがっているけれど、もしかしたら隣の人が同類で、おかげで違う世界が開けるかも、なんて適当なことを考えて楽しく読了しましたです。

  手島 洋
  評価:D
 本当にひきこもり生活を体験した著者が書いたひきこもり小説。マンガにもなっているようで、その筋の方々には人気のある作品みたいです。「ニート」という言葉もすっかり日常的に使われている今、「ひきこもり」は大きなテーマだとは思う。しかし、この本にはぜんぜんついていけませんでした。オタク文化に精通した本格派な人しか、ついていけない作品なのか、私がオヤジすぎるのかはわかりませんが。
 ひきこもっていると、外部との接触が異常に怖くなるというのは納得できる。しかし、妄想が暴走にかわってわけの分からない行動にすぐ走るのは安易すぎるし、暴走の描写が無意味に長すぎる。単純に長く書けば、すごい暴走だった、ということにはならないと思う。同じアパートに住む後輩と繰り広げられる暴走の数々に、何が話の中心なのかよく分からなくなったし、読んでいて苦痛だった。でも、それがひきこもりする人間の心理なんだよ、といわれればそういう気もするし、そういう話の展開が有名なアニメ作品かなにかのパロディにでもなっているのかもしれない。ひきこもりを体験した人からの感想を読みたいものです。

  山田 絵理
  評価:B+
 新聞広告でこの本を見かけたとき、てっきり“NHK”について書かれた新書だとばかり思っていた。不祥事に揺れるNHKのイメージアップを図るべく書かれた本だと。手元に届きライトノベル系のイラストが描かれた表紙を見ても気づかなかった。実はとんでもない思い違いをしていたことに。
 引きこもりになり大学を中退した俺は、この状態を脱しようともがいていた。健全な社会生活を営みたいのに、外出することさえも、誰かに悪口を言われているようで苦しい。そこでハタと気づく、これは“NHK”の陰謀だと!(NHKが何の略かは本書をどうぞ)
 話自体は本当に馬鹿ゞしくってしょうがないだけど、俺のつらい気持ちがわかってしまう上に、おかしくってたまらなかった。社会的に精神的に追い詰められる気持ち、倦怠感、未来への不安に恐怖、云々。おまけにひきこもりだ。ネガティブな要素が満載なのに、妙に明るく展開するのは何故?最後、世をはかなむのではなくって、「ぼちぼちとがんばってみる予定」となる。大変だけどなんとか生きていく。こういう話、大好き。


  吉田 崇
  評価:C
 読みたい本リストの中に結構昔から書いてある『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』、何だか本読むスピードが遅くなったもんで、未だ読んでいない。本書は、その著者の第2作目。とりあえず、この表紙はどうなんだい? と、文句をつける。なんか、いい大人がレジにもって行くには気が引ける様に思うのですが、みなさんはいかが思われますか?
ドタバタな前半、結構ぐっと来る後半、ちょっとバランスの危うい気もするが、引きこもりという設定の一人称小説であれば、その方が逆にリアルか。ちょっと悪ノリ気味の前半をニヒルに乗り切る根性があれば、最後のシーンにすがすがしさも感じられる事でしょう。
あのー、こういう事を書くと多分みなさんの反感をいっぱい買うだろうから、勇気を振り絞って書くのですが、本好きなんて、「ひきこもり」の先駆けみたいなモンじゃないですか、で、僕は結構共感できました、はい。

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