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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

サマー/タイム/トラベラー

サマー/タイム/トラベラー(1・2)
【ハヤカワ文庫JA】
新城カズマ
定価693円(税込)
2005/6
ISBN-4150307458
ISBN-4150308039


  浅井 博美
  評価:C
 こいつらこそが本当のオタクであり、「ひきこもり」だろうと思う。「NHKにようこそ」の大学中退の上、4年のひきこもり生活を一人っきりで送っている主人公の青年よりも、である。
ある地方都市に生活している「天才高校生集団」5人の中に、時空を飛べる力が発覚した少女がいた。その能力を最大限に引き出すべく3人の男子高校生と2人の女子高生の一大実験が始まる。このような大筋に加え、文中には様々なタイムトラベルに関する書物や、作家、研究者などの固有名詞が登場して、少年少女たちがそれについて話し合う。わたしがSFの知識(その他もだけれど…)を持ち合わせていないことを差し引いたとしても、それらは何とも疎外感を感じさせる描き方だった。オタクの方々がガンプラやら、エロゲーやらについて「一般人に理解されなくて良い!」と開き直ってお話しされている構図と全く同一だ。常に一般人のレベルと自分たちのレベルを意識して一般人を見下している所などは、オタクの方々よりずーっとタチが悪い。そんな頭の良い彼らなのに「大人はわかってくれない」的な叫びを随所で発していたのには、ちぐはぐな感じを受けた。頭が良いならその辺も割り切って考えろよ。


  北嶋 美由紀
  評価:B
 1,2とあって、未完かと思えば、この2巻で完結で一安心。なぜ上・下巻じゃないのかとどうでもよいことを考える。
 主人公卓人の幼なじみで、友情以上のものを感じ始めている悠有。悠有は時空を「跳ぶ」能力があるらしい。それを解明しようと〈プロジェクト〉が組まれる。構成員は卓人、悠有の他に、縦ロールヘアーのお嬢様、町の名士の孫、この夏からグループに加わった、何かとダーティーなウワサのつきまとうコージン。5人はそれぞれ影の部分も持っているが、頭脳明晰で、理屈っぽい高校生達だ。彼らが駆使する論理はわかったようで、よくわからなくて、しかし、そこが結構おもしろい。理系の思考可能な人はもっとおもしろいだろう。〈プロジェクト〉は夏休みを楽しむための暇つぶし的ゲームのはずだったが、町で頻発する放火と放火犯から悠有に届く脅迫状という現実がからんできて、5人の運命を変化させる事件へと発展してゆく。人生なんて、とタカをくくる頭デッカチの若さと、自分を想ってくれる人のいる幸せや置いてけぼりを食う不安をかみしめることになる夏休みを回想する青春SF小説(ミステリーもちょっぴり)といった感じだ。(回想文独特の表現が読みづらいところもあるが。)
「現実」から逃れるために机上の空論をぶつけ合う4人と未来を信じる悠有。「現実」を生きられなくなった悠有の兄、普通に会話をしない卓人の母、脇役も含めなかなか個性の強いキャラが勢ぞろいだ。
 さわやか青春ものではないし、現実離れもしている(SFだから仕方ない)が、いやな読後感はなかった。
 未来はなかなかのものらしいし、出てくる本をどれだけ読んでいるか数えてみるのもおもしろいかも。

  久保田 泉
  評価:D
 のっけからなんですが、この小説1.2巻じゃなくて、この内容でぎりぎりまで削って半分の長さにすれば、もっとテンポ良く読めて印象も全然変わったんじゃないかなと思う。
 高校生とは思えない老成ぶりが特徴の、幼なじみ5人組。響子、コージン、涼、悠有、そして卓人。典型的な地方都市辺里市に住む5人。なぜかみな切れものだ。正確には悠有は違うが、彼女には誰にも出来ない能力がある。時空を飛ぶのだ。それもたった3秒だけ先へ。
 こう短くまとめると面白い導入なのだが、1巻の5人の会話、地の文ともに冗長で、どうにも読むのがツラカッタ。タイムトラベル関係の本を研究するくだりは、本の紹介も兼ねて楽しく読めたのだが。どうしても思わせぶりな文体が私には長かった。しょっぱなのイラストはいらないと思う。さあ読もうと決心した私は、かえって萎えました。

  林 あゆ美
  評価:C
 中学の頃からだろうか、高校の頃からだろうか、どうして男の子はウンチクが好きなんだろうと思ったのは。知識を伝えるために、惜しげもなく理路整然とよどみなく話をする男子が近くにいたことを久しぶりに思い出した。
 この物語は、私にとってその男子と再会した気分だった。高校生5人組が〈時空間跳躍少女開発プロジェクト〉を開始する。仲間のひとりが数秒だけ時空を跳んだ。ホンモノのお嬢様である響子が「プロジェクトよ」と行動開始を宣言し、5人は時空を跳んだ超能力の分析と開発をはじめる。この資料集めが本好きにはちょっとすてきなリスト。時間旅行に関係する本をまず集め始め、おもしろそうな本のタイトルが次々あがる。それをまとめた263ページの表は未読本も多いのだけど、いつか全部読んでみたいとそそられるものになっている。と、話をもどす。SF+青春小説は、もうちょっと若かりし頃に読むとより共感したかなとというのが正直な感想。でも、最後にきちんと胸キュンとなるのは、青春小説の名残がみごとに映えているからだと思う。

  山田 絵理
  評価:B
 地方都市に住む、頭の良くてちょっと生意気な5人の高校生の男女。彼らはSF談義に花を咲かせ、およそ高校生とは思えないような高度な話題を議論し、様々なプロジェクトを計画して遊んでいる。まるで「自分たちだけが世界というシステムを良く知っている」とでも言いたげな感じで。ある日、メンバーのうちの一人だけおっとりとした悠有が、突然時空を飛んだ。そして彼女のために、新たなプロジェクトが始まる。
 彼らは賢すぎて世の中のことをわかりすぎてしまうらしい。未来が読めてしまうということは、未来が無いと言うことだ。だってわかっているから、希望なんか持てない。それが彼らの言い分。でも時空を飛べる悠有は一人未来を信じている。果してどっちが幸せなのでしょうか。
 作者は豊富な知識の持ち主らしく(雑学か?)、薀蓄を傾ける場面の多いこと。そのせいでシンプルな筋立てがごちゃごちゃしているのだが、へぇ〜とうなずけることも多く、それはそれで面白かった。

  吉田 崇
  評価:C
 わーい、ハヤカワJAだーいと、ほとんど幼稚園児の様に始めてしまうのをお許し頂きたい。実は、私、ハヤカワ文庫JA好きなのです。「SFは海外物だよな!」という周りの声におびえつつ、ずーっと、「ちがわい、JAの方がずっと小説だい!」と、訳のわからぬSF談議はおいといて、本作品、帯にある「ありきたりの青春小説」の文字には騙されない様に。だって、おれの周りには一人として、時間やら空間やらを超えてく奴はいないもん。IQが高いって事は決して、ありきたりではないだろうし、モールトンニューシリーズAMなんかを買っちゃう高校生は、はっきり言って嫌いです。
ま、かなり趣味性の高いディテールで、SF関係のタイトルとか沢山出てくるし、ちょっとした犯人探しもあり、ほんのりエロス、文体についての何気ない設定など、きっちり気配りされた小説です。けれども一番大事な、何故時を超えていくのかが、僕にはぴんと来なくて、今ひとつじんと来ない。梶尾真治の時間物短編だとかの方が切なくて好き。ていうか、最近の人々はこれくらいのさっぱり感の方が泣けるのだろうかと、ふと、考える。

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