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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

サイレント・アイズ

サイレント・アイズ(上・下)
【講談社文庫】
ディーン・クーンツ
定価1100円(税込)
2005/7
ISBN-4062751437
ISBN-4062751445


  北嶋 美由紀
  評価:C
 一度は読んでみたかったクーンツ。最近あまりアテにならないとはいえ、帯のコピーは「みんなまともな奴じゃない。」と、何とも惹かれる文句。読み始めの段階から、交互に進む二つの物語が小刻みなぶん、スピード感もあり、好奇心を煽り、正に1ページ先は予測不能状態。ただし、殺人鬼とジワジワ追い詰められる犠牲者のホラーサスペンスかとワクワクしたのは前半まで。
 殺人者ジュニアは自尊心が強く、本当にそんなにハンサムなのと疑いたくなるほど自意識過剰なところは滑稽でさえある。おまけに偏執的。彼が創り出すのは現実の邪悪な世界だ。一方、親の命とひきかえに生を受けた子供が創るのは善良な世界で非現実的。本来相容れないものを無理に混ぜ合わせてしまった感がある。登場人物も災害オタクの双子とか、元聖職者の刑事とか、単独では個性と魅力があるのだが、やたらに一つに繋がってゆくのが不自然だ。ジュニアがせっかく(?)いい味を出す悪人なのに、彼と彼を追い詰める者と、彼が狙う無垢な命を守る者との話で十分なのに、なぜオカルトめいた超常を入れるのだろうか。サスペンスタッチの古典的「善と悪の戦い」なのか、これがクーンツの持ち味なのか、神童の話は余分だと思うのは私だけだろうか。それともこちらの話のほうがメインと捉えるべきなのか……悩みながら読んでしまった。でも、ジュニアの勘違いの魅力にこの評価。

  久保田 泉
  評価:A
 分厚い上下巻(ちなみに各税別1,048円!)は手強そうに見える。しかし、一度読み出すとどうにも止まらない。毎月言ってますが、翻訳モノ横文字名が苦手な私が、次へ次へと読まされた。ストーリーとしても、そんなに得意でもないのに。読書の愉しみの一つは、新たな世界に出会って、読んで本に驚かせられること。その点がこの小説の最大の魅力。普段、翻訳ものを読まない私のような方には、新鮮さも加わりいいと思う。くせが魅力となる登場人物が多数いるが、メインキャラ達が強烈!最悪に邪悪で美男のジュニア、醜男の刑事ヴァナディアム、神童バーディ、母の不幸から生まれたエンジェル、彼らの人生が刻一刻と予測不能の出会いに近づいていく。冒頭は、いきなりジュニアが犯す最低の犯罪で幕を開ける。サスペンスなのか?心理ドラマ?と考えつつ読んでいくと、下巻佳境の辺りで意外な方向へ。うーん、SFなのか?よく分からなかったが初クーンツワールド、結構楽しめました。

  林 あゆ美
  評価:A
 疲れた。でもおもしろかった! のっけから「うそでしょ」という展開で、息つく間もなく、ひとやすみするのも惜しくて、上下あわせて5cm 以上ある本を一気読みした。肩はこるし、腰もいたくなったが、後悔はない。最後まで読まないと落ち着けないし、ページを閉じると中身が変わるわけでもないのに、結末まで読まないと安心できなかった。なので、読後は労と満足感がどどっと。これも読書の醍醐味――。
 ジュニア・ケインが最初におこした行動、それと並行しておきる、バーティの誕生など、いやはや、ひとつひとつをあげられないのがもどかしいくらい、緊張感あふれる設定だ。残酷なことを平気でする人間もいれば、そのひどさにおしつぶされない人間もいる。サイレントアイズで見えるものは何なのか。ラストがうーーんといい。ここまでひどいことがあっても、それでも生きていける力を人間はもってるよねと、まずは一番身近にいる自分に話しかけたくなる。ぜひ!

  手島 洋
  評価:AAA
 別々の場所で起こる3つの話が中盤まで、交わることなく、進んでいくため、最初は登場人物の多さにとまどった。自分の妻を殺してしまう男と彼を追う謎めいた力をもつ刑事。交通事故で夫を亡くした妻から生まれた天才児。レイプの結果生まれた子をひとりで育てる姉。どの話も悲惨で重いのに、魅力的だ。悲劇を抱えながらも愛し合い生きていこうとする登場人物たちが、ジュニア・ケインが持っているカーソン・マッカラーズの小説の登場人物たちのようにせつなく、いとおしい。こう書くとストレートな感動の物語と勘違いされてしまうかもしれないが、素晴らしいのはそんなストーリーを繰り広げる登場人物がみんなどこか歪んだ変な人物たちばかりだということだ。中でも極めつけなのは殺人鬼、ジュニア・ケイン。次々と人の道を外れた行いをする彼でさえ、もがき苦しみ(彼の中で)正しい行いをしていこうとしている姿は、一種こっけいでありながら感動的ですらある。
 男の子が、自分の悲惨な人生を受け入れる際にパラレルワールド的世界観を語るのも感動的だった。そこで感動した私は、唐突に思えるラストにも納得のひとことです。

  山田 絵理
  評価:B
 坂から転がり落ちてゆくように不幸になってゆく男・ジュニア。不幸のどん底から這い上がり、周りを巻き込んで幸せになってゆくアグネスと息子のバーソロミュー、そしてセレスティーナと彼女の妹の忘れ形見、エンジェル。彼らの幸福と不幸、光と影の対比が面白い。
 このジュニアという男は、本当にどうしようもない。自分本位な考え、恐ろしいほどの自惚れ屋。しかも女はみんな彼にぞっこんで、必ず色目を使っていると思い込んでいる。彼を中心として世界が回っているかの如く。だが、“バーソロミュー”が彼の世界を脅かす存在となると、精神的に追い込まれ、次々と殺人に手を染めていく。その病んだ様子は、読んでいてぞっとするほどだが、物語はジュニアの狂気の行動によって展開してゆく。
 でも、正直言って最後の結末が、肩透かしを食らった気がしてがっかりしてしまった。そりゃ、魔法を使えば何でもできちゃうでしょうよ!と思うのだが、こんな終わり方もありなんでしょうか……。

  吉田 崇
  評価:C
 何故だか最近、人のためになることをしたいと思っているのである。ボランティア活動なんていうのには、どっちかというと縁のない自己中心的冷血漢の僕としては、いよいよ死期が迫って、悟りでも開く頃合いなののかとちょっと楽しみなのではあるが、それはさておき、この作品、難癖つけたい所が多々あるにもかかわらず、結構面白かった。
キングの方は好きでちょっと読んでいたので、並べて評される事の多いクーンツという名前は知っていた。で、今回が初対面。「つじつま合わせ?」と感じる部分、結局さほど広がっていかないストーリー、限りなくユーモラスな悪の権化、「おいおい、まじかよ」という話のつながりのオンパレード、でも、面白い。十分、おつりが来ます。
出だしは「幻魔大戦」、そのうちミュータント物SF、とどのつまりはハッピー・コミューン物語。ああ、言えば言うほどつまらなそうになっていくのだけれど、本当、面白いんだって。小さな善行やってみたい症候群の僕には、まさにスイート・スポット。
この本を退屈に感じる人は、きっと悪者に違いない。

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